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予測を超える超展開の連続! ジャンプからしか生まれない怪作『チェンソーマン』のヤバい勢い

リアルサウンド

19/10/27(日) 8:00

 週刊連載で一番重要なのは「来週、どうなるのか?」という引きである。『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載中の『チェンソーマン』を見ていると特にそう思う。

 本作の舞台は悪魔と呼ばれる存在が跋扈する日本。16歳の少年デンジはチェンソーの悪魔・ポチタと契約し、デビルハンターとして生計を立てていた。ある日、デンジはヤクザに騙され、悪魔が操るゾンビの餌にされてしまう。ポチタと融合することで一命をとりとめたデンジは、チェンソーの悪魔に変身する力を身につける……。デンジは悪魔を討伐する組織・公安対悪魔異課に所属しデビルハンターの仲間たちと共に様々な悪魔と戦うことになる。

 設定自体はジャンプ漫画によくある異能力バトルモノだ。人間が契約する「悪魔」の設定もとてもシンプルで、チェンソーの悪魔、トマトの悪魔、筋肉の悪魔といった「~の悪魔」という名称で、天使の悪魔といった冗談みたいな存在もいる。名前から人間がイメージする恐怖や憎悪が強ければ強いほど悪魔の力は増大し、最も恐ろしい存在は、わずか5分で世界中を駆け巡り120万人弱の人間の命を奪った「銃の悪魔」だと言われている。

 悪魔に肉体を乗っとられた人間は“魔人”となるが、逆に悪魔と融合しても人格が残っているデンジは稀少な存在だと珍しがられている。これも永井豪の『デビルマン』を筆頭に少年漫画によくある設定だが、よくある設定だからこそ『チェンソーマン』の独創性はより際立って見える。

 作者の藤本タツキは『少年ジャンプ+』で連載された『ファイアパンチ』(集英社、全8巻)で大きく注目された。雪に覆われた極寒の世界を舞台にした本作は、祝福と呼ばれる特殊能力を身にまとった祝福者たちが戦いを繰り広げる物語だが、何より導入部が強烈だった。

 主人公の少年アグニと妹のルナは身体の傷がすぐに治る再生能力の祝福。アグニは食糧不足の世界で村人たちを救うために、ルナに自分の腕を切り落とさせて、食料として(アグニの人肉を)分け与えていた。しかし、侵略にやってきた炎の祝福者ドマの(一度身体に燃え移ったら対象が消滅するまで燃え続ける)炎によって村人とルナは焼き殺されてしまう。アグニだけはその異常な肉体再生能力によって何とか生きながらえたが、身体が燃え続ける不死の男となってしまう。

 劇中にはアグニを主人公に映画を撮りたいという謎の女トガタが登場し、彼女に導かれるまま行動するうちにアグニが神として祭り上げられるという宗教的な展開となっていく。この漫画も、とにかく先が読めない作品だった。

 『ファイアパンチ』も『チェンソーマン』も設定自体は異能力バトルモノの範疇に収まる。しかし、ふつうの漫画だったら、こういう展開になるだろうという予測をどんどん超えていく。

 共通点は人があっさり死ぬことと、身体破壊の描写が凄まじいことだろうか。重要人物だと思ったキャラクターがページをめくるとあっさり殺されているという超展開が続くので、だんだん読者の生死や暴力に対する感覚がおかしくなっていき、それが乾いたユーモアへと繋がっていく。

 『ファイアパンチ』の時は、作者が影響を受けたという『無限の住人』の沙村広明や『BLAME!』の弐瓶勉を思わせる『月刊アフタヌーン』(講談社)の漫画のような細い描き込みの多い絵柄で、ストーリーもマニアックな青年誌風だったため、ジャンプにはない奇をてらったダークファンタジーをあえて狙ったように見えた。

 対して『チェンソーマン』は、週刊連載に対応するためか、線はシンプルでキャラクターも記号化されている。その意味で少年漫画の王道に寄せているように見える。何よりデンジが、あまりにも悲惨な環境で育ったために、人並みの生活を求めているという欲望の小ささが、少年漫画の主人公として好感が持てる。

 緩いトーンの会話劇が続いていたかと思うと見開きで派手なアクションを見せるといった緩急のバランスが絶妙だが、ストーリーは行き当たりばったりに見えて、どこまで考えているのかよくわからない。

 現在4巻まで刊行されているが、「まだ4巻?」と驚くのは展開が濃密だからだろう。もしかしたら計算して、こういう展開を狙ったのかもしれないが、後先考えずに勢いで描いていたら、作者にもコントロールできなくなってしまったようにも見える。

 近年は『約束のネバーランド』(原作:白井カイウ、作画:出水ぽすか)のようなバランスのいい漫画も増えているが、基本的に少年ジャンプは人気がなければ10週で打ち切られるシビアな世界なので、新連載の際には、後先考えずに面白い要素をぶち込み、まずはインパクトを狙う。だから、絵もストーリーも次第にボロボロになっていくのだが、時々、週刊連載のライブ感によって不気味な怪作が生まれる。『チェンソーマン』に感じるのはそういったジャンプからしか生まれないタイプのヤバい勢いで、だからこそ続きが気になって仕方がないのだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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