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桜庭ななみが選んだ「別れ」のかたち 『スカーレット』“父の死”で浮かび上がる三姉妹の個性

リアルサウンド

19/12/31(火) 6:00

 戸田恵梨香主演のNHK連続テレビ小説『スカーレット』で、視聴者を度々苛立たせ、SNSなどでは「琵琶湖に沈めたれ」とまで言われた父親・川原常治(北村一輝)。その常治が12月25日放送回で亡くなった。

 ヒロイン・喜美子(戸田恵梨香)を家の借金返済のために大阪に働きに行かせ、給料の前借りに来たり、ようやく一人前になってきた頃には嘘をついて里帰りさせたり、いろいろな商売に手を出して失敗しては借金をこしらえたり、お金のために娘の夢を潰してきた父。家族への愛情は深く、困った人を見捨てておけない人の良さはあるが、貧乏なのにお酒はやめなかった父。

 しかし、散々嫌われ続けたダメ父が、いざいなくなってみると、「寂しい」という声が相次いでいる。SNS上には以下のような呟きが多数見られる。

【写真】喜美子と常治

「あんなに琵琶湖に沈めたる! とか言ってたのにいざ居なくなると涙止まらない存在ってお父ちゃんくらいなのでは…」
「あんなにムカついてたジョージなのに!! まんまと脚本に感情を踊らされる自分 お父ちゃん死なないで」
「個人的に過去一で嫌いな父親像だったのにどうしてこんなに涙がボロボロ流れてくるのかわからないくらいだった、なんでなの、なんでなの目を開けて」

 そして、この父の病・老い、死の受け入れ方によって、改めて明確に浮かび上がってきたのが、娘たち三姉妹の個性である。

 特に印象的だったのは、昔から下の子の面倒をよく見て、中学を出てすぐに働きに出て、一生懸命お金を貯めて父の借金の返済にあてるなど、一番強くしっかり者に見えていた喜美子が、最も父の老いや病に向き合えなかったこと。

 照子(大島優子)から常治の病状について聞いた夫・八郎(松下洸平)が、喜美子にそれを伝えると、喜美子は大声で「もう楽しいことやないやん! 悲しいことや! そんなん聞きたないわ! しんどい!」と子どものように叫ぶ。父の体調がどんどん悪くなっていることに本当は気づいていた喜美子だが、父と顔を合わせるといつも通りに大声をあげてふざけたり、悲しい話には耳をふさごうとしたりする。

 日頃は一番しっかり者で気丈に見えていたにもかかわらず、親の老いや病など、悲しい事実に正面から向き合えない喜美子の姿は、真面目で慎重で臆病で繊細な「長子」ならではの姿だった。

 父は亡くなる間際、妻ではなく、なぜか喜美子一人を呼び、頭をポンポンと優しくなでる。これは昔の家の多くがそうだったように、一番上の子を特別に可愛がっていたからということもあるだろうし、今までお金の苦労をさせてきた労いもあるだろう。また、お嬢様育ちでおっとりした頼りない妻を置いて逝くことで、娘に託す意味もあったろう。しかし、おそらく誰より臆病で繊細で子どものままの喜美子を心配してのこともあっただろう。

 その一方で、父の近くで、衰弱していく様を目の当たりにしながらも、何も語らず、かといって目を逸らさずに静かに見守ってきたのが、おっとり穏やかな「末っ子」の百合子(福田麻由子)だ。

 ずっと一家の中では子ども扱いされてきたが、父と衝突ばかりする次女・直子(桜庭ななみ)が家を出ると、かわりに父への「ツッコミ役」を果たそうとしたり、家の中が暗い雰囲気のときには和ませる発言をしたりと、常に一歩引いて家族全体を見ている。リアリストであり、空気読みであり、大人で、芯の強さを持っているのは、「末っ子」力によるものだろう。

 そして、父の最期に立ち会うことができなかったばかりか、四十九日を過ぎて家に戻る次女・直子。姉ばかりを溺愛し、頼る父を見て育ってきただけに、ひねくれたところも、姉への対抗心もあり、父とは衝突ばかりしてきた。これもまた、「真ん中っ子」あるあるではないだろうか。

 しかし、父の最期のときに帰ってこなかった直子を責めたい気持ちはわかるが、「お父ちゃんとウマが合わなかったからといって」と本人に向かって言ってしまう喜美子の鈍感さ・残酷さ。当然悪意はないが、こうしたところに直子はひそかに苦しめられてきたんじゃないかと思う発言だった。

 そして、直子が帰ってこなかったのは、「父親の言うことをこれまで全然聞かなかったから、1回くらい父が言う言葉『帰ってくるな』を聞いた」という意外な理由だったことが明かされる。しかも、直子は「一発当てるで。一発当てて楽させたる」と、目を輝かせ、父とそっくりな発言までし始めるのだ。

 最初から似た者同士で反発し、衝突してばかりいるように見えた父と次女の「別れ」のかたちの選び方も、やっぱり似ている。今際の際で、これまでと別人のように優しい顔を唐突に見せ、泣いてみせるよりも、このほうがよっぽど常治と直子の別れらしい。そして、直子は常治がいなくなり、川原家の欠けてしまった1ピースに自身がなろうとしているようにも見える。

 朝ドラでは、弟や妹がいるしっかり者の長女がヒロインになり、父が戦争で不在になった家を支えたり、自分の道を突き進んでいったりする頼もしい姿が描かれることが多い。

 三姉妹モノは少なく、すぐ思い浮かぶのは、まさにヒロインが父のかわりとなる『とと姉ちゃん』や、『カーネーション』のヒロインの娘たち、三女がヒロインとなった非常に稀有な朝ドラ『まんぷく』くらいだろうか。その中でも、「しっかり者で気丈な長女」の繊細で臆病で弱い一面を描いた『スカーレット』のリアリティに、唸らされた。

(田幸和歌子)

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