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『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が象徴していたハリウッド大作人気 当時の熱狂を振り返る

リアルサウンド

20/6/19(金) 12:00

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズは、長きにわたって本当に多くのファンに愛されている作品です。最近また劇場で公開されたりTV放送されたりしているので、その面白さにまた気づかされた人、初めてこの作品たちに触れて好きになったという人もいるでしょう。今年は1作目公開から35周年のメモリアルイヤーということもあって、この先様々な企画やグッズなどがまた出回るかもしれません。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズがどれだけ素晴らしい作品かについては、すでに沢山の映画ファンや批評家の方たちが語りつくしていますが、ここでは改めて、“なぜこのシリーズがここまで愛されているのか?”、そして本日6月19日放送のシリーズ2作目『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』の見どころについて僕なりに書いてみたいと思います。僕自身、全作品日本初公開時に立ち会えた身なので、その時の熱気などを交えながら振り返ってみます。

参考:詳細はこちらから

 まず、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズとはどういうシリーズなのか? これはタイムトラベルを扱った青春コメディ。1作目は高校生のマーティが、友人のドクが作ったタイムマシン「デロリアン」で30年前にタイムスリップ。マーティはそこで若き日の父と母と出会います。2人はまだ付き合う前ですが、なんと母はマーティ(つまり将来生まれてくる自分の息子)に恋をしてしまう。父と母が歴史どおり結婚してくれないとマーティは生まれない! つまり消滅してしまいます。マーティはなんとか2人を結婚させようとしますが、そこにマクフライ家の宿敵ともいうべき不良(いじめっ子)のビフ・タネンが絡んできて……というようなお話です。1985年夏にアメリカで公開され、空前の大ヒットとなりました。

 日本で封切られたのは同年の12月。当時はアメリカで夏にヒットした映画が日本ではクリスマス・正月映画として公開されるというパターンが多かった。だからアメリカで大ヒットしたすごい映画がやってくる! みたいな感じでワクワクしながら待つわけです。そして、洋画がとても人気でした。今でこそ邦画と洋画の人気は拮抗していますが、80年代はハリウッド大作がとにかく興行界の華。加えてスティーヴン・スピルバーグの人気が日本でも高かった。1982年に『ET』、1984年に『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』と大ヒット作が続き、スピルバーグといえば大作・面白いというイメージ。スターではなく、クリエイターの名がブランド化していたのです。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は監督作ではなく彼が製作総指揮を務めた作品ですが、スピルバーグの名がフィーチャーされていました。たしか、予告編とかのあおりコピーは「スピルバーグがまたやった!」だったと思います。またまたスピルバーグが大ヒット映画を作った、という意味ですね。なお1985年の日本におけるクリスマス・正月映画の本命は、これまたスピルバーグ製作総指揮の『グーニーズ』でした(この作品もファンが多い)。

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は日本でも大ヒット作になりましたが、ではなぜ35年もの間、愛され続ける名作になったのか? あえて言いますが、その時その時代は、大ヒットしたけれど忘れ去られていく作品というのも少なくありません。しかし『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はそうではなかった。その理由はとてもシンプルで(笑)、この作品が“面白いから”です。

 どのくらい“面白い”かと言うと、この映画の脚本は、多くの映画クリエイターを輩出した、南カリフォルニア大学映画学科のシナリオの授業で“最も完璧な脚本”として教材に使われているそうです。つまり、映画の肝であるストーリーの完成度が高い。様々な映画雑誌で名作100選みたいな企画の時に必ず名があがる作品であり、“話題作・ヒット作”からもう歴史的名作になっているわけです。また『バック・トゥ・ザ・フューチャー』1作目はSF映画でありながら、特殊効果を使ったシーンが実は少ない。1977年(日本公開は1978年)に『スター・ウォーズ』が歴史的な大ヒットになって以来、特殊効果をふんだんに使った作品が人気を博します。これらの作品は今観ても面白いんですが、見せ場の要である特殊効果のシーンはどうしても時代を感じてしまう。ところが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は特殊効果にあまり頼っていないので、“古さ”に気づかされることがないのです。

 加えて『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が画期的だったのは、SF映画ファン以外を多く取り込めたこと。1985年は『ターミネーター』1作目が公開された年でもあります。『ターミネーター』も『バック・トゥ・ザ・フューチャー』も、どちらもタイムトラベルもの、両方とも“過去を変えることで未来が変わる”という映画です。しかし、『ターミネーター』はSF映画好きやアクション映画ファンに愛される映画でいわゆるジャンルムービー、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はより多くの人に受け入れやすいエンターテインメント。SF的設定を使っていますがファミリーコメディ、青春コメディです。ある雑誌が選んだ「高校が舞台の映画ベスト50」の中にも選出されていますから、ハイスクールムービーの名作ともみなされています。『ターミネーター』と『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のどっちがデートムービーに向いているかといったら後者ですよね(笑)(いささか強引な例えですが)。

 その一方で、人々の記憶に残っていくためにはキャッチ―なシンボルが必要です。本作で言えば、それがデロリアン型のタイムマシンです。映画やドラマに登場した特殊車両の中でも名車中の名車でしょう。バットマンのバットモービルやナイトライダーのナイト2000、ゴーストバスターズのECT-1などと並ぶぐらいアイコニック。自分の車をデロリアン風にカスタマイズする愛好家も多いと聞きます。この“デロリアン”は、正式にはデロリアン・モーター社という会社が唯一製造・販売したDMC-12のことを指すようです。走った後に炎の軌跡が出るイメージは、車のCMとかにも引用されるぐらい強烈なイメージです。当時の映画雑誌などを読むと、最初の脚本では冷蔵庫がタイムマシンという設定でしたが、万が一子どもがマネしたらというケアからデロリアンに変わったとか。タイムマシンがスピーディな車に変わったことが、この映画自体に勢いとテンポを与えています。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にはエイリアンやモンスター、ロボットは出てこないけれど、このデロリアンのおかげで商品化もしやすかった。作品以外にグッズという形で人々と長きにわたって接点を持てるというのも、コンテンツの寿命を延ばします。

 続編が公開されたのは1作目から4年半後の1989年の暮れ。ちょっとブランクがありますよね。恐らく製作陣はそもそも続編は考えていなかった。いかにも続編がありそうな終わり方をするのですが、大ヒットしたから続編を改めて検討した、というべきでしょうか? 面白いのが、PART3は1990年の夏公開で、PART2からわずか半年後のリリース。しかも2作は同時に撮影。そう『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の続編となるPART2とPART3は、はなから2部作構造になっていました。ここにも製作陣の意志を感じます。つまり『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は安直にシリーズ化させない。ここできっぱり終わりにするぞと。実際、監督のロバート・ゼメキスおよび脚本のボブ・ゲイルは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のリメイクや新たなる続編は一切考えていないと公言しているみたいですから。

 さて、PART2ですが、この作品は前半は30年後の2015年の未来、そして後半が再び30年前の1955年に戻っての騒動が描かれます。1作目で主人公は両親の縁結びのため奔走しましたが、PART2では今度は将来生まれる自分の子のトラブルのため未来に行き、一旦事件解決と思いきや、またそこでのハプニングが過去に影響を及ぼし大ピンチに。それを正すため過去にまた戻るのです。PART3は1885年の西部開拓時代が舞台。だからこのシリーズでいわゆるSF映画らしい、フューチャー=未来社会が登場するのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』だけなのです。ここに登場する未来のガジェットが大きな話題を呼びました。中でも人気だったのは、空飛ぶ(宙に浮かぶ)スケボーのホバーボードと履くと靴ひもが自動的に締まる機能のついたNIKEのシューズです。NIKEのシューズは2011年にレプリカシューズが限定販売、さらに2015年(つまり映画で描かれた未来と同じ年に)、本当に“自動靴紐結び”機能がついたモデルがチャリティオークションで出品されました。

 実際の2015年時は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』公開30周年かつPART2で描かれた年だったので、劇中の未来が現実をどこまで予想していたか、その答え合わせみたいな記事が多かったように記憶しています。映画では、2015年には空飛ぶ車が行き交っていますが、これは実現できていません。ウェアラブルコンピュータみたいなものも登場しますが、スマホまでは予想できていなかったみたいですね。1作目の1955年時代のドタバタを残しつつ、この未来パートがあることで、PART2は、よりテンコ盛りのエンターテインメントになっています。

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズは、『ドラえもん』的なSF小噺にアメリカの高校生青春コメディを掛け合わせたようなエンターテインメント。また“過去をいじれば現在や未来の問題を解決できる”というタイムトラベルもののセオリーをメジャーにした作品かもしれません。タイム・トラベルが大きなカギとなる『アベンジャーズ/エンドゲーム』でも、アイアンマンことトニー・スタークがこの映画のタイトルをわざわざ引き合いに出して議論するシーンがあるぐらいです。

 アイアンマンつながりでいえば、『アベンジャーズ』のテーマ曲を作曲したアラン・シルヴェストリが本作の音楽を担当(彼はデロリアンが活躍する『レディ・プレイヤー1』の曲も担当しています)。また、『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』の最後に、PART3の予告がついていました。こういうつながり方も昨今のマーベル映画のスタイルを先取りしていましたね。3作を通じて描かれるのは「自分の未来は自分で切り開け」という青春映画らしい鉄板のテーマ。SF映画の名作、コメディ映画の傑作、青春映画の快作、それが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズなのです。 (文=杉山すぴ豊)

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