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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

『デビュー作の風景 日本映画監督77人の青春』

植草信和 映画は本も面白い 

年間鑑賞数1000本超の映画評論家による“映画入門書”ほか

毎月連載

第24回

19/9/10(火)

『デビュー作の風景 日本映画監督77人の青春』野村正昭著(DU BOOKS・2800円+税)

「作家は処女作に向かって成熟する」といったのは亀井勝一郎だった。本著は、「デビュー作には映画の初心が息づいている」と確信する映画評論家・野村正昭氏が、映画監督の“処女作”にスポットを当て、デビュー時の映画状況と作風を解説した評論集。毎月の邦洋ベストテンを発表している本サイトに連載中の「この映画がよかった!」では、以下のように氏を紹介している。

「日本映画と外国映画あわせて800本以上、年間に観る新作映画の数が日本の映画評論家のなかでも(多分)一番多いといわれているのが野村正昭さん」。また本著の帯文には、「年間鑑賞数1000本超の映画評論家による待望の単行本化」とある。

新作800本、旧作(配信、DVDなどでの鑑賞)200本というカウントらしいが、何れにしても気が遠くなる数である。

その“日本一鑑賞本数が多い著者”が、1997年1月上旬号から99年12月下旬号まで65回にわたってキネマ旬報に連載した記事を加筆訂正したものが本著だ。サブタイトルは「日本映画監督77人の青春」。

「第1章 日本映画が産声をあげた頃(戦前)」から「第8章 21世紀の映画の未来は、どっちだ(ゼロ世代)」までの、90年間に作られた新人監督作品が俎上にあげられている。具体的にはマキノ雅弘『青い眼の人形』(26)から上田慎一郎『カメラを止めるな!』(18)までの77本。連載時に物故していた戦前と1940年代の監督たちのデビュー作は資料を基に、それ以外は実際に監督本人に取材して書かれている。

すべての作品論に一貫しているのは、デビュー作に挑む若武者(とは言い難い高齢デビューの監督もいるが)の意欲と苦闘、その作品への著者の暖かい眼差しだ。ときに彼らを無視するジャーナリズム、同業者への辛らつな批判を交えつつ、デビュー作に込められた作家の深い思いを浮き彫りにしていく。それが著者の“映画遍歴”と重なり合い、読むものを映画世界へと導いていくのだ。

日本映画史を学びたい、知りたいと思う若者の格好の“映画入門書”といえる一冊。

それにしても、年間1,000本もの映画をどうしたら観られるのか、著者の私生活を知りたいものだ。

『ジャック・ドゥミ 夢のルーツを探して』ジャン=ピエール・ベルトメ著/瀧本雅志訳(水声社・4,200円+税)

『ジャック・ドゥミ 夢のルーツを探して』

2017年はジャック・ドゥミの名前が頻繁にメディアに登場した年だった。理由のひとつは、その年の冬に公開された超話題作『ラ・ラ・ランド』に影響を与えた『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』の生みの親として。もうひとつは、同年夏、ドゥミとその夫人アニエス・ヴァルダの特集上映『ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語』でふたりの監督作品五本が全作デジタル・リマスター素材で全国展開されたからだ(ドゥミ・ファンは『天使の入江』が初めて劇場正式公開されたことを喜んだ)。

本著『ジャック・ドゥミ 夢のルーツを探して』は、ドゥミ監督の全20作品(実写監督を務めたポール・グリモー監督のアニメ映画『ターニングテーブル』も含む)を、監督インタビューを主に人と作品を詳述した監督研究書。

著者のジャン=ピエール・ベルトメは、パリ第1大学卒業後、映画史・映画批評・映画美術をレンヌ第2大学で教えた映画史家(1944年生まれとあるかドゥミよりも13歳年下)。15歳の時、『ローラ』の撮影現場を目撃した著者は、成人してからドゥミに接触、何十時間もインタビューして第一版(1982)、第二版(96)を経て第三版(14)に当たる本著を完成させた。

「第1章 いくつかの道しるべとして」から「第21章  ドゥミを魔法から解く」まで全443ページの大著で、第一版から32年もの歳月をかけて完成させた世界で唯一のデゥミ研究書といっていい。巻末のフィルモグラフィーと人名索引/作品名索引は、他に類を見ない詳細さだ。

『ダンスウィズミー』のヒロインのように“突然、歌い踊りだす”ミュージカル映画が苦手な人にはおススメできないが、『ラ・ラ・ランド』でミュージカル映画に目覚めた人は一読してみてはいかがだろうか。

『黒澤明の羅生門 フィルムに籠めた告白と鎮魂』ポール・アンドラ著/北村匡平訳(新潮社・2500円+税)

『黒澤明の羅生門 フィルムに籠めた告白と鎮魂』

適切な例えとは言えないが、「浜の真砂は尽きるとも…」のごとく次から次へと出版される“黒澤明関連本”。当然ながら玉石混交、近年は疑問符つきの本も多かったので、本著もしばらく“積ん読”状態だった。

だが、「屈指の名画に秘められたメッセージ、映画史上最大の謎が解き明かされる」の帯文が忘れられずに一読したら、良質のミステリー小説のように面白く読めた『羅生門』論だった。

タイトルが示しているように本著のテーマは、ヴェネツィア国際映画祭でグランプリを受賞した名作『羅生門』に、活動弁士だったが27歳で自殺した黒澤監督の兄、丙午の存在がどのような影響を与えたかについての考察だ。

テキストは、唯一の黒澤の自伝『蝦蟇の油』と『大系黒澤明』(全4巻)。それにシェイクスピア、ドストエフスキー、芥川龍之介の諸作を援用して映画『羅生門』と自死した丙午の関係性を炙り出していく。

よく知られているように『羅生門』は、ひとつの殺人事件が多重視点・異なる証言により、真実が見えなくなるという作劇。本著はそのスタイルに倣って、複数の視点から『羅生門』に隠された真実を提示するという新しいタイプの“黒澤明研究書”。翻訳を担当した北村匡平が指摘しているように、「この書物はもうひとつの『羅生門』」(新潮社刊『波』 2019年7月号) なのである。

著者のポール・アンドラは日本文学を専攻するコロンビア大学教授。1949年生まれ。著書に『異質の世界―有島武郎論』がある。こんなアプローチもあったのかと、“眼からウロコ”の『羅生門』論だ。

『ポスター集 赤木圭一郎は生きている』諸星日出男編(ワイズ出版・3500円+税)

『ポスター集 赤木圭一郎は生きている』

小難しい評論集ばかり読んでいると、心底、“ポスター集”や“スチール写真集”が恋しくなる。タイトル・ロゴが誌面から飛び出さんばかりに躍動し、スターの眼差しが映画の生命力を湛えるポスターの数々。そこには、幾万語ついやしても文字では表しきれない“映画的愉悦感”があふれている。

本著は、21歳で事故死した赤木圭一郎の全作品のポスター (赤木圭一郎とクレジットされている出演作のみ)、ロビーカード、スチール、スナップで構成されているファン必携の“ヴィジュアル本”だ。

共演作が多かった清水まゆみ、野呂圭介へのインタビュー、フィルモグラフィーも嬉しい。

帯には「80th anniversary publication Keiichiro Akagi」とある。赤木が生きていれば、どんな役者になっていただろうかと、想像してみる。空想が際限なく広がっていく。それが“ポスター本”の素晴らしい点だ。

プロフィール

植草信和(うえくさ・のぶかず)

1949年、千葉県市川市生まれ。フリー編集者。キネマ旬報社に入社し、1991年に同誌編集長。退社後2006年、映画製作・配給会社「太秦株式会社」設立。現在は非常勤顧問。著書『証言 日中映画興亡史』(共著)、編著は多数。

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