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EMPiREは“覇道から生まれた王道”のアイドルだーーシーンにおける特異性を考察

リアルサウンド

18/11/1(木) 18:00

 2018年9月4日、凛とした表情の6人が紡ぐ、〈帝国のシンフォニー〉がマイナビBLITZ赤坂に響いたとき、「これが見たかったんだ」と心底思った。EMPiREの、新たな「帝国」の幕開けだと感じたーー。

 荘厳なストリングスアレンジ、未完からの決意を表す歌詞、現代舞踊的でダイナミックな振りと芸術性を色濃く打ち出したミュージックビデオ……この儼乎たる楽曲「EMPiRE originals」の世界観をライブで表現することは、正直難しいのではないかと思っていた。しかしながら、このBLITZワンマンライブの数日前、CDショップのリリースイベントにて披露されたのを観たとき、そんな懸念は払拭された。店頭イベントでのライブ環境でそう思ったのだから、BLITZのステージであればどうなるのだろうか。いつのまにかそんな期待に変わっていた。

EMPiRE / EMPiRE originals [OFFiCiAL ViDEO]

 今年5月に、同じくBLITZで行われた初ワンマンライブは、EMPiREの“終わり”と“始まり”だった。BiSへと完全移籍するYUiNA EMPiREを含めた5人体制最後のライブであり、MAHO EMPiREとMiKiNA EMPiREを迎えた6人体制最初のライブであった。両体制が2部構成でまったく同じセットリストのライブを行うという前代未聞の内容は、強烈なインパクトと未知なる可能性を残した。反面で、初リリース直後の初ワンマンという場で、EMPiREというグループの特性を世間に知らしめることが出来たかといえば、いささかの疑問符が残ったのも事実だった。

 EMPiREは、BiSやBiSH、GANG PARADEを手掛ける事務所WACKとエイベックスによる共同プロジェクト「Project aW」にて生まれたグループである。インディーズからのし上がっていったBiSやBiSHとは違い、はじめからメジャーレコード会社のバックアップがあるエリート集団。グループ名から連想される“女帝”のごとく、「スクールカースト上位」といわれるメンバーから醸し出される“リア充”感も、これまでのWACKグループにはなかったものだ。EMPiREの面白さ、それはこれまで掟破りな戦略でアイドルの既成概念を壊してきた異端のインディペンデント、WACKが手がけるメジャーのお嬢様アイドル、いわば“覇道から生まれた王道”にあるともいえるだろう。

 さらに他グループと大きく違うのはその音楽性である。楽曲を手掛けるのは他と同じく松隈ケンタ(SCRAMBLES)ながら、パンクロックやオルタナティブロックなどの激しいバンドサウンドを軸としているBiSやBiSHとは異なり、EMPiREが聴かせるのは打ち込みのエレクトロサウンドをベースとしたダンサブルなニューウェーブだ。フューチャーやトロピカルハウスといった硬質で派手なEDMサウンドではなく、柔らかい質感を持つどこか懐かしい耳慣れたサウンドは、まごうことなき90年代J-POPの潮流にあるもの。いうなれば、一時代を築いた往年のエイベックスサウンドを現代に甦らせたような趣きさえも感じさせる。かつて、BiSHのメジャーデビューに際し小室哲哉が楽曲提供、松隈が編曲とプロデュースを手がけたこともあったが、そんな邂逅を思い出してしまうほど、「WACKとエイベックス」という双方のパブリックイメージがうまく融合している。

 4月にリリースされた、5人体制の最初で最後のアルバム『THE EMPiRE STRiKES START!!』は、テクノポップ風の「FOR EXAMPLE??」を筆頭に、アーバンな雰囲気漂う「Don’t tell me why」、ハイソでモダンなディスコチューン「TOKYO MOONLiGHT」など、90年代どころか、都会派感覚のバブリーな香りがプンプンする80年代リバイバルな楽曲が並ぶ。しかしながら古さを感じさせずスマートな印象を与えるのが本作の妙味。グリッチホップな「Black to the dreamlight」 、スケール感のあるビッグビートナンバー「アカルイミライ」など、いまどきなセンスが見事にクロスオーバーしているのである。 

懐古的なメロディと現代っぽいサウンド、EMPiREの新旧も溶け合う「MAD LOVE」MV

 今やライブに欠かせないキラーチューン「Buttocks beat! beat!」が、WACKらしいおふざけナンバーながら、他に類を見ない謎の無国籍感を放っているのも、EMPiREサウンドというべき、ニューウェーブなサウンドプロダクトがしっかりと確立されているからだろう。“カセットテープオンリー”というリリース形態もそうした音楽性と音像に見合った策といえる。<Burger Records>をはじめとしたアメリカ西海岸のレーベルや、イギリス発祥の国際イベント『CASSETTE STORE DAY』などによって、ここ数年で世界的に大きく盛り上がりを見せているカセット市場であるが、日本のメジャーアイドルが新譜をカセットのみで通常リリースした意味合いは大きいように思う。再生環境や利便性ではデジタルに劣るカセットであるが、ニッチな音楽鑑賞ツールとして、バイナルのレコードとも一味違う丸い音質と豊かな中低音の鳴りをEMPiREで体感してほしいところだ。

 そして、9月5日にリリースされたのが新体制初のミニアルバム『EMPiRE originals』である。先述の表題曲における厳かで粛々とした幕開けからの、軽快なビートに乗る伸びやかな叙情メロディ「S.O.S」。きっちりとした“女の子ボーカル”によって極上のガールズポップに仕上がっている様にハッとさせられる。エスニックな香りと人を食ったようなしゃくれたボーカルが印象的な「Dope」、オリエンタルな空気感と“和”の鼓動がぐちゃぐちゃに交錯していく「SO i YA」、とユーモラスでライブ映えを意識した2曲の茶目っ気にニヤリとし、ラストは次々入れ替わっていく歌によってじわりじわりといざなわれていく昂揚に胸が高鳴る「Talk about」。まさに少数精鋭というべき5曲であり、自己を鑑みる序盤、遊び心で魅せる中盤、そして終盤の静かなる盛り上がり、という構成は、『THE EMPiRE STRiKES START!!』に通ずる。グループ自体のコンセプトならびに作風はそのままに、振り幅を格段に広げているのである。

EMPiRE / S.O.S [OFFiCiAL ViDEO]

 ビジュアル、ボーカル、そしてトークなど、新メンバーがもたらしたものは多い。利発さ溢れるMAHO EMPiREの明るく芳醇な声は、EMPiREが誇る瑞々しいボーカルをさらに強調するものになっている。先の「S.O.S」しかり、“女性ボーカル”よりも“女の子ボーカル”という表現を用いたくなるのは、彼女によるところが大きい。対照的に、アンニュイで蠱惑的なMiKiNA EMPiREのぞっとするような眼光と物憂げで飄々とした声は、一度見聴きすれば忘れられないほどの存在感がある。2人によってより明瞭になったグループの色は、ライブはもちろんのこと、『EMPiRE originals』初回盤における、新メンバー2人のボーカルを再録したアルバム『THE EMPiRE STRiKES START!! [NEXT EDiTiON]』でも感じることができる。

 そしてやはり、オリジナルメンバーの成長は忘れてはならない。揺るぎない強い意志がみなぎるMAYU EMPiREの安定感と、実直で健気な姿勢を見せるYUKA EMPiREの安心感。精悍な容姿ながらもコロコロと転がっていく多彩な表情に目が離せなくなるYU-Ki EMPiRE。斬れ味抜群のMiDORiKO EMPiREの度胸は誰よりも頼もしい。『THE EMPiRE STRiKES START!!』リリース直前に突如発表された新体制への移行は、この先が約束されていたエリート女子がはじめて受けたWACKの洗礼であった。しかし、それは結果として彼女たち自身を強くした。

 EMPiREにはリーダーもいないし、明確なセンターもいない。だからこそ6人のバランスが絶妙だ。誰かがズバ抜けた歌唱力を持っている訳ではないが、6人の声が合わさったとき、スッとした耳馴染みの良さを感じる。

 キラキラとした可愛らしいアイドルソング、はたまたラウドなロックサウンド、複雑な楽曲展開やマニアライクな音楽性……変化球の多い現在のアイドルシーンの中で、EMPiREのようにストレートなJ-POPをきっちり丁寧に歌い踊るグループは思いのほか少ない。多くのアイドルが出演するイベントでの彼女たちのステージを観てあらためて感じたことだ。王道的な歌モノのガールズポップを求めたとき、あのWACKのグループに行き着くという意外性、それも強みであるようにも思う。WACKの中では優等生に見られがちな彼女たちであるが、外から見ればWACKイズムのはっちゃけ感も程度よく、どこか品格のある瀟洒なたたずまいは、強い武器になっていくだろう。

 「BiSHの妹分」と呼ばれることも多い彼女たち。「EMPiRE originals」の振り付けを担当したのはBiSHのアイナ・ジ・エンド。“未完成”という楽曲テーマを“不自由な右手”で表したという。その右手が“なにか”を追い求めていく中、〈完全にオリジナルに作りたい〉と歌いながら彼女たちが踊っているのはBiSHの振りだ。しかし、覚醒というべきドラマチックな楽曲展開を経た、後半の同じ歌詞では、しっかりと前を向いた姿勢へと変わっている。

EMPiRE / EMPiRE originals [NEXT EDiTiON TOUR FiNAL at マイナビBLITZ赤坂]

 5月からの新体制始動、BiSHのツアーへの帯同、夏のイベント出演、そして、迎えた9月ーー。グループ初の全国ツアーを経て帰ってきたBLITZのファイナルは、あれから4カ月とは思えないほどに、“仕上がって”いた。5月のあのときは、まだグループのアイデンティティーなど出来ていない状態だったのだから。

 もちろん、まだまだこれからのところもある。ただ、そうした“満ち足りない現在”と“必死の未来”を含め、〈帝国からの祈りです〉と歌う6人の女帝は誇らしく、なんだか神々しく見えたのだ。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログTwitter

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