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「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『火口のふたり』

リアルサウンド

19/8/24(土) 10:30

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は元「映画芸術」編集部の石井が『火口のふたり』をプッシュします。

●『火口のふたり』
 本稿を書くにあたり、そもそも自分が「荒井晴彦」の名前を知ったのはいつだろう? と振り返る作業をしてたところ、封印していたイタイ思い出とセットでその名前を知ったことを思い出しました。

 今からおよそ15年前の高校生の頃、生まれて初めて交際したクラスメイトのIさん。お互いの部活が終わる時間を合わせ、学校から駅までの帰り路が、唯一2人きりで話をすることができた時間でした。しかし、いわゆる奥手であった当時の自分は、手を握ることにも躊躇し、男らしさがないところなどを怒られ、なんやかんのあった後に「私に頼るのは辞めた方がいいと思う」という痛烈な一言を浴び、その恋は終わったのでした。

 平気なフリをしつつも食欲がまったくなくなるようなショックを受け、憔悴仕切ったところに、映画通のラグビー部の友人・A君が映画という助け舟を出してくれました。A君の影響もあり、ゴダールやヒッチコックといった“名作”には触れ始めていましたが、過去の日本映画はほとんど観たことがありませんでした。当時、その友人がVHSで貸してくれたのが、澤井信一郎監督、そして荒井晴彦脚本による『Wの悲劇』。薬師丸ひろ子さん演じる若手女優・静香が、とある代償を支払い、スターへの階段を昇っていき……という物語ですが、静香に捨てられてしまう昭夫(世良公則)の姿に自分を重ね、映画のセリフひとつひとつがたまらなく突き刺さったのを覚えています。スケールの違いはあれど、「あれ、これと似たようなことを言われたような……」と。映画を作る人=監督程度の認識しかなかった当時の自分にとって、初めて「このセリフを書いている人はどんな人なんだろう」と思ったのが「脚本家・荒井晴彦」でした。

 以後、新作を追いかけ、手掛けていたロマンポルノを観るために、新橋ロマン劇場にも足を運びと、荒井晴彦の名前をきっかけに映画の沼へと誘われていきました。一貫して描かれているのは、男性の弱さと女性の強さ、嫉妬という感情を持つことの無様さ。ともすれば汚く醜く、別の角度から見れば極めて潔癖でもあり、そんな恋や愛が絡んだときの人間のリアルな内面を、荒井作品から教えてもらったように思います。

 紆余曲折を経て、私は2012年に「映画芸術」の編集部で働くようになりました。「キネマ旬報」とならぶ戦後から現在まで続いている老舗雑誌である「映画芸術」。その編集長は、脚本家の仕事の傍ら1989年に前編集長・小川徹から引き継いだ荒井晴彦なのです。

 「映画芸術」は、毎年恒例のベストテン&ワーストテン(特に一昨年は大きな波紋を呼びました……)に象徴されるように、ほかメディアではなかなかできない大作への辛辣な批評も厭わず、自主映画、ピンク映画もいい作品は取り上げるという、徹底的に作品と向き合うのが特徴の雑誌です。

 映画の中の人だった荒井さんと、「映画芸術」を通して直接関わるようになり、正直最初は戸惑いの連続でした。ただ、実際に触れて感じたのは、いろいろと厳しい一面はありますが、とにかくたくさん勉強していること、そしてとてもキュートで正面からぶつかる相手には優しいということ。なかなかまっすぐぶつかることができずいた映芸の約4年間ですが、それでも荒井さんの側にいることができた時間は貴重だったなとしみじみ思います。紛れもなく自分にとっての青春でした。

 と、長すぎる前置きになってしまいましたが、そんな荒井さんの新作『火口のふたり』が公開中です。当サイトに掲載しているレビューに巧みな分析が書かれているので多くは語れないですが、試写で観たときに自分が強く感じたのは“優しさ”でした。主人公の2人は快楽にふけり、現実から目を背け続けます。背けることができたのも、それは期間限定だからこそ。しかし、期間限定のはずだった時間は終盤のとある展開で無限になります。2人を繋いでいたルールが壊れてしまえば、関係は崩れてしまいがち。でも、本作は関係を壊すどころか、そんな無限を受け入れてしまえばいいと高らかに突きつけてきます。エンディングテーマ「紅い花咲いた」の歌詞「とっても気持ちいい」の通り、本能のままに行動していく2人の姿がとても清々しく映りました。

 荒井晴彦入門作としても本作は入っていきやすいと思いますし、痛みを伴う失恋を経験したことがある方は、強く響くものがあるかと思います。『火口のふたり』を気に入った方は、『海を感じる時』『共喰い』『身も心も』『赫い髪の女』もオススメです!(リアルサウンド編集部)

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