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今、大阪のガールズバンドがアツい カネヨリマサル、FiSHBORN、ヤユヨ……個性的な楽曲で勢い増す3組

リアルサウンド

20/3/11(水) 12:00

 ここ数年でガールズバンドのシーンは変わってきた。“女性らしいロック”が、“男性にはできないロック”というオリジナリティに昇華されたように思う。“ガーリー”、“キュート”、“セクシー”、といった表面的な“女性らしさ”ではなく、内面的な女性ならではの気持ちを吐露していくバンドが増えている。女性によるロックやバンドがリアルになったのだ。どこか男性優位のロックシーンにおいて、この変化は大きいことだと思っている。(参考:Hump Back、TETORA、東京初期衝動、BRATS……圧倒的なフロントマン擁する、次世代担う女性バンド)

 少し言い方を変えれば、“日常を切り取ったガールズロック”の周知だ。背伸びをするとか、他人からよく思われたいだとか……、そういった理想の自分ではなく、ありのままの自分でいることを高らかに歌うバンドのことである。

 yonige、Hump Back、TETORA……そうした飾らない気持ちを歌い、多くのリスナーの心を掴んでいるガールズバンドは不思議と大阪出身が多い。それが地域性によるものなのかはわからないのだが、「今、大阪のガールズバンドがアツい」のは確かである。そうした大阪出身の、今注目しておきたい新進気鋭のガールズバンドを3組、紹介していきたい。

(関連:カネヨリマサル、FiSHBORN、ヤユヨ……個性的な楽曲で勢い増す3組

■カネヨリマサル:幼さを感じる歌声に隠れたバンドの特異性

 どこか幼さを感じる澄んだ声。歯切れが良いわけではないのに言葉がきちんと届いてくる不思議な声。ファルセットや高音の抜け方と時折見せる語尾のかすれ具合にドキッとする。

 ちとせみな(Vo/Gt)の歌は「私の歌を聴いてほしい」だったり「届けたいメッセージがある」などといった強いものではない。ただ独り言のように自分の思ったことを歌にしている。何が言いたいのか読み解いてみても、それほど大きな意味はないのかもしれない。しかしながら、その“普通”の言葉のひとつひとつが日常的なものであり、女性の持つ複雑な心模様を表しているように思える。

  3人のアンサンブルは的確に楽曲を捉えている。もりもとさな(Dr)の精確なリズム、派手さはないが耳に残る印象的なラインを紡ぐ、いしはらめい(Ba)。シンプルながらも時折ハッとさせられるアレンジ。「もしも」をはじめとした楽曲で見られる、間奏のギターとベースが掛け合っていく絡みは自然に見せながらも個性的。ギターのゆるやかなフレーズにまとわりついていくようなベース、互いのボイシングの探り合いに、カネヨリマサルというバンドの特異性を垣間見る。サビ始まりの「はしる、夜」。この手の楽曲構成といえば、ドアタマで掴んでから一旦前奏に入り、仕切り直すのがロックバンドの常套句である。しかしながらこの曲は、サビ始まりからそのまま平歌に突入するという、斬新で大胆不適な展開で攻めてくる。こうした稀有なアレンジは、確信犯的なものなのか、はたまた自然にやっているだけなのか。どちらにせよ、ただならぬ才気とポテンシャルを感じざるを得ない。

 印象的なバンド名は、多くの人が思ったであろう「金より勝る」ではなく、「姓:カネヨリ 名:マサル」という語感で決めただけの架空の人物名だそうで、特に深い意味はないという。あまり深読みすると“負け”てしまいそうな、無自覚のナチュラルガールズバンドなのかもしれない。

■FiSHBORN:ちょっぴり青くさくて、それでいて潔い

 「釣具屋でよくかかっているガールズバンドが釣り仲間の間で人気」だと、釣り好きの知人が言っていた。自分は釣りをしないためか、何を言ってるのかよくわからなかった。調べてみると、『タックルベリー』という中古釣具販売チェーン店に、「Music Choice」という選りすぐりのインディーズ楽曲を毎月1~2曲紹介する企画があり、そこで選ばれたFiSHBONEという大阪のガールズバンドが店内BGMとして流れているようだ。釣りだからFiSHBONE? 釣り好きでいい歳した男性にウケるガールズバンド? ……という安直な考えで想像していたものとはだいぶ違っていた。

〈天才にはなれないと気づいたことに 僕ら気づかないふりをすることを選んだ -「此処から」〉

 その出だしの一節を聴き、いきなり胸を掴まれた。『タックルベリー』で大人たちの心を動かした理由もすぐにわかった。夢もロックンロールも、年齢など関係ないのだから。

 FiSHBORNの楽曲はフォークソング的である。伸ばしていくような符割が少なくJ-POP要素はあまり感じない。メロディとリズムと言葉の置き方が絶妙で、三位一体となって楽曲に見合ったテンポとともに転がるように歌が進んでいく。

 前田小春(Vo/Gt)の歌は異様なほどに気持ち良くて、聴いているとなんだか晴れやか気分になってくる。〈なんにもいらないよ 簡単でいいよ たった3コードでよかったんだ - 「夜を抜けて」〉と、3コードに乗せて歌う。小細工なんて必要ない、アレンジもシンプルだ。バンドの音に乗せて歌っているのではなく、まず歌があってそこに合わせにいっているバンド感。ちょっぴり青くさくて、それでいて潔い。そんな男性バンドに向けたような言葉が、ガールズバンドの褒め言葉になるなんて、FiSHBORNを聴くまでは思ってもみなかった。

■ヤユヨ:懐かしくて心地良い令和の女子大生

 最後は昨年12月に自身初となるMV「さよなら前夜」が公開されて以来、耳の早いロックファンの間で話題となっているヤユヨ。

 やりきれない感情を日本の土着的な節に乗せて歌う。なんだか懐かしい気分にさせてくれる耳馴染みの良いメロディ。ちょっと古めかしくて野暮ったさを感じるところも、逆に心地良い。今どきの女子大学生バンドながら、一際目立つリコ(Vo/Gt)の佇まいはフロントマンとしてのオーラを放ち、ちょっとアブなさも兼ね備えているようで、とても魅力的だ。

 ライブ会場とタワーレコードの一部店舗で発売されているシングル『さよなら前夜』には、甘い恋心を綴った「ユー!」や、メンヘラ女子のダークな気持ちを歌う「メアリーちゃん」など、多彩な4曲が収められている。リコとぺっぺ(Gt/Cho)、タイプの異なる2人のソングライターがいることがバンドの振り幅を大きくしている。

 結成1年ながら、早くも漂わせる謎の貫禄含め、これからが楽しみで仕方ないバンドだ。今年6月に初の全国流通盤『ヤユヨ』のリリースも決定しており、目が離せない。

 ここにあげたバンドに共通するものーー彼女たちは説教じみたことも、はたまた「頑張れ」とも言わない。けれども「自分と同じような気持ちでいる人間が他にもいて、そのことをストレートに歌にしてくれる存在がいる」という安心感と心強さをリスナーに与えてくれる。そんな歌を聴いて「今よりもうちょっと自分のことを好きになってみようかな」「明日は今日より少しだけ頑張って生きてみようかな」なんて、思うのである。(冬将軍)

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