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『探偵・由利麟太郎』が他の刑事ものと一線を画したワケ ドラマを成立させた吉川晃司の存在感

リアルサウンド

20/7/15(水) 6:00

 5週連続特別ドラマ『探偵・由利麟太郎』(カンテレ・フジテレビ系)が惜しまれながらもあっという間に最終話を迎えた。第5話「マーダー・バタフライ後編」は、最終話らしく横溝ワールドを構成する要素がふんだんに盛り込まれた回となった。

参考:『探偵・由利麟太郎』鈴木一真が2年ぶりドラマで“訳あり感” ゲストたちが横溝ワールドを彩る

 そもそも本作が今流行の刑事もの、バディものドラマと一線を画しているのは、やはり「事件×怪奇」要素の掛け合わせだろう。怪奇要素を加えるために欠かせない演出、法則が多数見受けられた。

 まず、異様なほど装飾され、本来あるべきはずでない場所にある遺体。だからこそ、由利(吉川晃司)の「観察し続ければ、真実が見えてくる」が生きるわけだ。第1話では、ゴミ収集場の冷蔵庫内に入れられた新川優愛扮する女性の負傷体(これは遺体ではなく自作自演だったのだが)、第2話では洋館のバスタブから見つかるホステスの遺体、クラブのVIPルームで目から流血するモデルの遺体に、そして第4話のコントラバスの中からバラの花びらと一緒に詰められた原さくら(高岡早紀)の人形のような死体。

 亡霊など、これまた「そこにあるはずでないもの」が現れ、周囲は幻影に囚われる。意味深なモチーフも登場する。第1話では、研究室に飾られた頭蓋骨に全ての謎が詰まっていた。ホステスが犯人によって錯乱状態に陥り幻覚に悩むように仕向けられていた第2話は、怪奇現象のオンパレード。第3話では、犯人はピエロに扮して自身の妻にまで手をかけようとし、普段とは全く異なる二面性を覗かせていた。最終話でも、高岡早紀扮するさくらの亡霊が度々出現する(これにはトリックがあったわけだが)。

 ただ、このような超常現象が頻発しながらも、どこかリアリティーを持って迫ってくるのは、本作がことごとく人間のおどろおどろしい感情や秘密を炙り出しているからだろう。第1話で悲劇が引き起こされた原因は、人体実験による許されぬ罪、倫理観よりも自身の名誉欲や研究者としての性を優先した罰、そして他者への強い支配欲だった。続いて、父親への歪んだ劣等感を埋め合わせるために完璧な殺人劇を成立させようとした息子の根深いコンプレックスが引き金となった第2話。第3話では、格差婚をした旦那の妻に対する劣等感、猜疑心が事件の裏側に潜んでいた。最終話では、オペラ界のスター歌手で恋多き女性が抱える秘められたトラウマと、その現実に向き合い切れず幻想を生きるしかなかった悲しき運命。また、恋慕う気持ちが度を超してしまい、自分だけが彼女を守ってやれると思い込んだ、報われぬ崇拝心、恋心が起因した。

 これだけの浮世離れした要素をギュッと1話に詰め込んでも散らからずに成立していたのは、他でもない誰よりも世間離れした由利麟太郎を演じる吉川晃司の存在のおかげだろう。

 グレイヘアの渋い風貌、180cmを超える長身にタイトな外套を着こなす抜群のスタイル。それ以上に、人を惹きつけて離さないカリスマ性は、長らくロック歌手として芸能界の最前線に立ち続けてきたからこその賜物。彼だけが持ち合わせる独特の空気感と間合いである。本作内でも、全く声を張っていない由利だが、彼が静かに話始めるとどうしても自然と耳を傾けてしまっている。これまでも多くを語らずとも、背中で見せるようなリーダータイプを演じてきた吉川。2009年放送の大河ドラマ『天地人』(NHK総合)では織田信長役を好演し話題に。また記憶に新しいのは『下町ロケット』(TBS系)で演じた財前部長。難航を極めるロケット開発部の部長を務め、自身の進退をかけて信念を貫き通す姿に、視聴者からも「憧れの上司像」だという声が上がっていた。

 いるだけでその場の空気が“立つ”ような圧倒的存在感を持ちながらも、共演者の若手俳優陣の存在も決して殺してしまわない。志尊淳とのバディも意外性がありつつも安定感も感じられ、相性良好だった。大きなクライマックスがあるわけでもなく、余韻を残しながらそっと静かに幕引きされた最終話もとても風情があり、本作らしいエンディングを飾った。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。

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