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(K)NoW_NAME NIKIIE&立花綾香が明かす、アニメの世界観を徹底して追求する音楽制作の裏側

リアルサウンド

20/3/25(水) 17:00

 毎回ひとつのアニメの主題歌・挿入歌・劇伴といったすべての音楽を手がけて話題のクリエイティブユニット=(K)NoW_NAMEが、TVアニメ『ドロヘドロ』エンディングテーマアルバム『混沌(カオス)の中で踊れ』をリリース。TVアニメ『ドロヘドロ』は、映像化不可能と言われていた原作の待望のアニメ化で、(K)NoW_NAMEはその独特の世界を音楽の側面から見事に表現して話題を集めている。

 また同タイミングでサブスクリプションが解禁となり、これまでに手がけた『灰と幻想のグリムガル』『サクラクエスト』『Fairy gone』の楽曲が定額で楽しめるようになった。(K)NoW_NAMEのボーカリストであるNIKIIEと立花綾香に、毎回ジャンルが異なる楽曲とどのように向き合いながら臨んでいるのか、これまでの作品を振り返ってもらいながら、作品ごとにアメーバのように形を変える(K)NoW_NAMEの本質に迫った。(榑林史章)

ボーカリストはどこか客観性を持って歌っているかもしれない

――まずサブスクリプションが解禁されることについては、どんな印象ですか?

立花綾香:ずっと以前から、外国の方から「もっと聴きたいです」とコメントをいただいていたので、これを機に世界中の方に聴いていただけるのでとても嬉しいですね。

NIKIIE:私自身もサブスクで音楽を聴くことが多いし、私たちの場合はどういう音楽をやっているか尋ねられた時に、「こういう音楽をやっているんだよ」と説明しづらいところがあって。サブスクなら「とりあえず聴いてみて」と気軽にオススメすることができます。今まで以上に、私たちの音楽が広がっていくきっかけになれば嬉しいです。

――最初に手がけたのが『灰と幻想のグリムガル』でしたが、当時はどんな感じだったんですか?

立花綾香

立花綾香:私たちもまだ慣れていなかったし、アニメに合わせてすべての曲を作ること自体が初めてだったのもあって、とにかく入念に打ち合わせをした覚えがあります。

NIKIIE:最初はそれぞれの役割分担も明確になくて。私は癒し系のシーン担当、綾香ちゃんは戦闘シーンや胸アツシーンの担当というざっくりとした区分けは、『グリムガル』の制作の過程で徐々に決まっていきました。オープニングテーマ「Knew day」も、ボーカリストオーディションの課題曲として二人とも歌っていたから、どちらが歌うか決まっていない状態で始動したんです。

――ボーカルが立花さんとNIKIIEさん、あと男性のAIJさんの3人で、クリエイターも8人いますが、誰が何を担当するなどの役割分担は、毎回どのようにされているんですか?

立花綾香:基本的にTOHO animetion RECORDSのプロデューサーが、アニメの世界観に沿って、作曲は誰でどの曲を誰が歌うということを振り分けます。私たちはでき上がった曲をもらうところから関わるのですが、「何話のこういうシーンで流れる曲です」という説明と共に曲が送られてきて、それを聴いて練習してレコーディングするという流れです。

――挿入歌を歌う時にはどういう距離感で向き合っていますか?

NIKIIE:私たちボーカリストは、どこか客観性を持って歌っているかもしれませんね。原作を読んで物語に入り込みすぎてしまうと、逆に浮いてしまうことがあって。バックで流れている歌があまりにエモーショナル過ぎると、登場人物たちの心模様を邪魔してしまうというか。だから少し引いて、決してアニメを邪魔しない加減を探りながらやっています。特に『グリムガル』の時はそういう意識だったので、原作は読まずにいただいた資料だけで組み立ててレコーディングに臨みました。

立花綾香:テーマソングや挿入歌は、完全にアニメにハメて作られたインストの劇伴曲とは少しスタンスが違っていて。歌詞は100%その物語のことを歌っているというわけではなく、比喩を交えながら、その作品と緩やかにリンクしているという状態です。日常で聴いても共感していただけるものになっているので、それこそサブスクで聴いていただいても、聴いた方の日常と重ねて楽しんでいただけると思います。

――アニメの登場人物のセリフと見ている視聴者の想像力を妨げず、それでいながら曲単体として聴いても成立するものにするためには、絶妙なサジ加減が必要になりますね。

立花綾香:そういう理由もあって挿入歌は、英語詞が多いです。英語だと、メロディと一緒にスッと耳に入るので。

NIKIIE:綾香ちゃんは、ソロでやっていた時は英語で歌ったことがなかったらしくて。英語の歌詞は、(K)NoW_NAMEで初めて歌ったんだよね?

立花綾香:そうなんです。実はオーディションの時に「英語はできますか?」と聞かれたんですけど、正直に答えたら絶対受からないパターンだと思ったから「できます!」と答えてしまって(笑)。だから初めて英語詞を歌った時は本当に大変で、発音を注意されて、1曲録るのに10時間以上かかったんです。

NIKIIE

NIKIIE:でも、あれは仕方がなかった部分もあるんですよ。同じ英語詞でも、そこまで言葉が詰まってなくてメロウな曲調だと雰囲気で歌えるんですけど、綾香ちゃんが歌った曲は戦闘シーンの曲で、テンポが速いし早口で言葉が詰まっていて。ソロで洋楽のカバーをやっていた経験のある私でさえも、「これは相当練習しないとダメな曲だな」と思ったほどの言葉の配列だったから。

立花綾香:プロデューサーやスタッフのみなさんは、「あれ?」ってなったと思います。「本当は英語がしゃべれないんじゃないか」って。でも私はひた隠しにして、とにかくプライドで乗り切りました(笑)。

――『グリムガル』はシリアスな物語でしたが、舞台は森や山の中のファンタジーの世界だったので、音楽はロックをベースに民族っぽさもありましたね。

NIKIIE:そうですね。アイリッシュの要素もあって、バラードは壮大な感じだったし、まるで洋楽のような英語詞の曲もあって。そういう部分では、洋楽好きの方が聴いても楽しんでいただけると思います。

やったことのないことばかりで毎回が修行みたい

――第2作目となった『サクラクエスト』は、一転して現代の日本が舞台で、田舎の町おこしがテーマでした。劇伴はジャズやカントリーなど、のどかな感じの音楽がメインになっていましたね。

立花綾香:プロデューサーから「次はカントリーだよ」と言われて。『グリムガル』とはまったく変わったので、「え?」と驚きました。

NIKIIE:私はオープニングテーマの「Morning Glory」を歌わせていただいたのですが、メロディがすごく難しくて。「ここでこういう半音を差し込んで来るか!?」と言いたくなる、普通では考えないメロディだったんです。それが独自のキャッチーさを生んでいたと思いますけど、歌う側からするとその繊細なメロディがすごく難しくて。ピッチの微妙な加減が難しくて、なかなか苦労しました。

立花綾香:私は第1期のエンディングテーマ「Freesia」を歌わせていただいたんですけど、この時は「もっと優しく包み込むように歌って!」と言われて大変でした。あそこまで声を張らずに優しい声で歌ったのは初めてで新鮮でしたけど、自分のソロ活動ではそういう声を出したことがなくて。歌い終わった時は「果たして受け入れられるのか」と、すごく不安になりました。その後アニメで流れたりライブで歌ったりした時に、聴いてくださったみなさんが「良いね」と言ってくださったことで、自分の中に新しい引き出しが眠っていたことに気づくことができました。

――(K)NoW_NAMEの活動で、鍛えられているんですね。

立花綾香:やったことのないことばかりで、毎回が修行みたいです(笑)。挿入歌も含めて曲数も多いしアニメの制作進行もあるので、どんどん進めていかなくちゃいけなくて。「この日までに仕上げてきてね」と期限も設定されるので、毎回必死です。

――どの作品も、登場人物たちの成長物語がベースにあると思いますが、そう考えるとお2人もキャラクターと一緒に成長していると言えますね。

立花綾香:それは絶対にありますね。第3作目の『Fairy gone』で歌った英語詞は、『グリムガル』の時よりも絶対上手く歌えている自信がありますし、それだけでなく声質も変わっていると思います。

――『Fairy gone』はファンタジーではあるけど『グリムガル』とは違った世界観で、戦闘シーンが多かったですね。それだけに激しいロックがメインで、AIJさんのラップが加わったミクスチャーロックもありました。

立花綾香:格好いい曲ばかりで歌詞もほぼ英語でした。

NIKIIE:日本語はエンディングテーマの「Ash-like Snow」と「Stay Gold」くらいですね。オープニングテーマの「KNOCK on the CORE」と「STILL STANDING」も、英語がメインで日本語が少し混じっている程度で、挿入歌は全部英語でした。

立花綾香:挿入歌は主人公たちが戦っている時に流れるものが多くて…『グリムガル』の時は、キャラクターがセリフをしゃべっている後ろで日本語の歌が流れているときもありましたが、『Fairy gone』ではより良いバランスを考えて英語になったのだと思います。

NIKIIE:私は、『Fairy gone』でやっと戦闘シーンの曲を歌えたことが嬉しかったです!

立花綾香:2曲だっけ? その時は「ついに来た!」って言ってたよね。

NIKIIE:そうそう。それまではライブでも、いつもバラードか跳ねたミドルテンポしか歌ったことがなくて。だから嬉しくて、すごく頑張ってレコーディングした覚えがあります。

――お互いが歌っている曲は、やっぱり気になりますか? 「この曲は私が歌いたかったな〜」とか。

NIKIIE:毎回ありますよ。

立花綾香:デモが送られて来て、「これはどっちが歌うんだろう?」って、すごく気になります。いつもならNIKIIEさんが歌うであろう囁くようなバラードを私が歌った時は、「私が歌うんだ!」と驚いたんですけど、歌ってみたら思っていた以上にハマっていたということもあって。

NIKIIE:毎回「こういう担当分けをするんだ〜」っていう、意外性の連続です。

譲れないものがある船に乗るのは楽しい

――最新の『ドロヘドロ』は、今までとまったく違ったアプローチで意外性がありました。『ドロヘドロ』は独特な世界観ですが、どんな風に受け止めましたか?

立花綾香:カオスのひと言です(笑)。私はもともと漫画やアニメが好きで、ずっと以前に第1巻だけ読んだことがあって知っていたんです。だから「あれがアニメで動くんだ〜」って、ワクワクしました。

NIKIIE:逆に私はグロい系が苦手で、切られるシーンを見ただけで同じところが痛くなっちゃうから、バイオレンスな描写があるような作品はほとんど見たことも読んだこともなかったので今回は作詞もあるから意を決して読んだんですけど、カイマンが見る夢の描写が怖くて読むのにすごく時間がかかりました。でも読んだことで、今まで触れてこなかった価値観に触れることができて、自分の中の世界観が広がった気がしましたね。

――映像化不可能と言われていただけに、アニメのクオリティが高く制作スタジオのこだわりが感じられますよね。そんな作品を彩る音楽ですから、音楽にもいっそう力が入っていると思いました。

立花綾香:歌の面でも今回は、今まで以上に音楽的要求が高かったです。「なんか違う」と言っては何度も録り直すことを繰り返して、『ドロヘドロ』の世界観にどれだけ近づくことができるかを徹底して追求しました。

――「なんか違う」というのは、具体的に何が違ったんですか?

立花綾香:とても感覚的で、『ドロヘドロ』の世界観と同じように言葉で表現するのが難しいです(笑)。監督と原作者の林田球先生のこだわりに応えるために、「もっとイケるんじゃないか」と、どんどん要求が高くなっていって、曲自体を作り直したこともありました。かなり苦戦しながらでしたけど、アニメの放送開始ギリギリまで録り直しを繰り返しました。

NIKIIE:監督と原作者のこだわりを追求する姿勢に、私たちもどんどんアツくなって、「やってやるぞ!」とスイッチが入った感じがあって、譲れないものがある船に乗るのは楽しいって思いましたね。作品のために妥協を許さない姿勢はすごいし、私たちもやりがいを感じました。

立花綾香:きっとここまで徹底してやらないと、『ドロヘドロ』の世界観を表現することはできなかった。だからこそ、ずっとアニメ化が難しいと言われていたのだと思います。

――『ドロヘドロ』はああいう絵や物語なので、単純に考えるとヘヴィメタルやハードコアパンク、デスボイスが響いているような音楽を合わせそうですよね。そこにあえてダンスミュージックを組み合わせていて面白いと思いました。

NIKIIE:私もきっとメタルやハードコアパンクかなと思っていたし、多くの人がデスボイスで叫んだりする音楽を想像していたと思うんです。でも林田先生の中でそれは違っていて、この作品ならではのオリジナリティを求めていたわけで。周りに左右されず人とは違う考えを持っているのは、芸術家ならではの感性だと思います。常識に一切とらわれていないと言うか。

立花綾香:私はこういうダンスチューンを歌うことが初めてだったので、自分の声がサウンドに合うのかすごく不安だったんですけど、いざ歌ってみたら想像していたよりも合っていて。何より曲とアニメーションがすごくマッチして、デスボイスがなくても『ドロヘドロ』の世界観がすごく表現されていると思いました。もしメタルとかロック系に寄っていたら、バトル感が強く出すぎていたかもしれないです。

NIKIIE:『ドロヘドロ』ってカオスで過激でバイオレンスなシーンもあるけど、コミカルな要素が同じくらいのバランスであるところがポイントなんです。エッジを効かせつつコミカルさも内包したダンスチューンは、そんな作品を表現する上でもバランスが良いと思います。

――主人公のカイマンなど見た目は怖いけど、みんな可愛い一面を持っていますからね。

立花綾香:憎めなくて愛着が沸きますよね。

NIKIIE:最初は正直「キモッ!」と思ったジョンソンもだんだん可愛く感じるようになりました(笑)。

立花綾香:第7話「オールスター☆夢の球宴」は、野球をやっているジョンソンから目が離せませんでした(笑)。

――そういうカオスの中にある可愛さとコミカルさは、オープニングとエンディングの歌詞の言葉のチョイスにも通じていますね。例えばNIKIIEさんが作詞した「D.D.D.D」は、サビが呪文みたいになっていて。

NIKIIE:“混沌(カオス)”がテーマだったんですけど、その混沌がどういう混沌なのかチャンネルが合うまで、何度も書き直して本当に大変でした。特にサビは、おっしゃっていただいたように「魔法の呪文のような言葉にして欲しい」とプロデューサーから指示があって。私の先入観で、歌詞は言いたいことがあってそこに向かって組み立てて行くものだと思っていて、実際にソロではそうやって書いてきたから、その先入観を捨てることがなかなかできなくて。何度提出してもプロデューサーからダメ出しをされて、渋谷のカフェで半べそかきながら書いたのがこれで、やっとOKをもらったんです。結果として何を言っているのかよく聴き取れない歌詞のカオス感が、エンディングのアニメーションとも上手くハマっていて、頑張ったかいがありました。

立花綾香:私はオープニングテーマの「Welcome トゥ 混沌」を始め、エンディングテーマの「Who am I?」と「Strange Meat Pie」の作詞を担当させていただいたんですけど、(K)NoW_NAMEで作詞をするのは今回が初めてだったので、より思い入れが強い作品になりました。私も作詞はすごく苦労して、「Welcome トゥ 混沌」はなかなかOKをもらえなくて、家族旅行中にも書いていたんです。家族から「いつまでやってるの?」と白い目で見られながら、宿でもずっとパソコンに向かっていて、温泉に入ってまたパソコンに向かってという感じでした。

――「Welcome トゥ 混沌」は、言葉のインパクトやリズムを重視していますね。

立花綾香:そうですね。「英語にも聴こえるような耳障りの良い日本語」とプロデューサーからの指示もあって、〈脳(No)〉とか〈罠(Wanna)〉など、語呂を大事にしました。検索で類義語をすごく調べて、検索欄がすさまじいことになっていましたね。

――今回はダンスミュージックが中心でしたが、(K)NoW_NAMEはこれまで様々なジャンルをやってきて、今後はどこに向かうんでしょうか。

立花綾香:今後もいろいろなアニメの音楽をやっていきますが、まだ私たちがやったことのない新しいジャンルに挑戦するのだろうと思います。どういうアニメに携わるかまだ私たちも知らないのですが、来たら来たでそれに100%応えられる曲を作って、みなさんにも楽しんでいただけるように頑張りたいです。英語は乗り越えたと思うので、何語でも来いっていう感じです(笑)。

NIKIIE:次に何が来るのか未知ですけど、自分たちでも楽しみにしています。その時に出会う作品に寄り添えるように、プロデューサーからのどんなダメだしにも耐えられるように、心の筋トレをして万全で臨みたいと思っています。もしまた作詞をさせていただける時のためにも語彙力もつけて、表現力の幅も広げて備えておこうと思います。サブスクでこれまでの曲を聴きながら、次の作品を楽しみに待っていてください。

■リリース情報
『混沌(カオス)の中で踊れ』
発売日:2020年3月25日(水)
価格:2,500円+税
<収録内容>
M1. Who am I ?
M2. Night SURFING
M3. D.D.D.D.  
M4. Strange Meat Pie
M5. SECONDs FLY
M6. 404
M7. 脳GRIND ※新規書き下ろし楽曲
M8. BAD NICK ※新規書き下ろし楽曲
レーベル:TOHO animation RECORDS  
発売・販売元:東宝
※収録内容・仕様・デザインなどは予告なく変更になる場合あり。
(c)2020 林田球・小学館/ドロヘドロ製作委員会
(c)TOHO CO.,LTD

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