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ノルウェーで大ヒット 『THE QUAKE/ザ・クエイク』が描く、災害に直面した家族の絆と社会問題

リアルサウンド

19/4/26(金) 10:00

 『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018年)の冒頭で強烈な印象を残し、『レヴェナント:蘇えりし者』(2015年)などのハリウッド映画にも出演していたノルウェーの俳優クリストファー・ヨーネルが主演し、ノルウェー国内で大ヒットを果たしたディザスター・ムービーが、『THE QUAKE/ザ・クエイク』だ。

参考:『THE QUAKE/ザ・クエイク』場面写真

 切り立ったフィヨルドや、オーロラが見られることで、自然に注目されがちなノルウェー。その国の映画といえば、近年では『ウトヤ島、7月22日』(2018年)、『テルマ』(2017年)、『サーミの血』(2016年)、『トロール・ハンター』(2010年)などの質の高い作品がコアな映画ファンを中心に話題となったように、大規模ではないが社会問題を絡めながら見応えのある映画を撮るような、クレバーな作品が多い印象がある。

 そんななか、本作『THE QUAKE/ザ・クエイク』は、それにくわえてハリウッドのアクション映画を思わせるような、大スケールの天変地異をも描く挑戦作。その試みは成功し、本国では3週連続で興行収入1位に輝き、2018年度の自国作品の興行収入トップとなった。ここでは、そんな本作の人気の理由や、見どころを解説しながら、描かれているテーマを考察していきたい。

 本作は、2016年公開の『THE WAVE/ザ・ウェイブ』の設定を一部引き継いでいる。この作品を見なくては本作が分からないということはないが、未見の観客のために解説しておいた方が親切だろう。『THE WAVE/ザ・ウェイブ』は、岩山の崩れによる大津波の脅威を描いたものだった。舞台となるのは、ノルウェーが観光地として誇り、世界遺産にも選ばれたフィヨルド群「ガイランゲルフィヨルド」である。

 だが専門家によると、そこで大規模な崩落が起きてしまうと、その衝撃によって津波が発生し、ものの10分ほどで近隣の村々を飲み込んでいくほどの惨事が起こる可能性があるのだという。これは映画のなかの話だけではなく、現実にいつか起こるといわれている災害である。だから、とくにノルウェーの人々にとって、その危機は人ごとではない。

 映画のなかで崩落の兆候に、いちはやく反応したのが、クリストファー・ヨーネル演じる主人公の地質学者、クリスチャンだった。だが津波警戒センターは、クリスチャンの必死の訴えを耳にしながら、なかなか避難警報を出そうとしない。もしもその予測が間違いだった場合、避難にともなう観光地施設の金銭的な損害や、観光地そのもののブランド価値を下落させることにつながり、警報を出すセンターの責任が問われることになるからである。よって、本当に災害が起き始めるギリギリまで避難警報のボタンを押そうとしないのだ。

 実際のノルウェーの行政の内情までは分からないが、人々の命の危険よりも、個人の保身や、ある団体の不利益を回避することを優先させてしまうことで、被害が深刻化する可能性が生まれるという問題は、もちろんノルウェーのみにとどまるものではなく、どこにでもあり得る脅威である。『THE WAVE/ザ・ウェイブ』は、災害を表現する迫力の映像だけではなく、そんな社会問題を組み込んだことで、そのどちらも現実に起こり得るという、無視できない状況を映画のなかに表現した。だからこそ、そんな不安をなんとなく感じている人々の興味を刺激して大ヒットにつながったのだ。ローアル・ユートハウグ監督は、この映画での成功が評価され、ハリウッド映画『トゥームレイダー ファースト・ミッション』(2017年)の監督に抜擢されることになった。

 ユートハウグ監督に代わって本作『THE QUAKE/ザ・クエイク』を監督するのは、『特捜部Q Pからのメッセージ』(2016年)の撮影で、アクションとサスペンスシーンを高いクォリティーで表現したヨン・アンドレアス・アンネシェン監督。その手腕と性質もあり、本作は『THE WAVE/ザ・ウェイブ』を超えるスケールと、大幅に強化された娯楽性で、都市の大地震の脅威を描く作品となった。オスロ上空からの大地震の衝撃を映し出すシーンや、倒壊寸前の高層ビルでの命を懸けた救出劇など、スペクタクルとサスペンスが同時に描かれることで、緊張が途切れず持続。そこではハリウッド映画では敬遠されるような展開も用意されている。そしてもちろん、「警報を鳴らすか否か」という深刻な問題が、またしても重要な要素となる。

 舞台となるのは、ノルウェーの首都であり、最大の都市でもあるオスロだ。歴史的な建造物と近代的な高層ビルが立ち並び、「オスロフィヨルド」にも面している、古今の文化と自然が融合した美しい街である。

 『THE WAVE/ザ・ウェイブ』の災害から3年経ち、災害を予測したことで自分の愛する家族を含めた大勢の命を救い、メディアに英雄扱いされたクリスチャン。それでも彼は、災害によって人命が失われたことに自責の念を感じていて、それは彼の私生活にも影響を与え、様々な支障をきたしていた。ハリウッドの娯楽映画では、なかなかこのように前作の悲劇を引きずる描写は少ない。従来のステレオタイプな見方では、ノルウェー人はヨーロッパのなかでも素朴な国民性を持つといわれてきたが、そんな生真面目さを、本作の主人公クリスチャンは体現しているのかもしれない。

 そんななか、クリスチャンは他の研究者が死亡したことをきっかけに、オスロでまたしても災害の予兆に気づき始めることになる。だが、やはり当局はそんなクリスチャンの訴えを本気にはしない。大きな災害を予見して英雄となった人物の声でさえ、首都の大地震となると、その予見は社会システムを動かす人々にとって迷惑きわまりないものとなる。警報を出すことで首都機能が麻痺し、それが間違いだとなれば、やはり責任問題となるからだ。災害がより大規模であることが予想されるほど、その対応は消極的なものになってしまうという矛盾……。

 本作が真に描いているのは、災害に対するシステムへの不安だけではないだろう。その背後には、短期的な利益や目の前の損得ばかりを追って、自分たちが危険のただなかにあることから目をそらし、綱渡りを続けようとする現代社会そのものが存在する。日本でも、例えば人身事故が起こり通勤列車の運行に支障をきたすと、自分の移動時間が遅れたことばかりを気にして怒号をあげるような人たちは少なくない。経済や効率ばかりを優先させる社会と、そんな価値観のなかで、本当はそれらより優先されるべき大事なものを見落としがちな市民たちの意識が、このような異常な状況、空気を作り出してしまうのではないのか。

 筆者は東日本大震災を東北地方で体験し、想定外の事態にあわてた一人だ。電力設備のダメージによって停電し、すべての連絡機能も絶たれ、いたるところで割れた水道管から水が吹き出し、信号機が使えなくなった道路を、地割れの恐怖のなか慎重な運転で進んで、家族や犬たちのいる実家に乗用車でたどり着いた。そして、飲み水もなくトイレも使えず、暖房もつけられないなか、まだ肌寒い日々を、家族だけでなく近隣の住民やボランティアの人たちに助けられ、助け合いながら、とりあえずライフラインが復旧するまでの1ヶ月間を必死で乗り越えた。

 普段はなかなか意識しないことだが、自分にとって家族は心のよりどころであり、守らなければならない存在だということ、そして他人同士のつながりや命の大切さが、頭で考えるようなきれいごとではなく、リアルな体験のなかで、そのときはっきりと理解することができた。

 本作でも、一度は壊れた家族関係が、災害と戦うことによって取り戻され、他人と協力し合って人命を助けようと奮闘する描写がある。それは夢物語ではなく、災害のいろいろな場面で本当に起きたことだ。しかし、本当は災害が起きる前に、個々人がそれぞれの大事なもの、本当に守るべきものに気づき準備することが重要なのではないだろうか。本作『THE QUAKE/ザ・クエイク』は、日常のなかで大切なものを見逃しがちになるわれわれに、そんな“警報”を鳴らしてくれる作品のひとつである。 (文=小野寺系)

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