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【おとな向け映画ガイド】

ロバート・デ・ニーロはじめ、レジェンド三俳優による爆笑コメディ『カムバック・トゥ・ハリウッド!!』と、難民から五輪へ『戦火のランナー』の2本をご紹介。

ぴあ編集部 坂口英明
21/5/30(日)

イラストレーション:高松啓二

今週末(6/2〜4)に公開される映画は21本(5/28時点)。本数は通常時と同じくらいに戻ってきていますが、これまで同様、ご鑑賞の際は作品や映画館の公式サイトで上映時間などをご確認いただいたうえでお楽しみください。今回ご紹介する作品は、6/4、5に公開予定の2本。気楽に楽しめるハリウッド・コメディと、東京オリンピックにもかかわるドキュメンタリーです。

B級映画プロデューサーの大バクチ
『カムバック・トゥ・ハリウッド!!』



愛嬌のある顔のロバート・デ・ニーロが、実にいいんです。名コンビ、マーティン・スコセッシ監督との、超ヘビーな『アイリッシュマン』で影のある役を演じた彼が「次はちょっと愉快なことをしたい」と選んだのがこの作品。映画界を舞台にした少々ブラックなコメディではありますが、トミー・リー・ジョーンズ、モーガン・フリーマンという大ベテラン2人と、喜々として役を楽しんでいる感じです。それも悪ふざけでなく、大真面目にコメディに取り組んでいます。ベテランならではの余裕の演技。気心の知れた仲間との仕事は気分がよさそうで、観ていてつい顔がほころんでしまいます。

デ・ニーロの役はB級映画のプロデューサー、マックス・バーバー。本来ならダニー・デビートあたりの役どころです。つまり、映画のヒットのためなら誰とでも友達になるし、口から出まかせ、あちらこちらに調子のいい話をしてまわるというキャラ。金回りの浮き沈みが激しいのもこの手の方達の特徴です。その彼が、大金を借りたギャングに返済を迫られ思いついたのが、映画の撮影中に俳優を事故死させて、巨額な保険金をせしめる計画。早速老人ホームに居る往年の西部劇スターをだまくらかし、過去ボツにした映画の撮影をスタート。ところが、老いぼれの元スターが死なない!昔とった杵柄で、事故をあっさり回避してしまう。おまけに、一世一代の名演技を繰り広げはじめちゃうものだから…。

その老いぼれ西部劇スターを演じるのは、日本でも大人気のトミー・リー・ジョーンズ。ジョン・ウェインのニックネームと同じデュークという名。怖いけど実は映画好きというギャング役がモーガン・フリーマンです。監督は『ミッドナイト・ラン』の脚本でデ・ニーロと組んだことがあるジョージ・ギャロ。映画の制作現場が舞台ですし、登場人物たちの生活、会話、セリフなど、映画好きがにんまりするようなトリビアもいっぱいです。

【ぴあ水先案内から】

渡辺祥子さん(映画評論家)
「……達者な展開の脚本に拍手!このままいけば手にするのは生涯無縁のはずのオスカー像?予想外の結末に翻弄されるのが今も昔もハリウッド映画業界の常識だ。」
https://bit.ly/34r8tDW

春日太一さん(映画史・時代劇研究家)
「……既に確固たる地位を築いたレジェンド級のベテランが過去の名声に胡座をかくことなく、“現役”として奮闘して新たな魅力を見せてくれる姿に出会うのは至極の喜びだ。」
https://bit.ly/3fsfdbh

植草信和さん(フリー編集者、元キネマ旬報編集長)
「……ドタバタ騒動の中に、出資者、製作者、主演者三人三様の屈折した“映画愛”をにじませて映画ファンの心をくすぐる。……」
https://bit.ly/3uxXhzX

高松啓二さん(イラストレーター)
「……メル・ブルックスの『プロデューサーズ』に似ているが、本作の最大のギャグはキャスティングにある。……」
https://bit.ly/3oYkzhn

ひたすら走って、生き延びる
『戦火のランナー』



本来なら、公開はドンピシャのタイミングなのですが、今やビミューな雰囲気です。内戦を生き延び、マラソンランナーとして東京オリンピックを目指している、グオル・マリアルという青年を追ったドキュメンタリー。監督はアメリカのビル・ギャラガーです。

彼の母国は、北アフリカの南スーダン共和国。2011年に、23年に及ぶ内戦を経てスーダンから独立した「世界で最も新しい国」。国はできたものの、2016年には再び紛争が勃発しています。その紛争に、日本の自衛隊が国連平和維持活動、いわゆるPKOに参加したこともあり、日本では比較的聞いたことのある国でしょう。

想像を絶する半生です。内戦の戦禍を避けるため、両親は8歳のグオル君をたった一人で村から逃がしました。頼る人はいません。途中で武装勢力に捕らえられてしまうのですが、なんとか逃げ延び、難民としてアメリカに渡ります。高校はアメリカ。ここで陸上選手、マラソンランナーとしての天分に気づきます。少年にとって戦場の攻撃から生き延びる手段は“ひたすら走って逃げる”しかなく、彼は皮肉にも辛い戦場でランナーとしての基礎を築いていたのです。目指すはオリンピック、です。となると気になるのは、兄弟をはじめ多くの犠牲の上で独立した母国のこと。彼がランナーとして活躍をはじめたころ、南スーダンが独立します。

国のために走る…、我々にとっては、今や、やや時代遅れのように感じますが、母国が大変な苦難のうえ誕生したばかりとなれば、その気持ち、わからなくはありません。建国1年後の2012年に行われたロンドン五輪や2016年のリオ五輪で、彼の参加が実現するまでの騒ぎと結末、同郷人たちの応援、映画で語られるすべてがドラマチックです。

が、ドラマはまだ終わりとはなりません。さて、グオル君は東京五輪の舞台に立てる、のでしょうか? 

【ぴあ水先案内から】

池上彰さん(ジャーナリスト)
「……「南スーダンの選手たちは東京オリンピックを目指して走り続けます」という最後の字幕を見ると、開催が危ぶまれているだけに涙腺が緩みます。」
https://bit.ly/3wISihF

村山匡一郎さん(映画評論家、大学講師)
「……内戦下で彼は敵側の兵士に捕らえられるが、走って逃げることで生き延びる。その思い出は、マリアル選手にとって、走ることが生きることにつながるまさに象徴といえる。……」
https://bit.ly/3p1VdiD

堀晃和さん(ライター、エディター)
「……独立後も貧しく紛争が絶えない祖国の環境を少しでも変えようと、走り続けるグオルの姿が胸を打つ。」
https://bit.ly/3p5lhJW

首都圏は、6/5(土) から渋谷 シアター・イメージフォーラムで公開。中部は、6/19(土)から名古屋シネマテークで公開。関西は、6/11(金)からアップリンク京都で公開。

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