Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『レ・ミゼラブル』は「今までにない新しいことをやりたかった」 ラジ・リ監督の独自の映画哲学

リアルサウンド

20/3/1(日) 12:00

 第72回カンヌ国際映画祭審査員賞に輝いた映画『レ・ミゼラブル』が2月28日より公開中だ。ヴィクトル・ユゴーの小説『レ・ミゼラブル』の舞台でもある、パリ郊外に位置するモンフェルメイユは、いまや移民や低所得者が多く住む危険な犯罪地域と化していた。犯罪防止班に新しく加わることとなった警官のステファンは、仲間と共にパトロールをするうちに、複数のグループ同士が緊張関係にあることを察知する。そんなある日、イッサという名の少年が引き起こした些細な出来事が大きな騒動へと発展。事件解決へと奮闘するステファンたちだが、事態は取り返しのつかない方向へと進み始めることになる。

参考:パリ郊外の街の混沌ぶりや衝撃の実態が 『レ・ミゼラブル』本編映像公開

 今回リアルサウンド映画部では、本作が長編デビュー作となったラジ・リ監督にインタビュー。映画的なバックグラウンドから、実体験に基づいているという本作について話を聞いた。なお、同席した市長役のスティーヴ・ティアンチューにもインタビューに参加してもらった。

ーーフランス映画としては非常に独特な語り口の作品だと感じました。まずはあなたの映画的なバックグラウンドを教えてください。

ラジ・リ:今回の作品は、自分でこれを撮りたいんだという強い意志がありました。しかも、これまで撮られてきたような作品のカテゴリーに入れられるようなことも絶対に嫌だったんです。私自身は、映画学校に通っていたわけでもなく、誰かに映画の技術を教えてもらったわけでもなく、ストリートが学校のようなイメージで、独学で映画を学んできました。では、シネフィルかと言われたら、そうでもないんです。実はほとんど映画を観ていません。私は今回、今までになかった新しいことをやりたいと思ったんです。私自身の撮影の仕方で、私ならではの作品を作りたいという思いが強くありました。だから、映画館に行って映画を観るという行為もなるべく避けていて、観るとしても飛行機の中とかでした。

ーーもともとドキュメンタリーを撮っていたあなたにとって、本作は初の長編劇映画となりましたが、劇映画を撮ろうという思いはいつ頃から芽生えたのでしょうか?

ラジ・リ:フィクションの長編映画を撮りたいという思いは最初からありました。ただ、それは物理的にもハードルが高かったので、ドキュメンタリーを撮り始めたんです。ですが、ドキュメンタリーには、なかなか作品を観てもらえないという欠点がありました。なので、より多くの人に観てもらうために、フィクションで、長編映画で、映画館で上映する作品を撮ろうと思うようになりました。

ーーテーマ的には社会的ですが、ドキュメンタリータッチな冒頭や、まるでアクション映画のような終盤など、ジャンルレスな作品だと感じました。

ラジ・リ:私自身、何かの枠組みにとらわれるようなことは避けたいんです。こういう作品を撮りたいというレファレンスもありません。自分の頭の中で「こう撮りたい」と思い描いているイメージに基づいて撮影をするわけです。非常に精度が高い状態で自分の中にイメージがあるので、それを映像化して、編集していくという作業になります。あなたが指摘してくれたように、最初はドキュメンタリーで、時にはジャンル映画だったり作家主義的だったりして、最終的にはアクション映画のようになるという見方は正しいと思います。でもそれは、自分の中で何かこういうふうにしようという意図があるわけではなく、私の頭の中で描いているものをそのまま映像化しているまでに過ぎません。

ーーとなると脚本はどうなんでしょう? 厳密に細かく書いているのか、それとも現場で指示をしていくのか。

ラジ・リ:脚本は非常に厳密に書いています。私が言ってもらいたいことを裏切っていない限りは、役者陣に自由に演技をしてもらっていますが、基本的には脚本の段階で固めています。最近脚本を読み直したのですが、とても厳密に映像化していたので、自分自身で驚いたぐらいです。

ーースティーヴさんはこれまで他の監督の作品にも出演されていますが、ラジ・リ 監督の現場はどのようなものでしたか?

スティーヴ・ティアンチュー:私自身は、しっかりと役を理解して、作り込んで、提案するかたちで現場に臨むことを自分の中で義務付けているんです。その提案を、監督たちが取捨選択することによって、人物像を作り上げていくイメージですね。でも今回は、私自身もよく知っている地区の話で、監督自身もしっかりテーマを設定してコントロールした現場だったので、どういう動きをすればいいのかは自然と分かりました。容易だったというのは言い過ぎかもしれませんが、とてもうまくいったと思います。フランスにおける黒人の役割は、悪役だったり性格が悪いというのがステレオタイプなので、そういうふうにはならないようにしようとは気に留めていました。

ーーストーリーは監督の実体験がもとになっているそうですが、どこまでが実体験なのでしょうか?

ラジ・リ:全部です。すべて私自身の体験なんです。むしろ、私の体験のほうがハードだったと思います。実は、ラストシーンも私自身が自分の住んでいた場所で目にしたことなんです。なので、ラストは最初からああしようと考えていました。

スティーヴ・ティアンチュー:実はこの作品は3部作の第1弾と考えられていて、第2弾、第3弾の構想も彼の頭の中にはあるんです。だから、第2弾、第3弾のほうが、もっと厳しい現実というものが、より過激なかたちで描かれると思います。

ラジ・リ:それは決してフィジカルなバイオレンスが登場するということではなくて、そこに登場する家族たちの境遇が、もっと観ていて辛いものになるということです。

ーー監督の実体験のほうがハードだったということですが、それはいまのほうが当時より良くはなっているということでしょうか?

ラジ・リ:都市化などによって見た目的に美しくなった部分はもちろんあります。でも、教育面や文化的な予算が削られていき、子供たちが犠牲になっている面も大きいのです。すべてが悪くなっているとは言いませんが、まだまだ問題は山積しています。

ーーその現状を映画として映し出すことによって、少しでも現状を変えようとしているわけですね。

ラジ・リ:その通りです。この作品がより多くの人に観られることによって、そこでようやく政治家たちが動き始めるわけですから。

ーー最後に個人的に気になることを聞かせてください。映画はほとんど観ないということですが、最近観た作品で良かったものがあれば教えていただけませんか?

ラジ・リ:(笑)。『パラサイト 半地下の家族』は観ましたよ。素晴らしい作品でした。あと、政府軍とイスラム過激組織の対立が激化した1997年のアルジェリアにおいて、スタイリスト志望の女子学生がファッションショーを企画する模様を描いた『Papicha(原題)』というフランス映画も素晴らしかったです。主演女優(リナ・クードリ)は絶対にブレイクすると思います。(取材・文=宮川翔)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む