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『ワンダーウーマン』で描かれた歴史は現在とリンク 問題や可能性を内包した大ヒット作を振り返る

リアルサウンド

20/12/26(土) 12:00

 コミックヒーローの実写映画化作品『ワンダーウーマン 1984』公開にあわせ、前作『ワンダーウーマン』が、2020年12月26日26時よりフジテレビ系『ミッドナイトアートシアター』で地上波初放送される(一部地域を除く)。公開当時、予想以上の大ヒットとなった本作『ワンダーウーマン』は、様々な意味で画期的なものとなったと同時に、いろいろな問題や可能性が内包する映画となった。ここでは、そんな本作を振り返り、その存在が指し示したものを考えていきたい。

 ワンダーウーマンは、1941年より開始されたコミックシリーズのキャラクターであり、強大な力を持つスーパーヒーロー。映像化作品といえば、これまで1975年からのアメリカのTVドラマが有名だった。女性ヒーローが激しいアクションシーンに挑むところが凄まじく、2021年1月8日公開のドキュメンタリー映画『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』では、当時の撮影でスタントウーマンが実際に高いビルから後ろ向きで落下したり、肌を露出した衣装のままガラスに飛び込んで破壊しながら着地するなど、いまではとても考えられないような現場の光景が映し出されていた。

 その衣装は、いまの目で見ると扇情的な印象もあった。実際、2011年に新たなTVシリーズの製作が計画されていたが、過去のテイストを活かしながら現代風にデザインし直された衣装によって、ワンダーウーマンがバーレスクのショーガール風の雰囲気に見えたために不評を買って、お蔵入りとなった。今回の映画版では、その失敗も踏まえて、キャラクターの設定でもあるギリシア神話のアマゾネスである部分によりフォーカスした衣装となった。

 また、ガル・ガドットの存在無しには今回の『ワンダーウーマン』の魅力を語ることはできない。美しさや気品、長い手足とトレーニングによって身につけたたくましさ、そしてキュートさまでが加わった彼女の魅力のポテンシャルが、新しいワンダーウーマンという役柄にフィットすることで、大きく花開いたといえる。

 そんなキャラクターの魅力によって、本作は大きな反響を呼び、150億円の製作費で、映画製作費の上限を超える250億円の巨費を投じた、同じくDCヒーロー映画『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』の興行収入と同規模の成果をもたらすという予想を超える結果を生むこととなった。そして、女性監督による史上最高のヒット作ともなったのだ。

 本作の監督は、パティ・ジェンキンス。シャーリーズ・セロンにアカデミー賞主演女優賞をもたらした『モンスター』(2003年)の監督として知られている。娼婦の連続殺人犯という女性の主人公を描く衝撃作は、多くの観客を驚かせた。そして、本作『ワンダーウーマン』もまた、意外な主人公像が描かれている。

 ガル・ガドット演じるワンダーウーマンは、驚異的な身体能力を持つアマゾネスの王女として外界から隔絶された女性だけの島に住んでいた。彼女は、ある日、アメリカの軍人スティーブ・トレバーの命を救い出すことで、“外の世界”では大規模な戦争(第一次世界大戦)が起こり、多くの人々がその犠牲になっていることを知る。この原因となっているのが、宿敵である軍神アレスであると考えたワンダーウーマンは、トレバーとともに島を出て、戦争を止めようとする。

 意外なのは、とくに女性に人気のある俳優クリス・パイン演じるトレバーとワンダーウーマンことダイアナに男女の愛情が生まれ、作品全体にラブロマンスの要素が色濃く見られる部分についてだ。それは、近年のハリウッドにおける、従来からの固定観念を打ち破ろうとする女性の描き方からすれば、保守的にも見えてしまう。『ローマの休日』(1953年)のジェラートを食べるシーンを本作でオマージュしているように、恋愛映画として観ることもできるのだ。

 実際この点について、自作において“強い女性像”を登場させてきたジェームズ・キャメロン監督は、進歩的ではないと批判している。その後撮られた『ターミネーター:ニュー・フェイト』(2019年)の主人公である女性たちの渋いかっこよさは、そんな彼の信念が反映している。

 だが、これだけでパティ・ジェンキンス監督の試みが進歩的でないと考えるのは早計である。それは、本作のワンダーウーマンが、けして従来のヒロインの枠には収まっていないからだ。むしろ、“ヒロイン”として扱われているのは、クリス・パイン演じるトレバーの方である。本作は、恋愛描写において意識的に男女の役割を逆転させることで、ある種の皮肉を作品に滲ませているのではないか。イギリス軍とドイツ軍の戦闘における、塹壕と塹壕の間の空間“ノーマンズランド”を、女性ヒーローだからこそ走り抜けることができるという描写にも、従来の男女の役割について考えられていることがうかがえる。

 本作で描かれる第一次世界大戦は、機銃や爆弾の進化によって、大量の兵士を殺戮することが可能になった後の、最初の戦争といわれる。実際にドイツ軍がベルギーの村で使用した「マスタードガス」という兵器が登場するように、より人道から外れた兵器開発も進んだ。このような発明は、第二次世界大戦の原子爆弾へと繋がっていくことになる。こんな悪魔的な行為に加担しているのは、ワンダーウーマンが一時的に協力するイギリス軍も同様である。軍の司令部では、兵士たちの命をわざと犠牲にすることで戦局を有利にする算段を立てているのである。

 そんな命令のもとで命を投げ出さざるを得ない男たちには、この先の未来が存在していたはずである。そしてそれは、その帰りを待つ女たちの未来をも奪ってしまうことにもなる。そんな戦いが果たして国のためになるのだろうか。そして、そんな狂った戦争を主導してきたのは男たちであったのもたしかだ。この惨状は、男たちが権力を独占してきたことの結果であるともいえるのだ。そして、それこそが正義であるのだと、戦争を推し進める権力者たちは、男性にも女性にもアナウンスしてきた。

 自国民のこのような戦い方の対極にあるのが、アマゾネスの勇敢な戦闘だ。本作のワンダーウーマンの戦いというのは、ワンダーウーマンが女性だからこそ反逆することのできる、“男性の歴史”への断罪であるともいえよう。

 一方で言及しなければならないのは、イスラエル出身で従軍経験のあるガル・ガドットが、SNS上でイスラエル軍がパレスチナのガザ地区に攻撃したことについて、支持を表明するメッセージを発して批判されたという点についてだ。この戦闘では男性、女性、大人と子どもに限らず、ガザ地区の多くの市民が死亡・負傷している。この事態によって『ワンダーウーマン』は、複数のアラブ諸国で上映が禁止されることとなった。

 これは、香港やチベット、ウイグルやモンゴルなどに政治的な圧力をかけている中国当局を支持したことで反感を持たれた、『ムーラン』(2020年)の主演俳優リウ・イーフェイの経緯とも重なる。このような俳優たちが、自国や祖国での立場があるとはいえ、ヒーローを演じることについて、違和感を持ったり拒否反応を示す観客がいるのは当然かもしれない。

 だが、このような事態もまた現代の社会がまだまだ暴力的で、過去の戦争の教訓を活かしきれない状態にあることの証拠であるともいえる。本作『ワンダーウーマン』は、そこで描かれる歴史と現在とがリンクすることを、ここでも思いがけず表現することになった作品だといえるのだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■放送情報
『ワンダーウーマン』
フジテレビ系にて、12月26日(土)26:00~放送(一部地域を除く)
監督:パティ・ジェンキンス
 出演:ガル・ガドット、クリス・パイン、コニー・ニールセン、デヴィッド・シューリス、ダニー・ヒューストン、エレナ・アナヤ、ロビン・ライト、サイード・タグマウイ、ルーシー・デイヴィス
(c)Warner Bros. Entertainment Inc. TM & (c)DC Comics

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