Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

「2019年」を舞台にしたSF名作『ブレードランナー』『AKIRA』『図書館戦争』 ディストピアは現実に?

リアルサウンド

19/12/25(水) 8:00

 間もなく今年も終わる。2019年は、『ブレードランナー』(1982年)など、過去のSF作品でしばしばとりあげられた未来の年だった。それがもうじき、過去になろうとしている。

 これまでにも、かつて想像された年が訪れ、過ぎていくことが何度もあった。ジョージ・オーウェル原作(1949年刊)で1956年と1984年に映画化された『1984(年)』は、ニュースが書き換えられ、国民が徹底的に監視されるディストピアを題材にしていた。スタンー・キューブリック監督は、SF作家アーサー・C・クラークもシナリオに参加した『2001年宇宙の旅』(1968年)で、有人の木星探査飛行、知能を持ったコンピュータの暴走、人類の超進化を描いた。実際の1984年、2001年になった時には、作品で語られたテクノロジーや危惧がどこまで現実化したか議論になったものだ。

参考:詳細はこちらから

 その種の象徴的な年として日本で注目された1つが、1999年である。フランスの占星術師が1999年の人類滅亡を告げていたとする五島勉著『ノストラダムスの大予言』(1973年)はベストセラーになり、映画化(1974年)もされた。オカルト・終末ブームだった当時のそんな世相から着想を得たのが、浦沢直樹のコミック『20世紀少年』(続編『21世紀少年』も含め2007年完結)だった。これも3部作の形で映画化されている(2009年完結)。

 同作では1969年に子どもたちが遊びで書いた「よげんの書」の通り、2000年12月31日に巨大ロボットが出現し細菌兵器による同時多発テロが各国で起きる。2015年には西暦が終わり、世界滅亡を企み政党を作って暗躍していた黒幕「ともだち」が世界大統領となり、「ともだち暦」が始まる。この物語は「ともだち暦3年」、つまり西暦が続いていれば2017年までを扱っていたので、今からみれば近過去が舞台だったわけだ。

 そして、2019年の今年を舞台にした有名な国内作品が、大友克洋がコミックで発表し(1990年完結)、自らの監督脚本でアニメ映画化(1988年)した『AKIRA』である。1982年に新型爆弾で東京は破壊されたものの、その後、東京湾に「ネオ東京」が築かれ、2020年の東京オリンピックを控え再開発が進んでいる。暴走族、ゲリラ、新興宗教、軍がせめぎあうこの街で、強大なパワーを持つ超能力者をめぐり激闘が勃発するストーリーだ。

 『AKIRA』のように徹底的な破壊の後に再建された社会を舞台とするのは、SFでは1つのパターンになっている。例えば、『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-96年放送)は、世界人口の半分が失われた2000年のセカンドインパクトを経て、2015年には第3新東京市が築かれていた。新首都というモチーフを『AKIRA』から受け継いだのだ。2作はいずれも、苛烈な市街地空襲や2発の原爆投下で敗戦した日本が、驚異的な復興をとげた過去の歴史を未来に投影して想像した物語といえる。再び立ち直った未来社会は、またも壊滅の危機に陥るわけだが。

 1964年の東京オリンピックが戦後復興の象徴だったように、再度の復興の証として2020年の2度目の開催が決定される。『AKIRA』で想像されたその未来を、東日本大震災および原発事故を経験した現実の日本は、なぞることにしたわけだ。似たパターンは『20世紀少年』にもみられた。同作では、「人類の進歩と調和」をテーマに掲げ、科学による明るい未来像を提示した1970年の大阪万博(日本万国博覧会)が物語のポイントになっていた。それは、かつての東京オリンピックとともに敗戦から高度経済成長を遂げた日本を象徴する大イベントだったのである。

 『20世紀少年』では、2000年の世界同時多発テロ以後の激動を経て、2015年の日本は再び万博の開会式を迎える。一方、現実世界では2025年に2度目の大阪万博が催されることが決定しており、『AKIRA』における2度目の東京オリンピックと同様に、現実がフィクションを追いかける展開だ。

 敗戦と復興という過去の歴史にあった失敗と成功をもとに未来を夢想し、今後の時代への不安と希望を語る。それは、未来を描いたSF作品だけでなく、現実社会の将来に向けた計画、予想でもみられる傾向なのである。

 1982年に公開され2019年を舞台にしていた『ブレードランナー』では、レプリカント(人造人間)を労働力として使用するほどテクノロジーが発達した社会に、猥雑でアジア的な歓楽街が同居する風景にインパクトがあった。西洋と東洋が入り混じった都市デザインは、以後の作品に大きな影響を残した。

 また、同作は、屋外巨大スクリーンに「強力わかもと」のCM映像が流れたり、街なかで日本語の聞こえる場面があることがこの国で注目された。映画が話題になった1980年代は、日本は輸出が好調で世界有数の経済大国として自信を増していた。同作の日本要素は、それの反映のように感じられたのだ。しかし、続編『ブレードランナー2049』(2017年)では西洋と東洋が混交したヴィジュアルは前作を引き継いでいたものの、日本要素より中国要素のほうが目立ち、現実世界での経済的存在感の変化が映画でも表現された形だった。架空の2019年と今の2019年を比べると、この国の後退を認識せざるをえない。

 一方、パラレルワールドの日本を扱い、平成ではなく「正化」の元号が使われている設定なのが、『図書館戦争』だ。有川浩(現在は有川ひろに改名)の原作(シリーズ完結は2007年)で実写映画2作(『図書館戦争』2013年、『図書館戦争 THE LAST MISSION』2015年)のほか、様々なメディアに展開したこの物語は、検閲をテーマにしていた。「メディア良化法」による表現弾圧に対抗するため、「図書館の自由法」が制定される。検閲を執行する良化特務機関と、図書館を防衛する図書隊が武力で対峙する。この大胆な着想の物語で、ヒロインが図書隊に入隊したのは正化31年=2019年とされていた。

 国家にとって都合の悪いもの、批判するものを検閲し、暴力で排除する点は、戦時中の軍部や警察を連想させる。だが、そんな過去ばかりでなく、今年開催されたあいちトリエンナーレでは、慰安婦像の展示などをめぐって脅迫が行われ、政治家や公的機関にも表現規制を助長する動きがみられた。パラレルワールドだけでなく、実質的な検閲が、こちらの世界で現在進行形の問題になっているのだ。架空の2019年をみつめることは、現実の2019年を考えることにつながる。

 伊藤計劃が2008年に原作を刊行し、2015年にアニメ映画化された『ハーモニー』は、21世紀後半を舞台にしていた。医療が発達し誰も病気で死ぬことがない生命至上主義が、むしろディストピアになる逆説の社会を描いている。同作では生命至上主義に至る以前に、全世界が戦争と未知のウイルスに見舞われる。その破滅的な「大災禍(ザ・メイルストロム)」は、2019年に起こるとされていた。すでに12月も残り少ない。何ごともないまま新年を迎えられることを願うばかりだ。 (文=円堂都司昭)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む