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ダメ親父なのに再登場を期待してしまう!? 『おちょやん』トータス松本が見せる人間臭さ

リアルサウンド

21/1/25(月) 6:00

 『おちょやん』(NHK総合)名物とも化しているのが、主人公の竹井千代(杉咲花)の父親・テルヲ(トータス松本)の神出鬼没な登場シーンである。

 朝ドラ史上でも相当なダメ父親ぶりで、ろくに仕事もせずにお酒に溺れ、幼少期の千代に家事も仕事も全て任せっきり。そのため千代は学校にもほぼ通えず、挙句新しく連れてきた母親のせいでついに奉公に出されてしまう。そしてようやく見つけた千代のホームとも言える、道頓堀の芝居茶屋「岡安」にも8年ぶりにノコノコと現れたかと思いきや、借金返済のために千代をまた別の店に奉公に出させようと企む。借金取りとテルヲから逃れるために千代が行き着いたのが京都の鶴亀撮影所。そこで女優としての歩みを始め、ようやく安定的に役がもらえるようになってきた頃にまたテルヲが現れてしまうのだ。

 と、これまでの流れを振り返ってみても、やっぱり最低で疫病神のようなろくでもない父親に違いないが、そんなテルヲ役にトータス松本を据えたキャスティングはお見事とも言える。まるでトータス松本が持つ魅力を逆手にとっているかのようだ。

 ここまで“ダメダメ”であればとっくの昔に野垂れ死んでいて不思議はないが、口だけは達者で相手に束の間夢を見せ、なんだか憎めない“人たらし”で、計算がなく野生児なテルヲはトータス松本本人とも通ずるところがあるだろう。だから、千代も岡安に来た父親のことを最初は歓迎したし、それゆえに父親の本当の目的に気づいて傷ついたのだ。千代にとってはどうしたって見捨て切れず憎み切れない存在で、その“ろくでなし”には違いないが決して“人でなし”ではない、少なくともそう信じたいと思わせる絶妙な塩梅、バランスはトータス松本だからこそ、奇跡的に取り続けられている綱渡り的なポジショニング具合だと心底思う。それに千代の心の支えでもある亡き母親が伴侶に選んだのがテルヲであり、また同じようにそんな女性を伴侶にしているあたりにもテルヲの心根の優しさが見え隠れし、そして最初の妻の死による喪失感がずっと付き纏っているようにも思える。

 連ドラ初出演にして、そして毎話ずっと登場しているわけでもないのに、千代が活躍の場を移して忘れた頃にふっと現れる役どころにもかかわらず、ずっと視聴者に強烈な印象を残し続け「お馴染み感」を与えられるのは、やはりトータス松本自身が持つ“華”や“オーラ”に依るところも大きいのではないだろうか。これはNHK大河ドラマの『龍馬伝』でのジョン万次郎役、『いだてん〜東京オリムピック噺〜』での実況アナウンサー役にも言えることだろう。

 どこを切っても最低な父親だが、心のどこかでテルヲの登場をハラハラしながらも待ち望んでいる視聴者も少なくはないはずだ。そんなテルヲの再登場が叶ってしまい不吉な予感しかしないものの、今のテルヲの身の上含め、千代とどんな掛け合いが繰り広げられるのか見ものである。「お願い、これ以上失望はさせないで」という願いを抱きながらも、きっとそれを気持ちいいくらいに裏切って余りある程にどうしようもなく情けないテルヲの人間臭さ、“ろくでなし”ぶりをまた目の当たりにしたい。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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