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みうらじゅんの映画チラシ放談

『フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話』 『クライマーズ』

月2回連載

第46回

── 今回の1本目は、『フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話』です。

みうら チラシを見る限りでは昔の松竹映画『吸血鬼ゴケミドロ』のニオイを感じ取ったんですけど、ホラーじゃなくて? 僕は上から3人目がゴケミドロになる人じゃないかと思うんです。旅客機が不時着して、アダムスキー型の円盤が現れて、銀色の液体みたいな宇宙人がこの人の額を割って入り込むんです。そんな展開を想像したんでこのチラシを選んだんですけど、実話って書いてありますね、コレ。

── 売り文句として“スカイパニックアクション”って書いてありますからね(笑)。

みうら うーん、やっぱり上から3人目の人が気になります。ちょっと頬に傷があるじゃないですか。ここからゴケミドロが入り込むんじゃないかと。それにしてもこの人の顔はなにか企んでるカンジですね。

一番上の若い頃の竹中直人さんみたいな顔の男の人は機長ですよね。いや、このチラシからしてホラーでしょ(笑)。

── 確かにジャンルものっぽい胡散臭さはありますね。あと絵面を見た限り、この飛行機、絶対に助からないですよね?

みうら エンジン片方燃えてますからね。こんなヤバい角度で飛んでる飛行機の上に登場人物が載ってるチラシは『裸の銃を持つ男』じゃないですか(笑)。それなのに実話かぁ……。

── このチラシと実話とのギャップを埋めない限り、この映画の正体が解明できませんね。

みうら このチラシの説明を見る限りでは、パニックの末、128名の乗員乗客の命を救うみたいですけどね。

スカイパニックものって大概、乗客に「どなたか操縦できる方いませんか?」みたいな無茶な質問をするシーンがあるじゃないですか。まずこういう映画の基本は最初にやられちゃうのが機長ですから。なにかが飛んできてフロントガラスが割れて、機長がケガして倒れる。するとチラシの上から2番目に写ってるCAが、「どなたかいませんか!」ってね。都合よく、乗客の中に医者が乗り合わせてるわけです。

もちろんいろんな人生模様も描かれるはずですよね。実はアル中で医者を廃業になったとか。あとシスターが乗っていて神に祈ったりもしますよね。やっぱりどう考えてもこの3人目の頬に傷がある人は、犯人だと思うんですけど、どうでしょう?

── 護送中の犯罪者が飛行機に乗ってる可能性はありますね。

みうら ひょっとしてその護送犯が操縦の免許を持っていたりしてね。意外なことにその犯人が乗客の命を救うことになる、なんてね。あくまで、このチラシを見る限りは、ですけど。“ひとりの男に託された”って書いてますけど、それが機長だったら「でしょうね」で終わってしまいますから。

それに、このチラシ、上から順にストーリー仕立てになってるんだと思うんですよ。まず1番上の竹中直人さんみたいな人がやられて、2番目の客室乗務員が「どなたか操縦できる人は!?」って言って、3番目の護送犯が「オレ、操縦できますけど」みたいな感じで手錠を外されて、4番目の女の人は「まあ助かったわ」って言ってるところじゃないでしょうか?

── まるで4コマ漫画じゃないですか(笑)。

みうら 4コマチラシ。新しいですけどね(笑)。

── ちなみに四川航空の飛行機が重慶からチベットのラサに向かう話のようです。

みうら 四川は辛い料理で有名ですね。そこから政治的なところに飛ぶとなると、乗客にはチベットの僧侶もいるかもしれないですね。チラシには中国版『ハドソン川の奇跡』とも書いてありますね。『マディソン郡の橋』の方ではないと(笑)。

あ、この映画、配給がアルバトロスじゃないですか! となるとね、途中でトリプルヘッド・ジョーズが出てきてもおかしくないですよね。それとも、上空だからシャークネードが襲ってくるとか。チラシには写ってないですけど、そのせいで飛行機が故障して、なんてストーリー。実話ですもんね、ありませんよね(笑)。

でも、このチラシをデザインしたのも、きっと『トリプルヘッド・ジョーズ』と同じ人じゃないですか? もう観に行くしかないですよね。確かめるためにも。

── 続いては、こちらの『クライマーズ』です。これはなんでまた選ばれたんでしょう?

みうら 僕、山が苦手なんです。特に雪山なんて一生、登らずに死にたいですから。だから申し訳ないんですけど、そんな山に好き好んで登る人が、やっぱりひどいメにあうものは見逃せません。これまでにも雪山映画はずいぶん観てるんですよ。悪いけど。

チラシを見る限りではこれも配給、アルバトロスですか? 違います?

── 配給はAMGエンタテインメントという会社ですね。公開規模的には似ていると思います。

みうら プロデューサーがツイ・ハークと書いてありますね。ツイ・ハークと言えばワイヤーアクションじゃないですか。このチラシではロープを持ってますけどね。

ロープアクションは、絶対にあるんじゃないですか? わざわざツイ・ハークがプロデュースなのに、普通のエベレスト登頂だけの映画で済むのかって話ですよね。

── チャン・ツィイーも出演していますが、彼女も『グリーン・デスティニー』『HERO/英雄』とかで、さんざんワイヤーアクションやってきた人ですもんね。

みうら やはり、そうですか。しかもジャッキー・チェンまで出てるじゃないですか! このチラシではまるで山の神みたいな扱いで写っていますがね。

これって、ジャッキーが山の神で、エベレストを登頂してくる人々になにかしら厳しい修行を与えるお話でしょ? ジャッキーのかつての映画『ドランクモンキー 酔拳』でいえば、師匠役のユエン・シャオティエンってところでしょうか。見てますもんね、山の上から。上がってこれるもんなら上がってこいってね(笑)。

チラシでは、一応登山の防寒服のように見えますけど、実は山岳宗教モノじゃないかと。日本でいえばジャッキーは役行者的な存在で、鬼も従えてるんじゃないかと。

── ウー・ジンとチャン・ツィイーの後ろにピッケルを振り上げてる人がいます。これ、襲いかかってるようにも見えますね。

みうら 「山を乱すもの、許すべからず!」ってことでしょうね。

ジャッキーが“友情出演”ってなってるのもカギだと思うんですよ。たぶんジャッキーはそんなに活躍しないっていうか、山の神だから、幻影みたいな感じで登場されてるんじゃないでしょうか。

── 『スーパーマン』のマーロン・ブランドみたいな感じですか?

みうら あくまでその扱いでしょう。このチラシは実はすべてを語っていて、デザイン上の演出で山の上にジャッキーを入れたわけじゃなくて、本当に大きいんじゃないですか? 映画の中でも巨人なんじゃないかな。

── “超弩級”って書いてるのはジャッキーのことでしたか(笑)。

みうら もうエベレストという山の存在自体がジャッキーなんじゃないですか? 「我こそはエベレストなるぞ!」って言いますよ、きっと。

たぶん一番活躍するのはこのウー・ジンさんでしょうね。このチラシ、ファイト一発感が滅茶苦茶ありますからね。ということは、山には滋養強壮の妙薬を探しに来たんじゃないですか? それを探しに来て、山の神ジャッキーに試練を与えられ、最終的には免許皆伝みたいな感じになって、妙薬を手渡されて終わるんじゃないですか?

── もはやラストシーンまで見えてきましたね(笑)。

みうら いや、あくまでチラシを見る限りですが(笑)。

── すみません、水を差すようですが、裏を見たら“奇跡の実話”って書いてます。

みうら え、マジですか! これはやられましたね。でも実話ってどういうことなんですかね? そもそも実話の概念がよく分からないんですけど。もし本当の実話だったら、ジャッキー・チェンが出てくるなんておかしな話ですよ(笑)。

── あと、チラシの裏の紹介によると、ジャッキー・チェン、山を登りますね。測量士の役らしいです。

みうら いや、そこは測量士のフリをした山の神ですよ、絶対(笑)。測量士として同行しておいて、人間たちを導いたり、わざと厳しい局面に立たせたりもすると思うんですね。それも修行の一環ですから。

── なるほど。確かに“昔と今をつなぐ重要なクライマー”役とも書かれてますね。

みうら クライマーですか? やはり……。

あ、ちょっと待ってください、このチラシに写ってる山、さっきの『フライト・キャプテン』のチラシとも重なりませんか? 同じ山の可能性だってありますよ。エベレスト登頂の上空で、飛行機がとんでもないことになってるなんてストーリーも考えられますね。

── おー、それはすごい展開! この2枚を選んでいただいたのも、ある意味でお導きだったのかも。

みうら いや、違うでしょうね(笑)。でも、このチラシ2枚が同じデザイナーって可能性は否めませんよ。

取材・文:村山章
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プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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