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『映像研には手を出すな!』“個性”を”役割”にシフト 際立つキャラクターに隠された魅力

リアルサウンド

20/2/9(日) 8:00

 アニメーションは、1人では創れない。大勢のクリエーターが結集し、役割を分担しそれぞれの作業と向き合い、初めて作品として完成する。私たちが普段何気なく見ている30分のアニメでも、その裏には血と汗の滲むような努力が隠されている。

参考:『映像研には手を出すな!』現役業界人の胸をも熱くさせるリアリティ “最強の人選”によるアニメ化

 そんなアニメーションを自分達の力で創り上げるべく集まった3人の女子高生を主人公に展開する『映像研には手を出すな!』(NHK総合)。原作は大童澄瞳、アニメーションの出来上がる過程を描いたマンガとして唯一無二の独創性を放つ本作を、同じく斬新な表現技法で国内のみならず海外でも注目を集める湯浅政明監督がアニメ化した。マンガからアニメへ、まさに作品の描こうとする「動くアニメーションの魅力」を視聴者に伝え、現在最新第6話を心待ちにするファンがSNSを中心として大いに盛り上がっている。

 本作では前述のとおり、3人の女子高生が「映像研究同好会」略して「映像研」を立ち上げ、アニメーション制作に奮闘する姿が描かれているが、3人のキャラクター性それぞれが個として尖っており、また得意とする分野も異なる。本コラムでは、主要人物である浅草みどり、金森さやか、水崎ツバメのキャラクターとしての立ち位置とアニメ制作における役割を考え、総括的に「アニメーションづくりを描くアニメ」としてどのように作品を引き立たせているのかにスポットを当てていく。

 「映像研」の中で背景設定を担当する浅草みどりは、自身の住む団地が複雑に入り組んだ構造をしていたために周囲を探検し、スケッチブックに発見したことを描き込んでいた幼少期の過去を持つ。また、同じ頃に何気なく見たアニメーションが心躍るような空想世界を表現していたことがきっかけで、アニメーションの仕組みや設定にも関心を持つ。そんなバックグラウンドにより培われた人並み外れの好奇心により、空想力や空間把握能力も身につけ、高校生になる頃には抜群の観察眼と想像力、アニメーションへの強烈なあこがれを兼ね備えるようになる。

 思いの強さから生み出される創造力は、時に現実をも凌駕する。アニメではしばしば現実世界と想像世界が交錯する表現がなされているが、その根源となっているのはまさに浅草の頭の中に存在する莫大な「バックボーンを生み出す力」だろう。彼女に関しては、過去の体験がきっかけで今のキャラクター性が構成され、背景設定担当という役割として能力を発揮している。

 浅草とは同じ中学校の出身であり、第1話より彼女と行動を共にしていた金森さやかは、回を追うごとにマネジメント能力と頭の回転の早さを随所で垣間見せてくる。1人ではアニ研の上映会に行けずにいた浅草と連れ立ち、後に映像研のメンバーとなる水崎ツバメと出会い、3人は映像研を立ち上げるのだが、そこからのフェーズにおいて金森の存在は映像研に不可欠なものとなってくる。

 浅草、水崎のアニメーションを実際に作る「動」の働きかけに対し、金森は実際にアニメーション制作には触れないものの、彼女らを時に扇動し、管理し、冷静に対峙する「静」の働きかけを担う。彼女の行動はまさにアニメーション界におけるプロデューサーのそれであり、実際に制作へ関わる者だけでは成り立たないアニメーションという総合的な制作物において、非常にナチュラルなキャラクター性で重要な位置に立っている。そう考えると、彼女なしで「映像研」は成り立たないといっても過言ではないだろう。

 第1話で浅草、金森と劇的な出会いを果たした水崎ツバメは、この3人の中で最もプロフィールが際立っている人物といえる。というのも彼女は「カリスマ読モ」であり「有名人」なのだ。しかし彼女自身はアニメが大好きで、夢はアニメーターになることである。アニメーションで表現される動きのリアルさに心を奪われ、「動くこと」を演技と捉え、アニメーターとは役者である、と第3話で語ったシーンは印象に残った。

 読者モデルとアニメーター志望という2つの顔を持つ彼女だが、身体で表現することを仕事にしており、演じる素質が最初から身についている状態であるからこそ、前述の2人とはまた違うアプローチでアニメ制作に働きかけることができる。創作とは直接的な繋がりのない仕事を並行しつつ、アニメーターとして動画制作に関わっている水崎。それには相当のモチベーションが必要になりそうだが、彼女においてはそんな「動きで演じる」ことへの熱意が冷めないからこそ、3人の中での役割が成立しているのだといえよう。

 こうしてそれぞれのキャラクター性を考察し述べてみると、本作が彼女らを主人公に据え、アニメーション制作を描いている事に対し非常に高いバランスを感じざるを得ない。各々の個性や能力をそのままアニメーションの役割にシフトさせ、物語として成立させているからこそ、視聴者ないし原作の読者は女子高校生が繰り広げる青春あり、冒険ありのストーリーを楽しみながら、同時にアニメーションの妙を感じることができるのだ。

 マンガからアニメーションへ、「絵が動く」という感動を体現させ私たちを楽しませてくれるアニメ『映像研には手を出すな!』。次なる第6話では一体どんな「作品」が爆誕するのだろうか。今後も個性際立つ3人から目が離せなくなりそうだ。

■安藤エヌ
日本大学芸術学部文芸学科卒。文芸、音楽、映画など幅広いジャンルで執筆するライター。WEB編集を経て、現在は音楽情報メディアrockin’onなどへの寄稿を行っている。ライターのかたわら、自身での小説創作も手掛ける。

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