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日本映画業界のジェンダーギャップや労働環境問題に向き合う、非営利団体JFP設立

ナタリー

Japanese Film Projectロゴ

非営利団体Japanese Film Project(JFP)の設立に伴い、6月28日にオンラインで記者レクリエーションが実施された。

JFPは、日本映画業界のジェンダーギャップ・労働環境・若手人材不足を検証し、課題解決するために、調査および提言を行う団体。映画監督の歌川達人、ジャーナリストの伊藤恵里奈、SAVE the CINEMAなどの活動でも知られる映画監督の西原孝至によって設立された。

5、6年前から映画界の労働環境や産業構造に問題意識を持っていたという歌川は「当時は活動をしようとしても『業界が立ち行かなくなる』『低予算映画が作りづらくなる』と言われ業界内に協力者がいませんでした。しかしコロナ禍やアップリンクのハラスメント問題などから、労働環境の課題が露呈しました。ジェンダーギャップに関する状況も大きく変わり、今なら活動できるのではないかと考えました」と設立経緯を語る。さらに「ジェンダーギャップと労働環境の問題を別個のものとしては捉えていません。ジェンダーギャップを解決したいなら労働環境を変えないといけないと考えています。両方に関して調査・提言していきたい」と説明した。

設立にあたりJFPは第1回調査の結果を発表。独自調査にもとづき、日本映画業界におけるジェンダーバランスの偏りを統計データによって明らかにした。2000年から2020年の21年間で劇場公開された、興行収入10億円以上のいわゆる“大作”実写邦画において、女性監督の割合はわずか3.1%。そして映画年鑑をもとに調査した2020年と2019年の詳細データを見ると、日本映画全体における女性監督率は12%と11%。全体と比べても、大作の実写邦画では女性監督の割合が特に低いことがわかった。

同じく映画年鑑をもとに、職業別に女性の割合を見た2020年のデータでは、撮影監督は11%、編集は20%、脚本は19%。どれも女性の割合は2割以下であり、室内で作業できる職業(編集・脚本)に比べて現場で働く職業(監督・撮影監督)の女性率は半分程度であることがわかった。

この結果を受け、南カリフォルニア大学映画学部フルブライト客員研究員でもある伊藤は「女性の割合がかなり低い。ジェンダー格差のランキングで156カ国中120位だったという、日本社会全体の在り方が反映されています。#MeTooの動きも日本映画業界には届かず、映連の調査にもジェンダーの項目はなかった。今回のような調査を入り口に、議論のもとになるデータを積み上げていきたい」とコメント。

またこういったジェンダーバランスの偏りによって生まれる悪影響について、西原は「いろいろな価値観によって作品が生まれるべきなのに、男性監督の作品ばかり作られてしまっているのは問題」と話す。さらに映画作りを学ぶ学生は半分もしくはそれ以上が女性であるにもかかわらず、子育てのしづらさや体力的な問題から現場で働く女性の割合が低く留まっていることにも言及し「憤っています、今の状況に」と心境を述べる。さらに歌川は、劣悪な労働環境を理由に、数年掛けて育った若手が現場を去ってしまうことで、人材育成の面でも損害が大きいと指摘した。

2020年には、白石和彌が「孤狼の血 LEVEL2」の現場にハラスメント防止のためのリスペクトトレーニングを導入したことが話題となった。すでに業界にこういった動きがあることについても触れつつ、歌川は「制度化されない限り、業界全体は変わっていかない。映連や映画祭と提携して、労働環境改善のためのプログラムを導入した映画はエンドクレジットに認定ロゴを入れ、それがなければ映画祭にエントリーできないようにするなど、業界全体での取り組みが必要」と意見を提示した。

3人は今後、映画業界のフリーランス人材に関する調査や、現役だけでなく業界を去った人も対象にした調査を行っていきたいと話す。さらに歌川は「調査だけが目的ではない。そもそもの目的は、構造的な問題を解決して日本映画界をよくしていきたいというところにあります。調査によって、改善には何が必要なのかを考えたい」と述べ、これから年に1回を目安に調査資料を発表していくこと、その結果を議論するシンポジウムなどを企画していくことも発表した。

なおJFPは、現在メンバーの3人のうち2人が男性であることから「ジェンダーギャップについて調査する我々自身のバランスの危うさも自覚して、批判的にならなければいけないと思っています。この3人だけではなくいろいろな方と連帯していきたい」と、今後他の団体とも協力していく意向を示した。

JFPの公式サイトではステートメントや調査結果、識者・当事者のインタビューも掲載されている。

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