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坂本真綾が明かす、デュエットの奥深さ 7人との共演から見えた“今歌いたいこと”

リアルサウンド

21/3/17(水) 12:00

 2020年7月に25周年記念アルバム『シングルコレクション+ アチコチ』を発表。8月にはデジタルシングル「躍動」を配信、12月にはシングル『躍動↔独白』をリリースするなど、アニバーサリーイヤーを彩る活動が続いている坂本真綾。25周年記念アルバム第2弾『Duets』は、タイトル通り、彼女にとって初めてのデュエットアルバムだ。

 坂本とともに歌を奏でる相手は、和田弘樹、堂島孝平、土岐麻子、原昌和(the band apart)、内村友美(la la larks)、井上芳雄、そして、小泉今日子。デュエットアーティストからの詞曲提供のほか、坂本自身が紡いだ楽曲、TENDRE、鈴木祥子、江口亮、岩里祐穂などが手がけた楽曲も収録され、デュエットの豊かさをたっぷり味わえる作品に仕上がっている。

 リアルサウンドでは、「実際にやってみて、デュエットの奥深さを感じました」という坂本に、本作『Duets』の制作についてインタビュー。その奥には、25年のなかで培ってきた歌への強い思いが宿っていた。(森朋之)

坂本真綾 – 4th Concept Album『Duets』 Lyric Video

「一人ではできないこと、いつもとは違う発見がある」

ーー25周年記念アルバム第2弾は、全曲デュエットソングによる『Duets』です。楽曲の良さ、デュエットならではの歌の表現を含め、本当に素晴らしい作品だと思います。

坂本真綾(以下、坂本):ありがとうございます。私も実際にやってみて、「奥が深いな」と感じました。最初はそこまで深く考えていなかったというか、「全曲デュエットのアルバムって珍しいし、面白いかも」くらいの気持ちだったんですが、でき上がっていくにつれて「すごいアルバムになるかもしれない」と思い始めて。

ーーデュエットアルバムはもともと、坂本さんの最初のディレクターだった佐々木史朗さん(株式会社フライングドッグ代表取締役社長)の提案だったとか。

坂本:はい。ちょうど2年くらい前かな、佐々木さんが還暦を迎えたときに、その話を聞いて。そのときはあまり本気で聞いてなかったんですが(笑)、「もしデュエットするなら、どんな人と、どんな曲をやったらいいだろう?」「自分で歌詞を書くとしたら?」と考えているうちに、だんだんイメージが湧いてきて。

ーーまずは「誰と歌うか」ですよね。

坂本:そうですね。最初にお願いしたのは和田弘樹さんで。その後も、これまでご一緒したことがある方、ぜひ一緒に歌ってみたいと思う方に声をかけて、結果的に7人の方が参加してくれることになりました。

ーー真綾さんならではのラインナップですよね。

坂本:バンアパの原さんに歌ってもらおうと思う人はなかなかいないでしょうからね(笑)。皆さん本当に快く引き受けてくれて、とてもありがたかったです。すごく大きいプレゼントをいただいた気持ちですね。

ーー本当に魅力的な曲ばかりなので、1曲ずつ聞かせてください。1曲目の「Duet!」(坂本真綾×和田弘樹)は、作詞が真綾さん、作曲・編曲はh-wonder(和田弘樹の作家名)。真綾さんのデビュー曲「約束はいらない」がオープニングテーマだったアニメ『天空のエスカフローネ』で、エンディングテーマ「MYSTIC EYES」を担当していたのが和田さんでした。

坂本:和田さんはプロデューサー、作家として活躍されていて、歌手としては22年間歌っていなかったんです。「デュエットしてくれませんか」とオファーしたときは、「いやいやいやいや」という感じだったんですけど(笑)、真剣にお願いさせてもらっていたら、こちらの気持ちが届いたようで。高校生の頃から知ってくれてる方だし、「そこまで言うなら」と引き受けてくれたのかもしれないですね。しかも素晴らしい曲を書いてくださって。「こんなに明るく楽しい曲を書いてくれるなんて、和田さんも歌うのを楽しみにしてくれているのかな」とも思いました。

坂本真綾×和田弘樹 – 『Duet!』 Lyric Video

ーー〈本当にどうかしてる 人前で歌うなんて/君の頼みでも せっかくだけど遠慮させてもらうよ〉という和田さんの歌い出し、最高ですね。

坂本:あははは。今の和田さんが無理なく共感できて、歌えるものがいいなと思っていたんですけど、書いているうちにアルバム全体のテーマに関わるような歌になってきて。「二人で歌うというのはどういうことなのか」だったり、一人ではできないこと、いつもとは違う発見があることだったり、書いていくなかで図らずもアルバムの核になるような曲ができたのはすごく良かったですね。和田さんの存在感に引っ張られるように書いた歌詞ですが、最初のフレーズは私自身のことでもあって。ステージに上がって歌うことを25年も続けてきましたけど、いまだに「人前で歌うなんて、どうかしてる」って思うんですよ。毎回緊張するし、「どうかしてないと、こんな仕事できないでしょ」って。「大丈夫、できるよ。やろう!」って引っ張ってくれる相棒がいてくれたらどれだけラクだろうと思うし、和田さんに当て書きしてたら、私の気持ちも投影されている部分もあって。いろんな意味でドキュメンタリーな曲になりましたね。

ーー和田さんは、この曲についてどう言っていました?

坂本:照れてらっしゃいましたけど(笑)、言葉では言い表せないものがお互いにあったと思います。25年という時間を経て、肩を並べて歌うことに感慨深さも感じていましたし、いい形でレコーディングできて本当に良かったなって。和田さんも「自分にとっても意味があるものになった」と言ってくれて嬉しかったですね。

25周年なりの“大人な視点”

ーー2曲目の「あなたじゃなければ 」(坂本真綾×堂島孝平)はモータウン風のサウンドを取り入れたポップチューンで、作詞・作曲は堂島さんですね。

坂本:モータウン的なビートの曲は今までやってこなかったし、ライブで盛り上がれるような曲にしたくて。堂島さんは私が歌詞を書くと思っていたみたいですけど、私、堂島さんの書く歌詞も大好きなので、「ぜひ書いてください」と。お題がほしいと言われて「今回のアルバムのなかで、一緒にラブソングを歌えるのは堂島さんだけだな」と思って。いい年した私たちがラブラブな曲を歌ってもアレなので(笑)、「生活感があって、年相応なラブソングにしたいです」とお伝えしました。たとえば、ケンカしていても情熱的に愛し合ってるように見えるとか。

坂本真綾×堂島孝平 – 『あなたじゃなければ』 Lyric Video

ーー確かに大人のラブソングなんだけど、堂島さんらしいポップ感もたっぷりありますね。

坂本:そうですね。デュエットソングは二人分の気持ちを書かなくちゃいけないから、すごく難しいんですよ。堂島さんも難しかったと言ってましたけど、二人の登場人物がしっかり描かれているし、「あなたじゃなければ」という言葉の意味が最後の最後でひっくり返る構成もすごいなって。ブラスアレンジも素敵だし、やっぱり天才ですね。堂島さんの音楽の一部にさせてもらった感じがして、すごく嬉しかったです。

ーーちなみに堂島さんとの交流はいつ頃から始まったんですか?

坂本:最初にお会いしたのは、2014年の「矢野フェス」(『YANO MUSIC FESTIVAL』)ですね。堂島さん、土岐麻子さんも一緒だったんですけど、私はそんなに知っている方がいなくてアウェー感がすごかったんですよ。でも、堂島さんが私のステージを褒めてくださって、「今日のMVPは真綾ちゃんだな」と言ってくれて。緊張している私を和ませつつ、励ましてくれたんだろうなって。そのときも歌詞を褒めてもらったんですけど、一昨年、KinKi Kidsの楽曲(「光の気配」)で作詞家としてオファーをくださったんです。私が何よりも一生懸命やってきた作詞というものを、こんなにも見てくれていた人がいるというのが、本当に嬉しかったですね。

ーーそして「ひとくちいかが?」(坂本真綾×土岐麻子)は、土岐さんが作詞、TENDREさんが作曲したエレクトロ系のナンバー。土岐さんの歌詞とTENDREさんのトラックのハマり具合が絶妙ですね。

坂本:土岐さんはシンガーとしてはもちろん、好きな作詞家でもあって。デュエットだけではなくて、ぜひ歌詞も書いてもらいたかったんです。TENDREさんの楽曲も以前から好きで、いつかご一緒してみたいと思っていて。まず、土岐さん、私、TENDREさんを交えてオンライン会議したんですよ。女性二人の歌にしたいというのは決まっていて、いろいろ話すなかで、「せっかくだから二人が会話しているような歌がいいですね」ということになりました。「どちらかが歌ってるときに、もう一人が相槌を打つようにコーラスが入ってくるのはどうでしょう?」とか、少しずつイメージを共有していったんですが、そのときに土岐さんから「ひとくちいかが?」というワードが出てきたんです。そのフレーズにメロディを付けるところから作っていったのが、この曲ですね。

坂本真綾×土岐麻子 – 『ひとくちいかが?』 Lyric Video

ーー女性二人がお酒を飲んでいる場面を描いた歌詞もすごく素敵ですね。

坂本:土岐さんらしいフェミニンなところ、都会的なところも出ているし、会話になっている部分も含めて、勉強になることばかりでしたね。もちろん歌声も素晴らしくて。

ーー真綾さんにとって、シンガーとしての土岐さんの魅力とは?

坂本:いっぱりありますね。とにかく声が素敵で、お名前を認識する前から、曲を耳にするたびに「この声の人だ!」という感じで惹かれていました。矢野フェスのときに初めて生で歌う姿を見たんですが、醸し出すムードも何もかも自分にはないものばかりで「カッコいい!」と思って。別の年の矢野フェスにEPOさんが出演されていて、「DOWN TOWN」のコーラスを私と土岐さんが担当したんです。すごく嬉しかったし、その時初めて「好きです」とお伝えして、連絡先を交換してもらいました(笑)。

ーー「でも」(坂本真綾×原昌和(the band apart))も、このアルバムの聴きどころだと思います。作詞は岩里祐穂さん、作曲・編曲は原さんですが、どうして原さんに歌ってもらおうと?

坂本:声がいいんですよ。ライブでは原さんがコーラスしているので、バンアパのファンの方はご存知だと思うんですけど。私もバンアパのCDを聴いていて、「このコーラスは荒井(岳史)さんではないな。誰が歌っているんだろう?」と気になっていたんですけど、ライブで原さんが歌っているのを見て、「なるほど!」と。バンアパのなかで私が最初に知り合ったのも原さんだったし、デュエット相手としても意外でいいなと思って。原さんはあまり本気にしてなかったというか、「やれと言われればやりますが」という感じだったんですけど(笑)、イヤだとは言わなかったので、これは誘っていいヤツだなって。書いてくださった曲もすごくよくて。

坂本真綾×原昌和(the band apart) – 『でも』 Lyric Video

ーー原さんらしいミクスチャー感覚に溢れた楽曲ですよね。岩里さんの歌詞については?

坂本:大人の世代の歌にしたいということは伝えていたんですけど、岩里さんとディレクターが盛り上がって、“若い頃に「世界を変えたい」と理想に燃えていた人のその後”みたいなテーマになったみたいで。いろんなことに燃えていた若かりし時代があって、今は淡々とした日常を生きているんだけど、ふとした瞬間に「あの時代の延長線上にいるんだな」と思って、自分に目を向けるというか。もういい大人だし、若い時と同じ熱量では生きられないけど、そんな自分を遠くから見ちゃうようなことって割とあることだと思うんですよ。

ーーデビューから25年経った今だからこそ歌える曲かも。

坂本:そうですね。〈一度かぎり 綱渡りの人生は 落ちたら終わりさ でも〉という歌詞がしっくり来てる自分にも驚きました。それだけ自分も大人になったんだなって。

「一人じゃないと思えるような歌にしたい」

ーー続く「sync」(坂本真綾×内村友美(la la larks))は、疾走感のあるロックチューン。歌詞は内村さん、坂本さんの共作です。

坂本:la la larksには何度も曲を提供してもらっていて、友美ちゃんとは個人的にも仲良くさせてもらっているんです。la la larksはお休みしてるんですけど、そういう時期だからこそ、普段とはちょっと違う雰囲気の曲で一緒に歌ってほしいなと思って。歌詞については「ハッタリかますくらい前向きに」とオーダーしました(笑)。ちょうど私がミュージカルの本番中だったこともあって、最初から最後まで全部LINEでやり取りしながら共作して。友美ちゃんはフットワークが軽くて、私が「歌ってみないとわからないな」って連絡すると、「じゃあ歌ってみますね」ってすぐに仮歌を入れてくれて。助かりました。

坂本真綾×内村友美(la la larks) – 『sync』 Lyric Video

ーー〈戦っているのは自分だけじゃない/だから強くなれる〉というラインもそうですが、アルバムのなかでも特に強い感情が込められているなと。

坂本:何かに勝負していたり、何かに挑んでいる人に向けた歌にしたくて。たとえそばにいなくても、それぞれの場所でそれぞれに戦っている、そのことで自分も強くなれるというか。ライブの前に「一人だけど、一人じゃない」と思えるような歌にしたいねという話もしてましたね。

ーーライブに臨むときの気持ちも反映している?

坂本:そうですね。ステージに向かう前に、どうしようもなく孤独になる瞬間があって、「これは誰とも分かち合えないものだろうな」と思うこともあって。「友美ちゃんはバンドだからいいな」と言ったら、「バンドであっても歌うのは私一人だし、同じですよ」って。孤独になったときに「あの曲を思い出せば頑張れる」という曲にしたかったし、自分たちの応援歌みたいな感じです。

——〈自分にかけた呪いを解く勇気〉という歌詞も印象的でした。

坂本:そこは友美ちゃんですね。自分に暗示をかけてしまうこともあるし、それを外せたらどれだけいいだろうって。友美ちゃんとはそういう話もするし、一生の課題ですね。

ーー江口さんのサウンドメイクについては?

坂本:江口さんにお願いするときは、何かの主題歌のときが多くて。作品の世界観によって「派手めにしてほしい」「ダークな印象に」みたいなオーダーをさせてもらってるんですが、今回は一聴してポップでかわいいと思える曲にしてほしくて。もちろん、江口さんらしい一筋縄ではいかないところもあって、すごく良かったですね。江口さんは友美ちゃんのこともよく知っているし、どっちが主メロかわからないくらい入り組んだ感じにしたいという気持ちもあって。歌うのは難しかったけど面白かったです。

ーーそして「星と星のあいだ」(坂本真綾×井上芳雄)は真綾さんが作詞・作曲を担当していますが、井上さんと真綾さんは、ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ〜足ながおじさんより〜』など、何度も舞台で共演していますよね。

坂本:芳雄さんとは長いお付き合いだし絆も深いので、デュエットアルバムにもぜひお呼びしたくて。役者として歌っているイメージが強いと思いますけど、私の思う芳雄さんらしさは、若いときからずっとスターだけど、どこまでも普通なところを持っていることなんです。そういう素の部分を出してもらえる曲がいいなと思ったし、あとは「クラシカルな歌声が伸びやかに聴こえる曲」だったり、「大げさすぎないこと」だったり……。いろいろ考えているうちに、「これは誰かにオーダーするのは難しいな。自分で書いたほうがいいかも」となりました。もちろんデュエット曲を作曲するのは初めてだったし、かなり難しかったですね。

坂本真綾×井上芳雄 – 『星と星のあいだ』 Lyric Video

ーー「大げさすぎない」がポイントだったのはなぜですか?

坂本:そうですね。結果的にはだいぶ雄大な曲になりましたけど、ポップスから離れないようにしたくて。スケールが大きくてもいいけど、(リスナーを)“遠くから舞台を眺めている観客”みたいにさせたくなかったし、自分のこととして聴けるような曲がいいなと。あと、私と芳雄さんが向き合って歌うのではなくて、それぞれが生きている場所から、まだ出会っていない人とつながれるような歌にしたい気持ちもありました。聴いている人もたぶん、誰かのことを思い浮かべてくれるんじゃないかなって。

小泉今日子との共演ーー「本当に現実かな?」みたいな嬉しさと感動

ーーそしてアルバムの最後は、小泉今日子さんとのデュエット曲「ひとつ屋根の下」。真綾さんは以前から小泉さんのファンだったそうですね。

坂本:はい。決定的に好きになったのは、小泉さんが書かれたエッセイなんです。最初は『an・an』に連載されていたエッセイ(『パンダのanan』)で、その後『小雨日記』や『小泉今日子書評集』を読んで。特に『黄色いマンション 黒い猫』が最高なんですけど、「これを読んで、この人のことを好きにならないわけがない」と思いました。女性としても歌手としても俳優としても素敵ですけど、根本にあるのは自分の生き方を自分で決めている人の覚悟であって、それがとても気持ちいいし「私もこうならないといけない」と思わせてくれるんです。そういう人物像が文章から伝わってくるのかな。

坂本真綾×小泉今日子 – 『ひとつ屋根の下』 Lyric Video

ーーいつか一緒に何かやりたいという気持ちもありましたか?

坂本:いや、それはないですね(笑)。今のディレクターの福田さんが、20年以上前に小泉さんを担当していて、私が彼女を好きなことも知っていたから、「デュエット相手の候補として名前を出さないの?」と言ってくれたんですよ。一度ご挨拶させてもらったことはあるけど、「デュエットしませんか」とは言えないな……と思っていたんですけど、この機会を逃したらチャンスは二度とないだろうし、お願いするだけしてみようと勇気を出して声をかけたら、驚きのOKだったんです。引き受けていただけるだけで嬉しかったんですけど、制作に入ったら「楽しみたい」「いいものにしたい」という小泉さんの姿勢が素晴らしくて。やっぱり思っていた通りの方だなと。

ーー作曲は鈴木祥子さん。真綾さん、小泉さんともに接点がある方ですね。

坂本:そうなんです。私の声、小泉さんの声の特徴もよくわかっているし、イメージ通りの曲を上げてくれて。祥子さんは小泉さんのツアーにコーラスとして参加したこともあるし、彼女に対する思いが深いんですよ。「真綾さん、小泉さんが一緒に歌うんだったら、私もコーラスで参加したい」と最後のコーラスの部分を歌ってくれて。作家としてだけでなく、祥子さんがしっかり参加してくれたのも良かったですね。

ーーそして作詞は真綾さん。小泉さんと一緒に歌う曲の歌詞を書くのは、相当なハードルですよね。

坂本:さっきも言ったように、文筆家として大好きな方ですからね。歌詞を書くのはとても緊張しましたけど、力を入れすぎないというか、「いいことを言わないようにしよう」と思って。

ーーペットと人の関係を描こうと思ったのはどうしてですか?

坂本:『小雨日記』を読んで、小雨ちゃん(猫)が亡くなったことも知っていたし、私もそういう経験をしていて。いろんな関係があるけど、言葉もないのに心を許し合って、一緒に眠れる猫と人間の絆って究極だなと思ったんですよ。ペットは人の何倍ものスピードで年をとるし、最期まで見届けなくちゃいけないというのも、究極の愛だなって。同じような経験をした人とも、曲を通して、温かさを共有したかったんですよね。私も結構キツいペットロスを体験しているんですけど、今また、新しくペットを迎えているんですよ。愛している存在を失うことは本当に辛いけど、もらったものを返せる相手がいるって素晴らしいことだと思うんです。小泉さんも(ペットを)新しく迎えていると聞いて、お互いに共感できるのはそのポイントかなって。

ーーなるほど。レコーディングはいかがでしたか。

坂本:小泉さんがペットの役だったんですけど、可愛さだったりコケティッシュなところだったり、“キョンキョン”らしい歌声だなって。しかも包容力や懐の深いところもあって、ぴったりだと思いました。どんなことも見守ってくれる相棒というか。私は仕事モードを貫いていて、キャッキャしたい自分は抑えてたんですけど(笑)、自分の歌録りを始めた瞬間、ヘッドフォンから小泉さんの声が聴こえてきて、何とも言えない気持ちになりましたね。「これ、本当に現実かな?」みたいな嬉しさと感動がありました。

ーーアルバムの制作を通して、たくさんのプレゼントを受け取れたのでは?

坂本:素晴しすぎましたね。素敵な人たちからいろんな影響を受けて。しかも天才ばっかりなんですよ、今回参加している人たちは。制作のなかで「イヤになっちゃう」と思うこともいい意味でいっぱいありましたけど、デビューから25年経ってそんなふうに思わせてもらえるなんて、最高じゃないですか。

ーー今後の活動へのモチベーションにつながりますよね。デュエットの魅力も実感できたのでは?

坂本:そうですね。コロナで人と会えない時間が多くなったことが自ずと影響したと思うし、そこで感じたことも反映されていて。たとえば「ひとくちいかが?」は何気ない女同士の晩酌のことを歌っていますけど、今や懐かしい感じがするというか、そういう普通のことがどれだけ素晴らしいか。図らずもこの時期にデュエットアルバムを出せて、「人と歌うって、素敵だな」と思えたことも良かったですね。

ーーそして3月20日、21日には、横浜アリーナで『坂本真綾 25周年記念LIVE 「約束はいらない」』が開催されます。初日のゲストは内村友美さん、堂島孝平さん、原昌和さん、2日目のゲストは内村さん、堂島さん、土岐麻子さんですが、どんなライブになりそうですか。

坂本:アルバムに参加してくれた皆さんと一緒にライブで歌えるのはすごく嬉しいですね。25周年は横浜アリーナのライブで終わりなんですけど、この状況のなか、ライブをやれるだけでありがたいです。来てくれる方は本当に欲してくださっていると思うし、手ぶらで返すわけにはいかないと。昔の曲、最近の曲を織り交ぜて、楽しんでもらえるライブにしたいですね。

■リリース情報
坂本真綾『Duets』
2021年3月17日(水)¥2,500+税

<収録曲>
1. Duet! / 坂本真綾×和田弘樹
作詞:坂本真綾 作曲・編曲:h-wonder
2. あなたじゃなければ / 坂本真綾×堂島孝平
作詞・作曲・編曲:堂島孝平 ホーン編曲 : 堂島孝平・sugarbeans
3. ひとくちいかが? / 坂本真綾×土岐麻子
作詞:土岐麻子 作曲・編曲:TENDRE
4. でも / 坂本真綾×原昌和(the band apart)
作詞:岩里祐穂 作曲・編曲:原昌和
5. sync / 坂本真綾×内村友美(la la larks)
作詞:内村友美・坂本真綾 作曲・編曲:江口亮
6. 星と星のあいだ / 坂本真綾×井上芳雄
作詞・作曲:坂本真綾 編曲:山本隆二
7. ひとつ屋根の下 / 坂本真綾×小泉今日子
作詞:坂本真綾 作曲:鈴木祥子 編曲:山本隆二

<購入特典>
坂本真綾コンセプトアルバムコースター(全4種ランダム)

オフィシャルHP「I.D.」

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