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竹内涼真と鈴木亮平にツッコミ多発注意報! 愚直な親子の掌で転がされる『テセウスの船』の楽しみ

リアルサウンド

20/3/15(日) 6:00

 竹内涼真主演の『テセウスの船』(TBS系、日曜21時~)が視聴率、評価ともに絶好調のまま終盤を迎えている。主人公・田村心(竹内)が31年前にタイムスリップし、警察官の父・佐野文吾(鈴木亮平)が逮捕された「音臼小無差別殺人事件」を止めるべく奮闘する物語。

 序盤こそ母親役を演じる榮倉奈々の老けメイクの不自然さなどにツッコミが集まっていたが、回を重ねるごとに、視聴者にツッコませることこそが物語の真髄ともいえる展開となってきた。

【写真】目に涙を潤ませるポンコツ心さん

 そもそも主人公がまだ生まれる前の時代に戻り、過去を変えようとするのは、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に通じる内容だ。しかし、根本的に大きく異なるのは、短気だが頭のキレるマーティ(マイケル・J・フォックス)と違い、主人公・心さんがあまりに素直で無邪気で愚直であること。

 ネット上には「心さん」の名前と関連して呟かれているワードとして「ポンコツ」があがっているほどである。なにしろ仰天の愚直さを持つ心さんは、従来のタイムスリップモノではありえない行動を次々にしてしまう。

 第1話ですでに、後に殺人犯として逮捕される父に対して、自分が未来から来たことを打ち明けるし、そんな信じがたい荒唐無稽な話を、おおらかで朗らかな父は、すんなりと受け入れてしまう。

 また、第3話では、父が殺人事件の犯人として逮捕されるという事実も本人に明かしてしまうし、正体を暴こうと執拗に追いかけていた刑事・金丸(ユースケ・サンタマリア)にまで話してしまう。にもかかわらず、この信じられない話を彼らは受け入れる。

 さらに、心さんは、音臼村付近で多数発生した奇妙な事件や事故をまとめたノート投げ捨て、犯人に拾われてしまうし、視聴者の誰もがじれったく感じていた「証拠を録音すること」にようやく気付き、ホッとさせたのもつかの間、それをあろうことかわざわざ犯人に話し、奪われてしまう。

 毎回毎回涙を流し、すぐに感情で動き、一人で走り回り、雨の中、捨てられた小犬のようにただただ座り込んでは、上野樹里に心配される。さらに、回が進むにつれ、罠にはめられた悲劇的な良識ある警察官さんに見えていた父・鈴木亮平もまた、心さんの愚直ぶりに染まり、飲み込まれるよう、愚直になっていく。

 大きな体の二人が、犯人である小学生のみきおを探して、校内を全く同じルートで並走する姿を見たときには思わず脱力してしまった人も多かったのではないか。小学生のみきおに完全に翻弄され、目をウルウルさせて泣きそうになる心さんと、小学生相手に本気で怒る父の哀れさときたら。「愚直はもしかしたら伝染性のものなのではないか」「愚直の拡散こそが犯人の罠ではないか」といった穿った見方までしたくなってくる。

 しかし、もちろんこうした姿に本気でイライラしている視聴者も一部にはいるものの、不思議なことに、多くの視聴者は苦笑&爆笑しつつも、温かい目で見守り、彼らを心配し、応援し続けている。

 そうした視聴者たちの姿は、ほとんどザ・ドリフターズのコント「志村! うしろ、うしろ~!」状態である。あるいは、本気で心配している様は、母のようですらある。

 毎度毎度鼻を真っ赤にし、目をウルウルさせて、走り回っては、泣いてばかりの竹内涼真の健気な姿は、ちょっとおバカな小犬のようである。また、おおらかで優しい父・鈴木亮平との親子の姿は、大型犬と小型犬の戯れのようでもある。

 底抜けの愚直さで、全視聴者を「志村! うしろ、うしろ~!」の子どもたち状態にしたり、老若男女問わず皆の母性を引き出しまくったりする竹内涼真。マイケル・J・フォックスが31年前の音臼村にタイムスリップしたとしても、視聴者はこうも盛り上がらなかっただろうし、何なら事件はあっさり解決してしまうかもしれない。

 しかし、それこそが心さん。スマホやICレコーダーなど便利なものが当たり前にある現代では、物語が起こりにくい。そんな状況下で壮大な物語を巻き起こし、紡いでいけるのは、自らがトラブルを生み続ける心さんのように、果てしなく素直さで真っすぐで、愚直で、うっかりで、その分、愛され力だけが著しく高い、頼りないヒーローなのかもしれない。

 ちなみに、そんな新時代のうっかり愛されヒーローは、かなり確信的に作られていることが、番組公式Twitterでのつぶやきやイジリによってわかる。3月1日には、鈴木亮平演じる父・文吾の構成、演出、カメラアングルによる「テセウスの船番外編」がアップされていた。

 そこでは文吾&心さん父子が番組放送まであと1時間という告知で、「なんでだ~っ!」「うそだろ……(溜息)」「くっそ~! みきお~!」と膝をこぶしで叩き、焦り、悔しがり、セルフパロディともいえる熱い芝居を繰り広げ、盛大に本作の世界観を遊んでいた。

 つまり、どこまでも頼りなくて真っすぐで愚直でポンコツで愛らしい心さん・文吾父子にハラハラ&イライラさせられ、応援に力が入ってしまう我々視聴者は、完全に作り手とキャストの掌で転がされているということだ。

 3月15日放送分からはほぼオリジナル展開となる『テセウスの船』。残りあとわずか、制作陣とキャストたちの掌で転がされる楽しみを味わいたい。

(田幸和歌子)

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