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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

現代日本を泳ぐ気鋭のクリエイターに聞く「現代クリムト講座」

矢島里佳とクリムトは、俯瞰する

特集

第5回

19/3/30(土)

現代クリムト講座の第5回は、日本の伝統文化を現代に更新する「株式会社和える」の矢島里佳さんに話を聞きます。スピードが求められる現代社会で、どうすれば長期的な視野を維持することができるのか。19世紀末ウィーンという近代化の激流で、後世に残る作品を多く描いたクリムトとともに、考察します。

文=田尾圭一郎(ライター)

3月から4月へ。日本の企業の多くは決算期で、やれ来年度の計画をどうしようだの、拡大戦略をどう描こうだのと、議論が様々にされている。2時間3時間、あるいは数日に分けて話し合われるが、内容は一言で言えば「もっと頑張ろう」だし、「では何を頑張ればいいのか?」と問えば、それは労働量であり、創意工夫である。つまり、すべては成長を前提とした議論なのだ。

「和える」の矢島里佳を取材するため、京都を訪れた。和えるは、伝統産業の技術を現代的に活かした赤ちゃんから大人まで使える器やタオルなどの日用品のプロデュース、販売を中心に展開している。近年では、日本の伝統を泊まって体験できるホテルの客室プロデュースや、日本の伝統を学ぶスクール、お誂え(オーダーメイド)等も行い、着実にその事業を広げている。日本における情報や経済の中心はやっぱり東京で、そんななか関東出身の彼女が、2018年に本社を東京に置いたまま、京都移住したことは興味深い。彼女は、どんな“成長”戦略を描いているのだろうか。東京でのやり取りに食傷気味だったぼくの関心は、そこにあった。

「伝統を守る、ということはよく言われますが、すごく大変なことだと思います。伝統をただ守るにはコストがどうしてもかかります。伝統を[活かす]に替えると、伝統自体が経済を生み出し、また次の新しい伝統を生み出す。そして暮らしの豊かさにつながるのだと思います」。

“守る”から“活かす”になったときに、新しい現代的な要素が加えられ、必然的に残る部分と更新される部分が出てくる。それこそがまさに“和える”ことであり、彼女の言う“新しい伝統”なのだろう。
「先日、[aeru room]という日本の伝統を泊まって体感できるホテルの客室をプロデュースするプロジェクトで、姫路にあるホテルの一室に、明珍火箸という物を置かせていただきました。もともとは甲冑をつくっていた技術が、争いがなくなって需要がなくなり、火箸をつくるようになったのが、明珍火箸です。ですが、火鉢や囲炉裏もまた数が減ってきて、使われることが少なくなっています。職人さんから、現代では火箸が触れ合う際の音色を活かし、風鈴などをつくっておられると教えていただき、この部屋では火箸の澄んだ音色を楽しむ癒やしの道具として活用しています。

甲冑、火箸、音色を楽しむ道具。用途だけを捉えるのではなく、裏側にある技術が要素分解されてきたからこそ、暮らしに活かされ現代までその技術がつながれてきたのです」。

19世紀末当時、革新的な表現で多くの非難を受けたクリムトも、作品の細部を一つひとつ見ていくと、様々なものから要素分解し、再構築しているのがわかる。例えば、自由な表現を求めアカデミズムから分離するいっぽうで伝統的なモチーフを扱い、神話や寓話を引用した。装飾的な背景は、一つひとつを見ていくとデザインやテキスタイル、ファッションなどからの引用が伺える。有名な黄金様式においても、日本の金箔技術の影響を非常に受けている。クリムトは、過去を否定し壊したのではない。伝統と(当時の)現在性を、和えたのだ。

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