イギリスでは非常に有名なスパイ、メリタ・ノーウッドの実話をベースにしている。メリタは共産党員で、同時にイギリスの核開発を担っていた団体で秘書としても働き、詳細な核の情報にアクセスすることができた。そして彼女は30年以上も、何百もの極秘文書を撮影してはソ連にひそかに送信していたのだった。 ここまでは実際にあった話だけれども、本作はここからさらに踏み込んで、非常に骨太な物語を構築している。テーマはふたつある。ひとつは彼女がなにに身を捧げ、なんのためにスパイという行為を働いたのかということ。それを単なる犯罪として、悪人として描くのではなく、“正しさとはなにか”という困難なテーマに昇華させている。 そしてもうひとつは、ジョーンという女性の恋愛と人間関係と人生。このテーマを深堀りするために、若かった時代のジョーンと老いた現在のジョーンを交互に描き、その対比から彼女の人生の物語について観客が自然と理解が進むようお膳立てされている。“暴かれるスパイ”という無残な話なはずなのに、観終わった時に絶妙なカタルシスを感じるのは、この計算されしつくしたプロットがあるからだ。 ふたつのテーマがからみあって、とても骨太でオススメの作品。