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磯部涼×中矢俊一郎 対談新連載「グローバルな音楽と、日本的パイセン文化はどう交わるか?」

リアルサウンド

14/8/15(金) 12:00

 クラブと風営法の問題をテーマにした書籍『踊ってはいけない国』シリーズなどで知られる磯部涼氏と、細野晴臣が世界各地で出会った音楽について綴った『HOSONO百景』の編者である中矢俊一郎氏が、音楽シーンの“今”について独自の切り口で語らう新連載「時事オト通信」。第1回目のテーマは“日本のヒップホップ文化”について。アンダーグラウンドシーンにおけるハスラー・ラップのあり方とその変化から、メジャーシーンにクラブ・ミュージックを広く浸透させたEXILE・HIROの戦略まで、日本的な“パイセン文化”という視点を軸に語り合った。(編集部)

日本のヒップホップとヤンキー文化

中矢:2000年代、日本のアンダーグラウンドなヒップホップのシーンではいわゆるハスラー・ラップが流行り、ドラッグ・ディールをはじめとした裏稼業や下層社会の厳しい生活環境をリアルな日常として歌うラッパーたちが目立ちましたよね。SEEDANORIKIYOD.Oなどが該当するかと思いますが、ハスラー・ラップに括られることもあったANARCHYは最近、エイベックスからメジャー・デビュー・アルバム『NEW YANKEE』を出しました。低所得者が多い京都・向島のマンモス団地で育った彼は、これまで過酷な生い立ちをリリックにすることが多かったですが、今回の作品にはひらすらアッパーで派手なサウンドのパーティ・ソングから、ポリティカルなメッセージが込められた曲、切ない気持ちを歌ったラヴソングまである。オーバーグラウンドで挑戦するにあたって、間口を広げたように感じました。

磯部:MS Cru(後のMSC)の『帝都崩壊』(2002年)を皮切りとして、ANARCHYの『ROB THE WORLD』とSEEDAの『花と雨』(共に2006年)が最初のピークとなった日本版ハスラー・ラップの流れは、それまで、「経済的に豊かで治安も良い日本において、ハードコアなラップ・ミュージックにはリアリティがない」と散々言われてきたところに、「いや、問題が不過視化されているだけで、日本もひと皮向けば荒廃しているんだ」というシンプルなメッセージを突き付けたわけだけど、それは、2000年代半ばに表面化したいわゆる格差社会問題ともリンクしていたように思う。ただし、ハスラー・ラップはその名の通りドラッグ・ディールのような日本ではタブーとされているトピックも扱っていたため、世間一般にまで広がることはなかった。2009年2月、D.Oが麻薬取締法違反容疑で逮捕され、1週間後に出るはずだったメジャー・デビュー・アルバム『JUST BALLIN’ NOW』が発売中止になってしまった事件が象徴するようにね。同アルバムは、ザ・ブルーハーツをサンプリングした「イラナイモノガオオスギル」や、学校に馴染めなかった少年時代を歌った「LIL’ RAMPAGE」、中川家・剛に貧乏から成り上がった経緯をラップさせた「Play Da Game」みたいな楽曲を収録していて、想定リスナーをいわゆるアウトローだけではなく、ちょっと不良っぽいぐらいの少年少女にまで広げた良い意味でポップな作品だったから残念だったな。そして、ANARCHYの『NEW YANKEE』もまた、『JUST BALLIN’ NOW』を踏まえたような野心的な作品だと感じた。マーケティング・アナリストの原田曜平が提唱した“マイルド・ヤンキー”というラベリングは上から目線が反感を呼んでいたけど、ANARCHYはリスナーを“ニュー・ヤンキー”と呼んで仲間目線で肯定している。

中矢:先日、ANARCHY本人にインタビューをしたのですが、これまでとは違うリスナーを獲得しようという意識はあるみたいですね。たとえばヒップホップを聴き始めた不良っぽい中高生が、仲間や女の子との馬鹿騒ぎを歌った「Energy Drink」「Shake Dat Ass」といった曲を聴いて「調子イイじゃん!」と思い、今回のアルバムからファンになることもあるのかなと。あと、その名も「Love Song」という曲は、女子高生にも届くように書いたと言っていました。どこまで戦略的なのかはわからないけれど、実際、情景描写が極端に少ない、シンプルな恋愛感情で構成されたリリックで、それは現在のJ-POPの歌詞にも通じるように思いましたね。

磯部:ただ、ANARCHYのもともとのファンって、彼の育った過酷な環境を背景としたヒリヒリするようなリリシズムに引かれていたひとが多いはずで、だからこそ、『NEW YANKEE』の初回特典を自叙伝『痛みの作文』の文庫版にしたり、向島団地のシーンが多いドキュメンタリー『DANCHI NO YUME』が同時公開されたんでしょう。そういうひとたちがアルバムの前半に置かれたパーティ・ソングに引いちゃわないかなとは思った。もちろん、オープニングの「The Theme」なんかには「現実が酷いからこそ、パーティを楽しもう」みたいなメッセージが込められているわけだけど、アルバムを通していちばん印象に残る“ヒリヒリするようなリリシズム”が「Moon Child」でフィーチャリングされているKOHHのヴァースっていうのも……。最近、KOHHは得意のチャラくてバカっぽいラップを封印したシリアスなアルバム『MONOCHROME』をリリースしたけど、お株を奪われている感じはしたな。

 それに、件のパーティ・ソング群のつくりは、ANARCHYが新しいリスナーとして想定しているような普通の不良の子たちにとってはエッジー過ぎるんじゃないかと。まぁ、彼の言う“ヤンキー”に、“マイルド”の真逆と言ってもいい“ニュー”という形容詞がかかっているのは、「不良こそ最新の音楽を聴いて、格好付けて欲しい」という願いもあるんだろうけど……果たして、それは、“マイルド・ヤンキー”が好むとされる、EXILEの“マイルド”化されたポップ・ミュージックを凌駕することが出来るだろうか。

中矢:なるほど。KOHHとかKUTS DA COYOTEとか、ああいうチャラくておバカなラップを実践しようとしている人は日本にも出てきているけど、それを受容する層はまだ限られていると。対して、EXILEは独自のドメスティックな文化を形成しているともいえるか……。

磯部:『NEW YANKEE』の前半パート含め、彼らの一見、チャラかったりバカっぽかったりするラップは、実はラップ・ミュージックやベース・ミュージックのモードを意識したスノッブな表現だから、EXILEを聴いているようなリスナーにはハードルが高いんじゃないかな。そういう意味で同アルバムは“グローカル・ビーツ”(吉本秀純と大石始が監修した著作のタイトルより/音楽出版社、2011年)としても興味深いというか、グローバルな音楽や価値観を、日本向けにどうローカライズするかという問題を考える上でも興味深いと思った。

 その点、EXILEの新曲「NEW HORIZON」のローカライズの仕方も面白くて、あのMVってやたら壮大だけど、単に、新しいメンバーが古いメンバーと合流してHIROの楽屋に挨拶しに行くっていう話でしょう? そういう如何にも日本的なパイセン文化がアフロ・フューチャリズム的な壮大な世界観の中で描かれている。

EXILE / NEW HORIZON

 あるいは、ANARCHYが少年院のテレビでその姿を観て、本格的にラップをしようと思ったっていうZEEBRAもラップ・ミュージックのグローバライズとローカライズのバランスには極めて意識的なひと。「Greatful Days」(DRAGON ASH feat.ACO, ZEEBRA、99年)の「俺は東京生まれHIP HOP育ち 悪そうな奴は大体友達」は恐らく日本語ラップでいちばん有名なラインで、そこでも“ニガ”なノリが“DQN”なノリに、見事に翻訳されている。ちなみに、個人的に好きなのは「MR.DYNAMITE」(00年)で自分のリスナーを定義していく3ヴァース目に出てくる「バスじゃモロ最後部な奴ら」というライン。いわゆるゼロ年代批評では「学校を拡張したものが社会である」みたいな語り口が流行ったらしいけど、ZEEBRAはそれにも先駆けていたし、“NEW YANKEE”っていう定義より明快だよね。

中矢:パイセン文化といえば、漢が率いるMSCは同じ地元・新宿の先輩が社長を務めるLibra Recordsから名作を発表してきましたけど、漢は2012年に独立し、この6月にはDOMMUNEでLibra社長のパワハラとギャラ未払いなどがあったことを告発しましたよね(参考:MC漢ら、レーベル始動会見でBEEF宣言も 宇川直宏「ミュージックビジネスに風穴開ける動き」)。2000年代、地元の仲間とともにヒップホップでカネを稼ぎ、成り上がるというヴィジョンを描くラッパーは他にもいましたけど……。

磯部:あれはあれで今っぽいんじゃないかな。工藤明夫の『いびつな絆』(宝島社、2013年)や瓜田純士の『遺書』(太田出版、2014年)みたいな話題の不良本で描かれていた最近の不良のスタイルも、地元の上下関係より同世代の横の繋がりを重視して、パイセンだろうが気に食わなかったらガンガン捲くっていくっていうものだったし。地域共同体が弱体化すると、当然、そうなるよね。あと、漢は新しくつくったレーベル<9sari group>のオフィスをDARTHREIDERとシェアしているというのも興味深い。漢は、日本においてアウトローな表現が受容されるのには限界があると分かっているからこそ、彼とは真逆のクリーンでインテリジェントなイメージを持っているDARTHREIDERをパートナーに選んだようなところもあるんじゃないかな。それと、オフィス周りの地域住民の警戒心を解くためにカレー・パーティを催していたのも良い話だった。

鎖カレー会映像

中矢:9SARI OFFICEがYouTubeにアップしている「9SARI HEAD LlINE 番外編」というイメージ映像があるんですけど、ギャングどうしの銃撃戦をパロディ化し、D.Oをはじめ2人が主宰するレーベルに所属するラッパーらが水鉄砲で撃ち合うという動画なんです。これまで漢やD.Oにはアウトロー的なイメージがありましたが、それを逆手に取りながらおどける彼らの様子が可笑しいですね。ただ、EXILEの場合、ベースにはこうしたラッパーたちと同じヤンキー文化があるかもしれないものの、ドラッグとかセックスとかダーティで下品なイメージは一切排除していますよね。

磯部:EXILEが話している映像を観ていても、丁寧な言葉で当たり障りのないことしか言わないから、耳を素通りしちゃうんだよね。ただ、とにかく、「HIROさんを尊敬している」っていうことだけは伝わってくるんだけど、あれもまた極端に日本社会化された“Swag(スワッグ)”なのかもしれない。スワッグはUSのラップ・ミュージックで数年前に流行った言葉で、ざっくり言うと、「その人にしかないフッションだったり立ち振る舞いだったりのスタイルを持っている」みたいなことになるのかな。でも、日本では、ファッション・ブランドの<Swagger>が倒産したのは関係ないとして、板野友美が『SxWxAxG』ってアルバムを出してAKB48時代のファンが離れていったり、それまでスワッグを体現していたKOHHが「Fuck Swag」って曲で「結局見た目より中身」って急に生真面目なことを歌い出したり、“スワッグ”という価値観に対する抵抗感が表面化しつつある。それってやっぱり、アイドルでもラップでも、日本では単なる“出る杭”では駄目で、“全体を支えるための杭”こそが評価されるっていうことなのかもしれない。EXILEの「NEW HORIZON」のMVにはソロ・ダンスでスワッグしてみせるシーンがあるけど、彼らEXILEメンバーが実践している「HIROさんを頂点としたEXILE TRIBEにしっかりと貢献した上で目立つ」というのは実に日本的な“スワッグ”なんじゃないかなって。

中矢:しかも、その教育がすごく徹底されている印象があって、それはE-girlsなんかにも踏襲されている気がしますね。先ほど、ZEEBRAがスノッブな輸入文化だったヒップホップを日本のヤンキー層にも浸透させた話が出ましたけど、EXILEもそういったことに自覚的なんですかね?

磯部:『サイゾー』のEXILE特集で、ライターの西森路代氏が「サマンサタバサと連動した『Diamond Only』のMVでメンバー全員が同ブランドのバッグを掛ける姿が象徴するように、E-Girlsはいわゆる“量産型女子大生”のロールモデル」と言っていたけど、それは必ずしも無個性という意味ではなくて、ルールを守った中で個性を出す日本式“スワッグ”なんだと思う。その点、E-girlsは「LDHからK-POPへの回答」だなんてよく言われるものの、USから直輸入した韓国式スワッグともまた違うんじゃないかな。

E-girls / Diamond Only (Music Video)

 そして、HIROはそのようなローカライズに極めて意識的だと思う。彼はディスコの店員からZOOになった、いわゆる芸能界というよりはちゃんと日本のダンス・カルチャーを出自に持つひとで、ZOOを脱退したCRAZY-Aが関わっていった日本のラップ・ミュージック・シーンと、HIROがつくり上げたEXILE TRIBEは兄弟みたいなものだとも言える。前者はグローバライズにこだわり続けているひとが多いからこそ大きくならなかったし、後者はダサいと言われようがローカライズを厭わなかったからこそ大きくなったんじゃないかな。もしくは、HIROは出自であるはずのクラブを、現在、何処か遠ざけているようなところがあるように思えるけど、それは、今の日本では風営法の影響もあってクラブのイメージが悪いからで、だからこそ、彼はダンススクールとショッピングモールとコンサートホールを“現場”に選んでいる。

中矢:西森さんにも磯部さんにもご協力いただいたE-girlsの記事では、山形県に住んでいる小学4年生の女の子に取材したんです。その子は幼稚園の頃にEXILEにあこがれてダンスを始め、今はE-girlsの“制服ダンス”(ミュージック・ビデオの前半部分で制服姿のメンバーが繰り広げるダンス・パフォーマンス)のDVDを母親にダンス・スクールまで送ってもらう車の中でよく見ていると言っていたんですけど、東北地方にはまだEXPG(LDHが運営するダンス・スクール)がないらしくて。で、母親に「もし仙台あたりにEXPGができたら?」と訊いたら、「すぐに娘を通わせます!」と言っていました。要するに、親子がターゲットになっているんですね。

磯部:きゃりーぱみゅぱみゅの武道館公演も親子連れが多かったことが印象的だったけど、EXILE然り、AKB48然り、人口が現象している日本で売り上げを延ばそうと思ったら、当然、親子をターゲットにするよね。しかも、EXPGの優秀な子はEXILEのステージに上げてもらえるわけでしょう。そんなことになったら、おじいちゃんおばあちゃんや親戚もチケットを買う。それに、HIROさんの目が行き届いているから、子供を預けるのも安心と。ジャニーズやハロプロやAKBにははみ出してしまうスワッグな奴らがいるけど、EXILEからはまだ決定的なやつが出てきていないのは、管理がしっかりしている証拠。

 あと、EXILEとスワッグと言えば、LDHにはDOBERMAN INCというラップ・グループが所属していて、彼らは2000年代初頭のインディ・デビュー時、いまで言うスワッグに先駆けることをやっていたんだけど、LDHに所属して以降はどうも飼い殺しにされているように思えてしまって。それが、今回、DOBERMAN INFINITYとして再始動するっていうから、果たしてHIROがどんな落としどころを考えたのか、ちょっと楽しみだな。

(後編【海の家のクラブ化、危険ドラッグ、EDMブーム……磯部涼と中矢俊一郎が語る、音楽と社会の接点】へ続く)

(構成=編集部)

■磯部 涼(いそべ・りょう)
音楽ライター。78年生まれ。編著に風営法とクラブの問題を扱った『踊ってはいけない国、日本』『踊ってはいけない国で、踊り続けるために』(共に河出書房新社)がある。4月25日に九龍ジョーとの共著『遊びつかれた朝に――10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』(Pヴァイン)を刊行。

■中矢俊一郎(なかや・しゅんいちろう)
1982年、名古屋生まれ。「スタジオ・ボイス」編集部を経て、現在はフリーの編集者/ライターとして「TRANSIT」「サイゾー」などの媒体で暗躍。音楽のみならず、ポップ・カルチャー、ユース・カルチャー全般を取材対象としています。編著『HOSONO百景』(細野晴臣著/河出書房新社)が発売中。余談ですが、ミツメというバンドに実弟がいます。

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