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『事故物件 恐い間取り』の背後にある、不気味な実話の数々 恐怖は私たちのすぐそばに

リアルサウンド

20/9/8(火) 18:00

 実は、昔住んでいた家の隣のアパートに夜、救急車とパトカーが来ていたことがある。私はその時どこかを遊び歩いていて、実際にその現場を目撃したわけではない。その後なんとなく、病気による孤独死という風の噂を耳にした。真相はわからないが、私は大島てるのサイトにそのアパートが登録されていたらどうしようと、ずっと不安でいた。

 事故物件とは、そんな風にある日身近で突然生まれる。先日、こちらで『呪怨:呪いの家』のレビューを書かせていただいたが、まさにあの家は最強の事故物件。私は本当のことを言うと、誰よりもお化けとか心霊の類が怖くて苦手だ。もちろん、創作物としてのホラーは好きなので「事故物件住みます芸人」の松原タニシの著書を中田秀夫監督が映画化した本作『事故物件 恐い間取り』も、「怖いなあ、怖いなあ」と思いつつ、ワクワクしながら観た。人間とは誰しもが“怖いもの見たさ”で結局そういうものを手に取ってしまうものである。

 ただ本作は何を隠そう、そう言った“怖いもの見たさ”が引き起こす本当にあった怖い話がベース。映画を笑って観ていても、背後には笑えない実話があるのだ。

実話はもっと気味が悪かった

 本作は、ひょんなことから「事故物件住みます芸人」となった山野ヤマメ(亀梨和也)と、元相方であり、ともに事故物件に挑む中井(瀬戸康史)と、コンビ時代から二人のファンだった梓(奈緒)の3人の身に起こる恐怖体験が描かれている。もちろん、ヤマメは松原タニシをモデルにしたキャラクター。しかし、映画でヤマメがコンビを解消した中井は、実際は後輩芸人で、梓も映画オリジナルの登場人物であるように全てが全てノンフィクションというわけではない。そして彼が事故物件に住み始める流れも、映画と現実では少し違うのだ。

 ちなみに、実際はこうである。心斎橋の大丸劇場であった「北野誠のおまえら行くな。」のトークイベントに、大阪の若手芸人ゲストとして出ることになった松原タニシ。そこで話したエピソードが、「事故物件住みます芸人」誕生のきっかけとなった。その話とは、自分の知り合いのお笑い芸人に起きたことである。

 当時、松竹芸能の養成所がOCATの地下にあり、そこのライブに出るためのネタ見せオーディションがあった。松原タニシも参加することがあったと言う。しかしある時、そこにいつも来る芸人が来ないという事態が発生。その芸人の住むマンションが、養成所から近場だったので、仲間の芸人は彼を呼びに行った。

 部屋に辿りつくとドアは開いていた。入ってみると、中はカーテンで締め切られていて、たくさんのろうそくが立っていたそう。そして来なかった芸人は、そこでひたすら野菜を千切りにしていたらしい。日本語も通じない。彼はおかしくなってしまってその後、精神衰弱で事務所を退所、山口の実家に帰った。その後、そこが養成所の近くで安い物件なのでほかの松竹芸能の芸人が入居するも、また同じようなことが発生。その彼も、やはり日本語が通じず、精神に異常をきたして松竹を辞めたという。

 この話をトークイベントで披露した松原タニシに、北野誠が「お前、そこ住んでみろ」と言ったことが、「事故物件住みます芸人」の始まりだった。これは少しアレンジされて映画の中にも似たような話として登場する。中井が番組プロデューサーの松尾に話したストーリーだ。松尾はモデルとなった北野のように、「そこに住んでみろ」とヤマメに言う。しかし、すでにそこに住人がいるということで借りることができず、後日殺人のあった物件に住み始める。この流れは実話も同じなのだが、実は借りることができなかった理由が少し違う。

 というのも、松原タニシはそのマンションに住めなかった。入居お断りだったという。しかし、実際に行ってみたのだ。すると、入り口から赤と白と黄色のテープが各部屋に繋がるようにして貼られている。そして各部屋の玄関のドアには一般の小さな覗き窓ではなく、なんと外側から開けて中を見るような仕様になっていた。さらには、一階の全ての窓が鉄格子で覆われている。どうやらそこは以前、精神病院だったのではないかという話だ。

 その後、彼が住み始めた殺人事件の起きた事故物件は、映画でも同じ一軒目として最初から恐怖全開の調子で色々な事象が起きる。特に幽霊がまだ半ば生きている人間かのように映した中田秀夫監督の捉え方も興味深い。

事故物件と中田秀夫監督の関係

 中田秀夫といえばJホラーを代表する監督としてこれまで多くの作品を手がけてきた。その作品の特徴は『女優霊』や『リング』が代表するように人間の業による悲劇的な恐怖だ。そして『仄暗い水の底から』『クロユリ団地』のように、マンション・団地という空間での演出経験も豊富である。しかも何を隠そう、彼は2015年に放送された『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)で「事故物件」というタイトルの作品をすでに手がけているのだ。

 その物語も、娘と二人きりでとあるマンションの一室に引っ越してきた元看護婦が体験した恐怖を、彼女目線で語るものだった。深夜0:12に鳴る無言電話、そして背後に現れ娘の部屋へと向かう髪の長い白い服の女。そこには中田秀夫の得意な、少し悲しくて切ないエッセンスがあり、それがストーリーに深みを与えつつも、怖い部分はしっかり怖い。

 中田監督は、幽霊の顔や全体像を写すことに抵抗がないように思える。むしろ、時に大胆で、エクストリームな形で登場させることもある。本作『事故物件 恐い間取り』でもそんな場面はもちろん登場する。一方、幽霊をはっきりと映さない場面での演出も興味深い。本作には、梓がヤマメのマンションの自転車置き場で何か霊的なものを見かけるシーンがある。その時、それは少しぼんわりしていて、しかしはっきりとそこにある、煤のような黒い集合体として描かれていたのだ。実は以前、“見える”という知人がどういう風に見えるか教えてくれた時、まさにそんな黒いモヤの塊に見えると話していた。

 そして、これは単なる私の憶測なのだが、タクシーの運転手さんがよくする、後ろに乗せたお客さんが実はこの世の人ではなかったという類のホラー実体験話。これはつまり、霊がまるで生きている人のように見えたからではないだろうか。そうなると、黒いモヤに映す演出も、大胆に顔を見せることで普通にそこにいる生きた人間のように映す演出(特に一軒目の霊2体が凄かった)のそのどちらもが、ある意味リアリティのある幽霊の視覚的捉え方だと思えるし、やはり中田秀夫は数を撮っているだけその恐怖のレパートリーの多さに驚かされる。

本当の話を聞くと、そこにあるのはリアルな恐怖

 ただ、なんといっても霊は見える人と見えない人、感じる人と感じられない人がいて、その存在自体にリアリズムを求めるのは難しいかもしれない。しかし、心霊現象(またの名を他に説明のつかない現象)が起きたという「事実」は、確かだ。リアルだ。

 そんな、確かに「事実」として起きた松原タニシの事故物件エピソードの数々が、本作のストーリーでは紡がれていく。松原タニシと、本作では中井の立ち位置である後輩芸人は実際に車に轢き逃げされているし、劇中に登場するトラウマ級の留守電も実際に起きたことだ。詳しくは言えないがエンドロールに登場する写真も『死霊館』的な後味の悪さを感じさせる。あくまでタニシは意図的に事故物件に住むことで、こうした出来事を引き寄せたと言えるが、私たちが知らずにそうした事故物件に住んでしまう可能性は決して0ではないのだ。

 ちなみに、詳しくはネタバレになるので言及を控えるが、例えば一軒目で起きた現象は、その全てが決してあそこで起きたわけではない。ほかの場所でのエピソードと融合させることでその恐怖をさらに輪にかけたものにしているのだ。

 そうなってくると、「一体どこからどこまでが本当なのか」というのが気になってくる。調べていくと特に、ある家に関する話が興味深かった。

 それは恐らく映画でも4軒目として登場した物件のこと。しかし、実際の話では、松原タニシはそこにはあまり滞在できなかった。その物件は寝ても疲れが取れず身体が休まらないので、なかなかその物件に帰ろうとしなかった。そこに入った瞬間、足から力が抜けて倒れて気を失ったのだそうだ。なんでもその物件はアパートの2階の部屋で、向かいの家に防犯センサーがあるのだが、深夜2時から明け方にかけてそれがずっと反応していたのだそうだ。彼が住めないと言って出て行ったそんな家に、映画版ではヤマメが住むことを決心する。もちろん、そこには彼の想像を絶する恐怖が待ち構えていたのだが……。

 こんなふうに、創作と実話の境目を探していくのは、本作のさらなる楽しみ方だと思う。しかし、あまりおすすめできるかは分からない。私自身、調べるうちに知ってしまった様々なエピソードが、頭からこびりついて離れない。夜が怖くて眠れなくなるのだ。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードハーフ。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆。InstagramTwitter

■公開情報
『事故物件 恐い間取り』
全国公開中
出演:亀梨和也、奈緒、瀬戸康史、江口のりこ、木下ほうか、MEGUMI、真魚、瀧川英次、加藤諒、坂口涼太郎、中田クルミ、団長安田、クロちゃん、バービー、宇野祥平、高田純次、小手伸也、有野晋哉、濱口優
原作:松原タニシ『事故物件怪談 恐い間取り』(二見書房刊)
監督:中田秀夫
脚本:ブラジリィー・アン・山田
音楽:fox capture plan
企画・配給:松竹
制作プロダクション:松竹撮影所
(c) 2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会
公式サイト:movies.shochiku.co.jp/jikobukken-movie
公式Twitter:@jikobukken2020

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