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【おとな向け映画ガイド】

これがSNS時代のミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』

ぴあ編集部 坂口英明
21/11/21(日)

イラストレーション:高松啓二

今週末(11/26~27)に公開される映画は14本。全国100館以上で拡大公開される作品が『ミラベルと魔法だらけの家』『ディア・エヴァン・ハンセン』の2本。中規模公開、ミニシアター系の作品が12本です。今回はそのなかから、ブロードウェイ・ミュージカルの映画化『ディア・エヴァン・ハンセン』をご紹介します。

善意からでた嘘、だった
『ディア・エヴァン・ハンセン』

社交不安症の高校生がついた嘘とその波紋―、こんな地味めなテーマがミュージカルの舞台になるなんて。しかもブロードウェイで大ヒットし、米演劇界最高のトニー賞まで獲得してしまった。その映画化です。誰もが多かれ少なかれ経験する孤独感や劣等感、自分探しといった心の葛藤を、ソーシャルネットワークにからめ、見事なミュージカルにしたてた、その楽曲もすばらしく、なるほどこれなら……と納得です。

「拝啓エヴァン・ハンセン様……」。実は、17歳の主人公エヴァン・ハンセンが、心理療法としてセラピストに勧められて(“ロールレタリング”というらしいですが)自分自身へ書いた手紙。それがすべてのはじまりです。

友だちはいない、声をかけてくれるクラスメートもごくわずか。その数少ないひとりが、すぐキレてまわりにあたりちらす乱暴者のコナー、ひそかに思いを寄せているゾーイの兄貴です。その彼に、自分宛に書いた手紙をからかい半分で奪われてしまいます。その後、コナーにも打ち明けられない悩みがあったことが判明します。彼は、自から命を断ってしまったのです。遺書はなく、彼のポケットに残されたのは、あの手紙だけ……。

悲嘆に暮れるコナーの両親は、「こんな手紙のやりとりをしていたなんて、唯一の親友にちがいない」とエヴァンを食事に招待し、話を聞きたがります。ふたりを何とか慰めようと、彼は存在しなかった嘘の友情物語をとっさに捏造してしまうのです……。

ちいさな善意からでた嘘と誤解。いかにも今っぽいのは、ここからSNSが大きな役割を果たし、話を増幅し、問題をどんどんこじらせていくところです。

オリジナルのストーリーをスティーヴン・レヴェンソンが書き、『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』の作詞・作曲コンビ、ベンジ・パセックとジャスティン・ポールが楽曲を作りました。ブロードウェイでの公演開始は2016年12月。大ヒットとなりました。興行面だけなく、作品評価も高く、トニー賞では作品、主演男優、脚本、楽曲、助演女優、編曲の6部門で受賞。音楽では、グラミー賞最優秀ミュージカルアルバム賞も獲得しています。

ブロードウェイでのオリジナルキャスト、トニー賞主演男優賞を受賞したベン・プラットが、映画でも主演のエヴァンを演じています。子どもの頃に父親が家出し、その後は女手ひとつでエヴァンを育ててきた母親役はジュリアン・ムーア。『アリスのままで』でアカデミー賞主演女優賞を受賞した大女優です。息子を亡くした喪失感を埋めようとエヴァンに接するコナーの母親役にもアカデミー賞6度ノミネートのエイミー・アダムスをあてています。このふたりの母親の心理も、重要な映画の要素です。

印象に残ったエピソードがありました。エヴァンがSNSを通じ、悲劇の主人公の友人として少し人気者になりかけたころ、学校でいちばんの優等生で、活動的なリーダー、アラナが声をかけてきます。「くすりは何を飲んでいるの?」。ふたりの会話は薬物の話題なのに、まるで“オタク”が趣味について話しているかのような、病気自慢とでもとれるシーンです。ポジティブで明るく快活な女子高生の典型のような彼女が、実は心の病をかかえていて、治療薬も服用している。『グリース』など学園もののような無邪気な世界とはちがう、そんな現代性がそこここに描かれているのも、このミュージカルが受けた理由かと。

【ぴあ水先案内から】

笠井信輔さん(フリーアナウンサー)
「大感動……。これほど様々なナンバーが胸に刺さるミュージカルはそうそうない……」

笠井信輔さんの水先案内をもっと見る

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