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ポケモンから、はじめしゃちょーまで……非凡な岡崎体育のプロデュース力を“着眼点”と“家族”のキーワードから探る

リアルサウンド

20/10/4(日) 12:00

 YouTuber・はじめしゃちょーのデビュー曲「動画作る人あるあるソング」や、12月公開の映画『劇場版ポケットモンスター ココ』のテーマソング全6曲など、プロデューサーとしても手腕を発揮しているミュージシャン、岡崎体育。

 岡崎体育といえば、もともとは京都を拠点に活動し、「盆地テクノ(BASIN TECHNO)」を自称した高クオリティな楽曲で好評を集め、邦楽ロックのミュージックビデオにありがちな場面や演出をパロッたMV「MUSIC VIDEO」(2016年)で全国区へと駆け上がったミュージシャン。Twitterのフォロワー数は56万人を超えており、近年の投稿はバズるのが当たり前の状況。2016年1月7日の「冷蔵庫に貼ってあったメモ書きを英語風に読んでみた」というツイートなどがこれまで拡散されてきた。

 幅広い層から親しまれている岡崎だが、ずっと裏方志向があったようで、2017年6月発売の雑誌『QUICK JAPAN VOL.132』での鬼龍院翔(ゴールデンボンバー)との対談でも、「裏方に回りたいんです。アイドルに楽曲提供したり、プロデュースするほうに回りたいと昔から思ってました」と語っている。

 また、雑誌『anan』の連載でもこれまで何度かプロデュース論を展開。2020年7月15日発売号では、BTSを話題にあげ、「自分がアイドルやダンスユニットなどをプロデュースするとしたら、何人組がいいのだろうか」などと記述。メンバーの人数は割り切れる数が良いのではないかということ、個々の魅力を広げるためにはバラエティ番組出演が必須であること、グループにセンターは必要ないけどリーダーは決めておきたいことなど、アイデアを膨らませている。

 岡崎体育の魅力は、引き出しが多彩であるがゆえ、一括りでは彼のことを語れない部分である。それでもあえて今回のプロデュースワークから岡崎のキーワードを挙げるなら、それは「着眼点」と「家族」である。

研究して作り出される「あるあるネタ曲」

 岡崎楽曲のヒット作で真っ先に浮かぶのは、「あるあるネタ」を歌詞やサウンドに散りばめた作品群だ。今回プロデュースした、はじめしゃちょーの曲「動画作る人あるあるソング」もその流れの1曲。カメラ前ではリアクションは派手だけど編集作業時は無口なことや、何かを1キロ食べてみたという定番企画のことなど、YouTuberをはじめとする動画クリエイターにとって、思い当たる節が満載。逆に、動画を作らない人であっても、「分かる気がする」とどこか納得できる。岡崎の「あるあるネタ曲」の良さは、当事者以外も巻き込んで共感させられる点だ。

【MV】YouTuberあるあるソング/はじめしゃちょー

 お笑いの芸でも然り、こういった「あるあるネタ」で重要なのは、目のつけどころの良さである。岡崎は、当たり前になり過ぎて全員がスルーしがちな出来事も逃さずにツッコミを入れ、さらに誰も気づかないような物事にも光を当てる。

 ミュージックビデオでよく見る光景について歌った「MUSIC VIDEO」。どこか聞き覚えがあるラウドロックのメロディに、これまた身に覚えがあるような歌詞を乗せて岡崎が激しく歌いあげながら、一方「こんな歌詞でもノレる?」と言わんばかりに気の抜けたワードをサビに持ってくる「感情のピクセル」(2017年)。いずれも、ネタ元をよく見聞きし、その構造を深く研究している。

岡崎体育 『MUSIC VIDEO』Music Video
岡崎体育 『感情のピクセル』Music Video

 「Explain」(2016年)は、曲の構造解説をそのまま歌詞にしているところに驚きがあった。〈ここがAメロ〉〈突然のRap こういうRapの部分は2番のBメロ終わりにありがち〉といったメタ表現の言葉が並ぶ。加えて、口パクに関する批評的な視点があり、サビの歌唱パートでは水を飲んで、同曲が口パクであることをカミングアウト。2017年9月8日放送の『ミュージックステーション ウルトラFES2017』(テレビ朝日系)で披露した際、このパフォーマンスは大きな話題となった。

 ちなみに「Explain」の口パクカミングアウトは、椎名林檎が『Mステ』に出演した際、マネキンを配置して楽器が当て振りであることをアピールした演奏や、はたまた『COUNT DOWN TV』(TBS系)におけるDragon Ashやザ・クロマニヨンズの口パクパフォーマンスへの岡崎なりのアンサーではないか……と誇大妄想したくなる。それくらい岡崎の曲は深い。

岡崎体育出演の街ブラ番組担当者が語る、驚くべき着眼点

 岡崎は、自身の冠番組でも着眼点の鋭さを見せている。KBS京都テレビで毎月第2・第4土曜日に放送されている『岡崎体育の京の観察日記』。同番組は、岡崎が京都を街ブラして、気になった風景や出会った人たちと交流し、さまざまなことを体験していく内容だ。

 この番組の制作を担当する酒井俊樹氏(KBS京都プロジェクト)に取材すると、「岡崎さんは毎回、目のつけどころが人とは違うんです」という答えが返ってきた。

 酒井氏が「印象的だった」と語る放送回は、8月22日オンエア「京丹波町後編」。岡崎は同回でサバイバルゲームを体験。岡崎チームと相手チームは、サバゲー参加者のなかから自軍に引き入れたい人材をスカウト。普通であれば、持っているモデルガンの性能、服装の本気度、装備品の充実度から判断して、チームメイトをセレクトしていく。

 しかし岡崎は、参加者の足元に注目。野球のスパイクを履いている人を見つけてチームに引き込んだという。その理由は、「野球のスパイクを履いているから盗塁がうまそう」というもの。つまり、「この参加者がいれば機動力が使えるのではないか」と推測したのだ。酒井氏は、この岡崎の意外な目のつけどころに驚いたという。

 ちなみに同番組には、「奇数回は、京都の街にある銅像の前から撮り始める」という定番がある。第3回「伏見界隈前編」では、伏見の坂本龍馬像、おりょう像の前で撮影。酒井氏は、「とりあえず坂本龍馬について語り始めるのかな」と岡崎の出方を伺っていたそうだが、そこでナナメ上なコメントが飛び出した。

 「岡崎さんは、おりょうが坂本龍馬の腕に手を添えているところに注目していたんです。で、『これってカメラマンに十何枚目か撮られたタイミングで、“おりょうさん、坂本さんに手を添えてください”と言われたのかな?』とおっしゃられたんです。つまりこの銅像は、カメラマンがふたりを撮影しているものだと仮定し、指示を出してこのポーズを作らせたと岡崎さんは想像した。おりょうが手を添えているところを見ただけで、そんなことを考えるなんて……」と振り返った。

 酒井氏は、「ご本人は取材などでも『客観的に物事を見るようにしている』とよくおっしゃっていますよね。この街ブラ番組では、他の物事だけではなく自分自身についても、置かれている立場や状況をちゃんと把握して動いてくださるんです」と、岡崎の持ち味について語ってくれた。

「家族」を背景とした作品の多さ

 岡崎のもうひとつのキーワードは「家族」だ。

 テーマソング全6曲のプロデュースを担当した映画『劇場版ポケットモンスター ココ』はまさに、家族を題材にした物語である。人間でありながら、ポケモンのザルードに育てられたため、自分のことをポケモンであると信じて育った少年・ココ。本当の自分の姿に困惑し、さらに実の父親ではないザルードとの関係性についても語られていく。

【公式】「劇場版ポケットモンスター ココ」予告2

 トータス松本(ウルフルズ)をボーカルに迎えたメインテーマ「ふしぎなふしぎな生きもの」に、〈どこにいても いつでも 俺は君の 父ちゃんだ〉と歌う部分がある。

 ここで思い出すのが、岡崎のブレイク曲のひとつ「家族構成」(2016年)。同曲では、ひとりの少年が、母親の再婚相手である義理の父に「お前なんか父さんじゃない」と拒否しながらも、半年後に父と子の関係が結ばれる様が描かれている。家族にはいろんな形があるが、岡崎は〈生活水準に左右されないたった一つの宝物 それが家族の絆〉と歌い上げる。とてもポジティブな曲調で、何度聴いても心が温まる。

岡崎体育「家族構成」Music Video

 一方で「PTA」(2019年)では妻にGPSで行動を監視される夫のワケありな姿がそこにある。「家族構成」とはまた違った意味での「家族としての逃れられなさ」を物語っている。また「私生活」(2019年)では、母親の軽自動車で弟と大型スーパーに向かう様子が綴られている。

 雑誌『QUICK JAPAN VOL.132』には、岡崎と母親の対談も掲載。そこでは、京都の実家で暮らしのときは身の回りのことだけではなく、歌詞について母親からアドバイスをもらっていたエピソードが明かされている。岡崎が家族をどれだけ頼っていたかが分かる。

 彼が出演したドラマについても触れてみよう。NHK連続ドラマ小説『まんぷく』(2018年)で扮したチャーリー・タナカは、自分の両親が大阪出身であり、日系二世という境遇から屈折した感情を抱えて生きていた。テレビ東京のドラマ『僕はどこから』(2020年)で演じた駿は、幼少期に親に捨てられた過去を持ち、預けられた施設で出会った少年を本当の兄のように慕う。どちらも家族や血筋に因縁を持った役である。

 こうやって取り上げてみると、岡崎の制作背景には家族というものが何かしら強く関わっているように思える。そういう意味では、映画『劇場版ポケットモンスター ココ』の楽曲プロデュースは適役と言って良いのではないだろうか。

 ただ、前述したように岡崎のおもしろさは、一括りにして語れないところである。この記事で考察したことは、彼についてのほんの一端。岡崎はこれからもいろいろな角度から物事を見た作品で、私たちを楽しませてくれることだろう。

■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter

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