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新レーベル立ち上げに挑戦する本広克行監督、第1弾『ビューティフルドリーマー』に込めた“押井守愛”を語る

ぴあ

20/11/5(木) 12:30

『ビューティフルドリーマー』の本広克行監督

『踊る大捜査線』シリーズのヒットメーカー・本広克行が、多大な影響を受けたと公言する押井守の原案『夢みる人』を実写化した『ビューティフルドリーマー』が公開となる。大学の映画研究会の部員たちが、部に伝わるいわくつきの台本を映画化するという本作に込めた思い、そして、知られざる押井とのエピソードなどを本広監督が語ってくれた。

本広は自ら新レーベル“Cinema Lab(シネマラボ)”を押井、小中和哉、上田慎一郎と共に設立。1960年代から70年代にかけて、商業映画とは一線を画した、作家性を前面に押し出した傑作を次々と世に送り出した映画レーベル“ATG(アートシアターギルド)”を参考にしたという同レーベルは、“限られた制作予算”のみを条件に、監督絶対主義での映画制作を謳う。なぜ新レーベルを?との問いに本広は、ここ数年、抱いてきたという危機感を口にする。

「最近、実写映画の企画が人気のアニメや漫画を原作にしたものばかりになっているんですよね。CG技術が発達し安価になって、昔は実写化が無理だと言われた作品を作れるようになってきたのも大きいんでしょうが、僕のところにくる話は全部そういうものなんです。このままじゃ、日本映画はごく小さなインディーズ映画とマンガ・アニメ原作の大作のどちらかになってしまうんじゃないかと」

そんな二極化、分断が進む状況に思い悩み、第三極と言える“中間”の受け皿を作れないか?という思いで設立したのがこの“Cinema Lab”であり、その第1弾として、本広が常々、最も影響を受けた存在のひとりとして挙げてきた押井守とのタッグが実現した。

ここからは、本広の押井との関わり合い、そして本広から見た押井の“すごさ“についてたっぷりと語ってもらう。

「最初に観た押井さんの作品は、世界初のOVA作品と言われている『ダロス』。なにやってんだ? これ……と驚いて、次に『天使のたまご』を観て衝撃を受けましたね。「意味が分からない」って言う人も多いけど(笑)、僕は“こんなすごい映画を作れる日本人がいるのか!”と。映画学校に通っていた頃、押井さんがシンポジウムに来たので、質問したんですよ。『天使のたまご』に魚が空中を泳ぐ描写が出てくるけど、どういう意味なんですか?って。そうしたら“日常を描きたかった”って。当時は全然分からなかったけど、自分がそこそこ演出の経験を積んで、後にあの作品がDVDになったときにもう一度観たら“うわっ!そういうことか”って思って、震えるほど素晴らしかったです。30年も前にそんなことを考えていたのかって」

本広の代表作で、劇場版第2弾は日本の実写映画の興行収入歴代1位を記録している『踊る大捜査線』シリーズは、押井が参加した『機動警察パトレイバー』の影響を受けていると言われる。

「でも脚本の君塚(良一)さんも、プロデューサーの亀山(千広)さんも、『パトレイバー』を観たことはなかったんです。純粋に『太陽にほえろ』のカウンターとして生まれたもので、刑事は走らない、叫ばない、殴らないというコンセプトで、作っていくうちに“あれ? これパトレイバーに似てるな”って気づいたんです。都市博覧会が開かれるはずだったのに、当時の青島知事が中止を決めたお台場にフジテレビの新社屋がポツンとあって、コンビニすらなくて空地だらけで、“ここでなにかドラマを作れない?”って言われたんですけど、これ『パトレイバー』じゃんって(笑)。ただ、当時は実写をやってる人間がアニメに言及するとオタクってバカにされていた時代でしたからね」

押井も『踊る』シリーズは観て、気に入っていたという。

「深津絵里さんが演じたすみれがいいねって言ってました。(『パトレイバー』の)南雲さんと同じような、ああいう男勝りのキャラクターが好きなんですよ、押井さん(笑)。あの作品は、なぜか庵野(秀明)さんとかも観ていて、飲み会に呼んでもらったことがありました。(『新世紀エヴァンゲリオン』のスタッフの)摩砂雪さんや鶴巻和哉さんもいて、“やべぇ! エヴァだ!”って(笑)。僕は、『踊る』で『エヴァ』の楽曲の『危機一髪』を使わせていただいてたので“すみません!”って。ビデオ化のときも、僕はあの楽曲を使いたいって言い張って、問い合わせたら庵野さんが“いいんじゃないの”って口添えしてくださったんですよ」

あらためて、押井守というクリエイターのすごいところは? そんな問いに、本広は“捨てる”技術だと語る。

「『パトレイバー』や『攻殻機動隊』、『イノセンス』もそうなんだけど、押井さんは、主人公を不在にしてしまうんです。でもそれで傑作にしてしまうのがすごいですよね。実写で、例えば『踊る大捜査線』でそんなことやったら猛反発ですよ(苦笑)。アニメだからできるのかなぁ……? いらないなら、(主人公を)書かなければいいって。それが押井イズムなのかな? 演出でも、『鉄人28号』の舞台の現場を見に行ったら、押井さんは途中で演出することをやめてる! なにをやってるのかと思ったら、メイキングを撮ってるんです。え? どういうこと? ってもう予測不能でした(笑)」

今回の映画『ビューティフルドリーマー』は、そんな本広の押井への“愛”がつまった作品となっている。特に映研部員たちが作ろうとしている劇中映画の中身を見れば、押井ファンには本広の“本気度”が伝わるはずだ。

「最初、押井さんは軽音楽部の女の子たちの話を書いてくれたんですけど、それだと僕の予算にハマらないなというのもあって、“自由にしていいよ”と言われたので映研という設定にしました。押井さんの“本当に幸せな日々を毎日繰り返すことは幸せなんだろうか?”という問いかけを描いています」

希代のヒットメーカーの新たな挑戦に注目したい。

取材・文:黒豆直樹
『ビューティフルドリーマー』
11月6日(金)テアトル新宿、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開

(C)2020 映画「ビューティフルドリーマー」製作委員会

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