新たな才能を発掘・育成する!
『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2021』特集
『ndjc2021』監督募集・応募意思の連絡締め切り:5/31(月) 応募書類の締め切り:6/4(金)
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『先生、私の隣に座っていただけませんか?』堀江貴大監督にインタビュー
「ndjcでの経験が自分の監督としてのスタンスを決定づけた」
日本映画界の次世代を牽引する新たな才能の発掘と育成を目指す『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト』(ndjc…New Directions in Japanese Cinema)。その試みは着実に実を結び、現在を見ただけでも、池田暁監督の『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』、川崎僚監督の『Eggs 選ばれたい私たち』、岨手由貴子監督の『あのこは貴族』など、出身監督の長編映画が公開中だ。
柄本佑と黒木華W主演で話題を集める『先生、私の隣に座っていただけませんか?』が9月10日より公開となる堀江貴大監督もまた ndjc出身監督。2015年に参加した際の経験や新作について聞いた。
── ndjcに参加したのは2015年のこと。どうして応募してみようと?
まず、35mmで映画が撮れること(※現在はデジタル)が大きな魅力でした。フィルムで映画が撮れるめったにないチャンスを手にすることができるかもしれない。それがまずは大きかったです。
それと、当時、東京藝術大学大学院を卒業したタイミングで。作り手として映像業界でどう自己を確立させていくかを模索している時期でした。その時点での僕は大学の仲間たちと映画を作る経験しかしていなかった。もちろん今後も彼らと映画を作っていきたい。ただ、さらに自分の映画を作る裾野を広げるために、プロの方々に出会いたい気持ちがありました。
ndjcで製作実地研修に進めば、プロとして活躍している制作プロダクションのプロデューサーやスタッフと組んで映画の現場を経験することができる。この出会いと経験を求めて、応募したところもあります。
── 参加作家に選ばれ、同一の課題・条件で5分の短編を作るワークショップに取り組んだと思います。この経験で得たことはありましたか?
ありました。自分で作って即完成ではなく、作ったものを講師の方々がみていろいろと助言してくださって、もう一度自分で再考するという時間があった。このやりとりが自分に大きな気づきをくれました。
それまで僕は作品作りにおいて我を押し通すことが多かった。現場のすべての判断を自分でしなくてはいけないと考えていた。でも、その限界をどこかで感じて。自分が大号令をかけて全員を動かすのではない、もっと自由にスタッフが意見を交わし合うようなオープンな映画作りがあるのではないかと思い始めていました。
で、このワークショップで講師であるプロの編集技師の方やプロデューサーから助言をいただいたとき、確信したんです。「作品をよりよくするためにどうしたらいいのか、ひとりで考える必要はない。いろいろな人の意見を取り入れていい。これこそ僕の目指す映画作りだ」と。
それから映画作りに対する意識が変わりました。以降、スタッフやキャストのみんなが意見やアイデアを出しやすい風通しのいい現場作りを心掛けるようになったんですよね。
── ワークショップを経て、製作実地研修の監督に選ばれ、『はなくじらちち』を作ることになります。ここで学んだことはありますか?
僕にとってはプロと初めて組む現場になりました。ここでもひとつ大きな意識の変化が自分の中でありました。それは「言葉を尽くさないといけない」ということです。
どういう映画を作りたいのか、どのような演出をしたいのか、明確に伝える。どうしたいのかを言語化してきちんと相手に伝えることの重要さに気づきました。
それまではどこかニュアンスで「わかってもらえるだろう」という甘さが自分にはありました。でも、それじゃダメかもしれない。きちんと言葉で伝えることではじめてスタッフ全体に浸透し、意識を共有することができる。そのことによって僕の考えるビジョンに対するスタッフのレスポンスも返ってくる。それを実感できる現場だったんですよね。
あと、それに付随して、脚本で何をやりたいのか、狙いがきちんとわかるものを書かないといけない、と脚本作りに対する意識も変わりました。
「このおもしろさを伝えるにはこうしたほうがいいんじゃないか」とか、脚本に関して、プロデューサーとかなり話し合って、細部まできちんと説明できるものに仕上げたんですね。
その甲斐あってか、『キセキ -あの日のソビト-』などの監督としてご活躍されている兼重淳さんがその時は助監督を務めてくださったんですけど、「脚本がおもしろい」と言ってくれたんです。
このひと言はうれしかったし、同時にスタッフがおもしろがって前のめりになってくれるような脚本を書かないとと思いました。それ以降、スタッフやキャストが最初に読んだときに、おもしろいとかこういう風にやってみたいなとか、考えられるような脚本にすることを心がけています。
振り返ると、 ndjcの経験が、自分の監督としてのスタンスを決定づけたといっても過言ではないですね。
── 『はなくじらちち』の経験で、今回の新作『先生、私の隣に座っていただけませんか?』に生かされたところありますか?
けっこうあります(笑)。
『はなくじらちち』は、長年疎遠にしていた父と娘、その婚約者の男が同じ車に乗って道中をともにするある種のロードムービーで。その流れを汲んで今回の新作『先生、…』の脚本も、ロードムービーをやりたい、教習所の先生と若い妻が教習中に教習車で逃避行を始めてしまうみたいなところから始まっているんです。
それから、僕は、たとえば『はなくじらちち』 の黒川芽以さん演じる娘がプロレスラーであるように、市井の人よりも表現者がじたばたしてもがく姿からなにかが伝わってほしいと思っているところがある。ある種、自分の苦悩を反映させているのかもしれないんですけど(苦笑)。なので、今回も主人公となる黒木華さん演じる妻の佐和子と、柄本佑さん演じる夫の俊夫は漫画家という表現者なんですよね。
あと、物語の中で、佐和子は最後まで本心を見せない。俊夫は嘘をつき続ける。これも、実は『はなくじらちち』の父と娘と重なる。
ですから、傍からみると まったく違うタイプの作品に映ると思うんですけど、ひとつひとつの要素をみていくとつながっているところがあります。
── 黒木華と柄本佑というすごい配役を実現させましたね。
監督としてふたりの芝居を間近にみれて、これ以上の幸福はあるのかなと思いました。
事前にこういうキャラクターにしたいということを伝えてはいたんですけど、そのことを踏まえた上で彼らが出してくるものというのが、ひとつ飛び越えたものなんです。だから、「次はどんな芝居するんだろう」とワクワクしながらみていました。
このふたりの芝居を見てもらいたいですし、黒木さんと柄本さんの新たな魅力が映っていると思っているので、注目してもらえたらと思います。
── では最後にndjcに参加を考えているクリエイターにメッセージをいただければ。
ndjcは、クリエイターが世に出るためのひとつのステップとして存在してくれると思っています。少なくとも僕にとっては映画監督であり映画作家としての 出発点になった。そういう得難い経験であり修練の場になったと感じています。
自分ならではの映画作りや監督としての現場での振る舞い方、人とモノづくりをすることについて深く考える機会になったし、深く知る機会になった。映画監督を仕事としてやっていくことと、自分の映画作家としての作家性を見出すこと、僕にとってndjcは、この両面の出発点になっている。
あと、僕が参加した年は、『泣く子はいねぇが』の佐藤快磨監督や『君が世界のはじまり』のふくだももこ監督らがいて。彼らはいわば同期。彼らの活躍にはやっぱり刺激を受けるし、励みにもなる。そういう、よきライバルであり、よき友人に出会えたことも自分にとっては大きかった。
そういうかけがえのない場になりうるので、興味があったらぜひ応募してほしいですね。
取材・文:水上賢治