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『愛するとき 死するとき』インタビュー【前編】小山ゆうな「物語の普遍的な部分に光を当てられたら」

ぴあ

小山ゆうな

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浦井健治を主演に迎え、東西冷戦時代の東ドイツ、さらにベルリンの壁崩壊後の統一ドイツで暮らす若者たちや家族たちの日常や葛藤、愛を描き出す『愛するとき 死するとき』がシアタートラムで11月14日より開幕する。フリッツ・カーターによるこの戯曲を翻訳し、自ら演出を務めるのは小山ゆうな。過去に今回と同様にドイツ語の戯曲「チック」、『イザ ぼくの運命のひと/PICTURES OF YOUR TRUE LOVE』の翻訳・演出を手掛けてきた小山に、本作の魅力やシアタートラム初登場となる浦井の印象などについて話を聞いた。

意識下に訴えてくるような戯曲

――2002年にフリッツ・カーターが執筆し、その年のドイツを代表する戯曲として高く評価された本作ですが、小山さんがこの戯曲と出会ったのはいつ頃ですか? 読んでみての印象を含めて教えてください。

今回、世田谷でまた演出させていただくことが決まって、ドイツの現代戯曲がいいのでは? ということでいくつかの候補にあがったもののひとつがこの作品で、そこで初めて読みました。フリッツ・カーターはアーミン・ペトラスという名前で演出家として活躍されていて、そちらの名前で私も認識して、作品も知ってはいたんですが、フリッツ・カーターとしての作品を読むのは今回が初めてでした。

最初に読んだ時は「え? これどうやって読んだらいいのかな?」という感じでしたね。わりとドイツの戯曲ってそういう作品があるんですけど、個人的にはそういう作品を避けてきた部分もあったんです。お客さんが楽しめるのか? という不安も付きまとうので回避してきたんですけど、今回の候補の中にあって、何度も読むうちに実はすごく面白いんじゃないか? と思うようになったんです。

――「面白いんじゃないか?」と感じたという部分は?

この作品、戯曲というかほぼ詩ですよね? 言葉の選び方であったり、文体、言葉の面白さが読めば読むほど美しいな、かっこいいなと感じたり、不思議だと感じたりしました。内容的な部分の「こういう物語です」というのとは別の面白さをだんだん感じるようになって、意識下に訴えてくるというか、読んでいると「なんか気持ちいいな…」と感覚に訴えてくるようなところがあるなと思いました。

音楽劇的な第一部と「映画」な第二部、そして「詩」を語る第三部

――2002年発表の戯曲を20年近く経て、しかも日本で上演することの意義や本作が訴えるテーマ性などについてどのように感じていますか?

そうなんですよね……(苦笑)。例えば第一部の「僕」が語る青春は、ドイツに暮らす人たちであれば、典型的な東ドイツの青春だねとわかるワードや描写が散りばめられているので、何の違和感もなく、そういうものとして受け止められるんですよね。

でも、それを日本で上演するとなると、場所も全然違いますし、時代も2002年と2021年って全く違いますよね。正直、この作品をいま、本国のドイツで上演しても当時と(受け止められ方が)全然違うと思います。2002年はベルリンの壁が崩壊して10年ほどが経って、みんな東西ドイツが統一して嬉しいねって思っていたけど、実はそうじゃなかったんじゃないの? と気づき始めた頃で、演劇作品でもそういう作品がたくさん作られたりした時期なんですよね。

そういう状況とは全く違う、いまの日本でこれをやるということで、もう少し普遍的な物語にできないか? “東ドイツの物語”ということではなく、閉じられた世界の中で、文字通り閉塞感を抱きつつ、そこから飛び出したいと思っている若者たち――無理やりいまの日本とつなげる必要もないですが、もしかしたら、実は現代の日本とリンクする部分もあるのかなと思うので、そういう普遍的な部分にもう少し光を当てられたらと思っています。

『愛するとき 死するとき』チラシ

――先ほどもおっしゃったように「詩」のような言葉の羅列があり、第一部、二部、三部で登場人物も時代も異なる物語が展開するというのもあり、戯曲を読んだだけではどんな光景が舞台上で繰り広げられるか全く想像がつきません。演出に関してどのようなプランをお考えですか?

第一部は“コンサート”“ライブ”をコンセプトにしていて、全てを音楽でつないでいって、歌もあるし振付も用いながら紡いでいくことを考えています。「僕」が自分の青春を語っているけれども、7人の出演者全員が「僕」かもしれないとも思っています。戯曲では死ぬほど固有名詞がいっぱい出てくるんですけど、それは、あえて誰が誰だかわからなくするための数の多さなんだろうと思っていて、全員が「僕」だと思って進めています。

第二部は、作家自身も「映画」と表現していますが、もう少し演劇的な物語を伝えるということをしています。第三部は元の戯曲の通り、もう少し「詩」に戻って、詩を語るというイメージに近いものにして、それぞれの見せ方を変えながら飽きずに楽しめる構成にしていければと考えています。

『愛するとき 死するとき』メインビジュアル 宣伝美術:秋澤一彰、撮影:牧野智晃

――小山さんはシアタートラムでは過去に、同じく現代ドイツの戯曲『チック』、そこから派生して生まれた『イザ ぼくの運命のひと/PICTURES OF YOUR TRUE LOVE』の翻訳・演出を手掛けられています。過去の2作と今回の「愛するとき 死するとき」で共通する要素、小山さん自身が惹かれる共通のテーマ性などがあるんでしょうか?

共通することとしては作家の知性、知識と哲学的な“深さ”があるのかなと感じていて、いずれも若者たちの物語なので、表面的な言葉は粗野だったりするんですが、その裏には深い哲学があって、それは稽古をしていく中で感じられて楽しいですね。「そうか、ここはそういう意味だったのか」と読み解いていく作業がすごく面白いです。

もうひとつ、共通点として感じている部分があって、ドイツで「Bildungsroman(ビルドゥングスロマン)」と呼ばれる小説のジャンルがあって「自己形成小説」とでも言えばいいのかな(※日本では「教養小説」と訳されることが多い)? ヘルマン・ヘッセの『デミアン』などが有名ですが、ひとりの主人公が成長していって、自己を発見するといった小説ですが、そうした流れをくんでいる部分が『チック』にもあるし、今回の作品にもあると思います。皮肉としてこの流れを用いている部分もあるし、素直にそうなっている部分もあると思うんですが、そこはすごく面白いなと感じますね。

「“背景”が見えない」主演・浦井健治の魅力

――主演の浦井健治さんとは1年ほど前にお会いして初めて話をされたそうですね? 今回のような複数のジャンルを横断する作品にはうってつけとも言えるキャスティングだと感じますが、小山さんは浦井さんに対してどのような印象を持たれていますか?

まさに、どんなジャンルも軽々と横断してしまうという印象がお会いする前からありました。先ほどお話した今回の構成も、浦井さんありきなんですね。浦井さんがやってくれるなら、こういう構成が面白いなと。

でも、本当に不思議な方ですよね(笑)。シェイクスピアをやったかと思えば、ミュージカルだったり、全くタイプの違うコメディをやったり、ジャンルもキャラクターも軽々と越えてしまう感じがして……。

1年前に初めてきちんとお話させていただいた際は、演劇の話はもちろんなんですけど、それだけじゃなく、社会情勢の話だったり、このコロナ禍で人はどう生きるべきか? みたいな深い内容の話までして、初対面だったのですごく意外な気がして新鮮で、本当におもしろい魅力的な方だなと思いました。

稽古場で接していてもすごく不思議なんですよね。これまでもストレートプレイでもミュージカルでも役を説得力を持って魅力的に立ち上げていらして、素敵だなと思って見てはいたんですけど、“背景”が見えないというか、どうやってその域までたどり着いたのかが見えないのがおもしろいですね。ファンのみなさんの目にどんなふうに映っているのかをこっちが聞きたいくらいです。

――高岡早紀さんが、浦井さんとさまざまな関係性の役柄を演じるというのも楽しみですし、前田旺志郎さん、岡本夏美さんといった若い世代、そして小柳友さん、篠山輝信さん、山﨑薫さんという中堅の実力派も揃っていて、面白いアンサンブルですね。

『愛するとき 死するとき』出演者:上段左から、浦井健治 高岡早紀 中段左から、前田旺志郎 小柳友 篠山輝信 下段左から、岡本夏美 山崎薫 撮影:牧野智晃

高岡さんはあんなにすごい女優さんなのに稽古場に“普通”にいてくださるんですよね。率直に「こう思うんだけど」という意見も言ってくださるし、若い俳優さんともごく普通に接してくださって、稽古場でいい意味で誰も緊張してないんですよね。そのスタンスがすごいなぁと思います。不思議な浦井さんともすごくいいバランスで、語り合うというよりもふたりとも、舞台上の“息”でスッと合わせるのがすごく上手ですね。

前田くんや岡本夏美ちゃんは、私にとっては“新世代”という感じで、普段の発言からお芝居に持ち込んでくれるものまで全てが新鮮で「あぁ、そうなんだ!」という発見が多くて楽しいです。その周りを年齢的には間にいる山﨑さん、小柳さん、篠山さんがしっかりと支えてくれているという感じで、稽古場がクリエイティブで雰囲気がすごく良いですね。

――珍しい構成の作品になっていますが、最後に本作の楽しみ方、こういう部分を見てほしいというポイントをお願いします。

観ていて「難しい」と思う瞬間もあると思うんです。知らない固有名詞が出てきたりして。でも作家が不思議な文体で書いているということも含めて、意味がわからないところがあっても、7人の俳優さんの魅力であったり、カッコいい場面、楽しい場面をひとつひとつ楽しんでいただければ良いと思っていて、無理に意味を追うような作品ではないと思っています。“正解”があるわけではないので、どういうふうに観るか? ということもこの作品に関しては特に自由だと思うので、俳優さんと客席で空間を一緒に楽しんでもらえたらと思います。



取材・文:黒豆直樹



インタビュー後編は、浦井健治さんと高岡早紀さんの対談! 公開は11月6日(土)正午です。お楽しみに!

公演情報
『愛するとき 死するとき』
作:フリッツ・カーター
翻訳・演出:小山ゆうな
出演:浦井健治 /
前田旺志郎 、 小柳友 、 篠山輝信
岡本夏美 、 山崎薫 /
高岡早紀

2021年11月14日(日)~2021年12月5日(日)
会場:東京・シアタートラム
名古屋・兵庫公演あり

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2181001

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