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「中野にあなたの故郷が生まれます」ノックノックス『おぉーい。』ヤストミフルタ×藤谷みきインタビュー

ぴあ

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ミュージシャンによる生演奏、オーバーヘッドプロジェクター(OHP)による映像投影、生きた植物を用いる屋内ガーデニングとのコラボレーションを交えた作品づくりに定評のあるノックノックス。2019年に上演された『人魚姫』以来、2年ぶりの有観客公演となる本作『おぉーい。』は、夏休みに父親の実家へ預けられた少年による冒険物語。ミヤマクワガタを採りに夜の森へ出かけた少年は、森をよく知るだいごろう・おはなさん・しげおの三者に出会って──。主宰で作・演出・作曲を手がけるヤストミフルタ、しげお役で声の出演を果たす藤谷みきに、始まったばかりの稽古場で作品にかける想いを語ってもらった。

ノックノックス作品は成分の70%が優しさでできている

──目の前に観客がいる公演は、ノックノックス名義だと2年ぶりになりますね。久しぶりにお客さんの反応を目の当たりにできることを、どのように受け止めていらっしゃいますか?

ヤストミ ノックノックスは子ども向けの作品が多いんですけど、観に来てくれた子どもの反応する「声」が入って初めて完成する側面があるんですよね。でも、ここ2作(2020年『照らす』、2021年『シンデレラ』)で挑戦した配信公演では観客の反応がわからなかった。僕の本来やりたかった形に戻れて嬉しいです。

 

──藤谷さんは2016年の『幸せの標本』以降、ノックスノックス作品に出演し続けていらっしゃいます。今回は「声の出演」で、これまでと作品の向き合い方が異なってくるかと思いますが、どんなスタンスで稽古に臨もうと考えていらっしゃいますか?

藤谷 私は「しげお」という役で、姿かたちをステージ上に現しません。おそらく(笑)本番は録音予定なので、稽古場にも来なくていいんですよね。でも今のところ、ずっと来ています(笑)。来られる時にはいる予定です。

──省エネすることもできるのに、なぜ稽古場に通おうと考えていらっしゃるんですか?

藤谷 だいごろう役の八代進一さん、おはなさん役の田野聖子さんとは『人魚姫』でご一緒しました。特に八代さんは外部公演でもよく共演するのでお人柄はよく存じ上げているんですが、初めてご一緒する若菜さんがとても新鮮で。

この3人が集まってお芝居にどんな化学反応が生まれるか、日々どんどん変化していて、見ていてワクワクします。それに合わせて最適な声を当てられたら、と思って。なるべく皆さんのお芝居を拝見したいと、私の方から希望しました。

──ノックノックス作品の魅力ってどんなところにあると思いますか? 多くの作品に出演されている藤谷さんにお聞きしてみたいです。

藤谷 「一緒に観てみようよ」と子どもにも安心して声をかけられる優しさがありますよね。この時期の上演では新型コロナに対して言いたいことを含んでいる。でも伝わるメッセージは攻撃的じゃないんです。ノックノックスの作品にこれまで数本出演してきましたが、どれも共感したり、ホッとしたり、慰められたり。成分の70%が「優しさ」でできている感じがしますね。

ヤストミ まとめると、ノックノックスは解熱鎮痛剤ってことでよろしいですか?(笑)

藤谷 あはは!(笑)

客席にいる子どもの顔を思い浮かべたら、優しい物語になった

──『おぉーい。』はコロナ禍を意識して書かれたんですか?

ヤストミ 書き始めの1週間は意識したんですが、気にしなくなりましたね、これまではわりと、課題として取り上げたい直接的なキーワードを劇中に登場させていたんですよ。でも今回は入れませんでしたね。

──台本に「コロナ」の文字は見当たりませんでした。

藤谷 そうですよね。完成した台本からは、まったくコロナを感じなかった。(ヤストミに)でも書き始めるまでは「コロナにぶつけるぞ」って気迫があったよね? どうして変わったの?

ヤストミ 目の前にお客さんがいる形で上演できる条件が整った時に、客席にいる子どもの顔を思い浮かべました。そうしたらコロナ禍を題材にする気持ちがどこかへ飛んでいってしまって。夏休みシーズンの上演ですし、とにかく大人より子どもに楽しんでもらうことを考えたら、僕の訴えたいメッセージはいったん脇へ置いておこうかな、と。

──脇に置いたとはいえ、台本を拝読するとこの作品は単なる「ぼく」の冒険物語ではないと思いました。ご覧になったお客さんは、この作品から何を持ち帰れるでしょうか?

ヤストミ 僕自身、寂しいのが得意じゃないので「孤独を癒す」という要素は入っていますね。それ以外でいうと、ノックノックスは環境問題や生物多様性といったテーマで作品づくりをしてきました。今回も絶滅したといわれている動物が登場しますし、少年が親友のために探すミヤマクワガタも減っている現状が劇中で語られます。自然や環境について子どもたちに興味を持ってもらえたらいいな、って。

藤谷 『人魚姫』の時もそうでしたよね。劇中で人魚姫を大好きになった女の子が「海は汚くしちゃいけないんだ」ってことに気づく。決して声高に訴えているわけではなかったのに、終演後には「ゴミを持ち帰ろう」ってお母さんに語りかけるお子さんも現れて。

ヤストミ そうそう、考えるきっかけになればいいな。劇場って体験学習ができる場でもあると思うんです。「どうしてミヤマクワガタは減っているの?」とお子さんに尋ねられても、答えられなくていい。「じゃあ一緒に調べてみようか」って家族の話題になるような材料を、僕たちが提供できたらいいですね。

藤谷 まさに。私たちが提供する素材から、いろいろイメージを膨らませて楽しんでいただきたいな。「作品のテーマはこれです」とつくり手が強く訴えたとしても、お客さんは自由に持ち帰っていいんです。カット割りで「重要なのはこの場面」と提示される映像と違って、生の演劇はご覧になっている人が重要だと感じるポイントを「フォーカス」できる。自由に受け取ってもらいたいですね。

俳優からインスピレーションをもらって当て書き

──ノックノックス初出演となる若菜さんが主人公「ぼく」を演じます。彼女に何を期待してキャスティングなさったのでしょうか?

ヤストミ 若菜さんの素晴らしさは、なんといっても「声」ですね。声に質量があるとしたら、みっちりギュッと詰まっているタイプ。かつ多くの人に刺さる、まっすぐでピュアな声質をしています。今回、タイトルを『おぉーい。』と呼びかけの声にしたのも、彼女からインスピレーションをもらったからです。

──主人公「ぼく」を少年の設定にしたのはどうしてですか?

ヤストミ 「うんち」って連呼しても違和感ないのは少年かな、って(笑)。あと僕の息子が大きくなって、いろいろ喋るようになったのが大きいかもしれません。とにかく反応がおもしろいんですよ。それが物語を書き進める原動力になったところもあって。

小学生の男子って、同い年の女子より精神年齢が圧倒的に低くて弱い生き物ですよね(笑)。ちょっと突っついたらパーン!と弾けちゃう子もいて。劇効果を考えても主人公の「ぼく」は気弱なタイプの方が映えるから、今回は若菜さんに少年を演じてもらうことになりました。

──一方で、ヤストミさんのツイートによれば「だいごろう」は八代進一さんに当て書きなさった役だとか。

ヤストミ 僕が八代さんのことを大好きすぎて、そうなりました(笑)。八代進一に合っている役を書いたのではなく、「こんなことを八代さんに言ってもらえたら」って願望をセリフに込めたというか。

──だいごろうは森の中における「ぼく」のお父さんなのかな、と思って。父性みたいなものを八代さんに投影したのでしょうか?

ヤストミ 勝手にそうなったんですよね。もう八代進一が大好きだからだと思います!

藤谷 何回言うねん、告白か!(笑)

ヤストミ そういう意味では、田野聖子にも「こんなこと言って欲しい」って願望を込めたセリフを書きましたね。『照らす』へ出てもらった時に、面倒見がよくてすごく優しい母性的なイメージを持ったんです。ご本人はそう思っていないかもしれませんけど。うん、これも聖子ちゃんが大好きだからです!(笑)

藤谷 私のセリフには母性も父性もない。

ヤストミ あはは!(笑)役割が違いますから!

中野に生まれた「森」へ遊びに来て

──台本のひらがな表記に子ども心をくすぐられました。

ヤストミ お客さんには見えない部分ですが、俳優に台本をお渡しする時に「僕こんなにワクワクして書いたんだよ!」ってことが伝われば、と思ってやってみたら……漢字が登場するたびに学習指導要領(学年別漢字配当表)を調べなきゃいけないので、めっちゃ大変でした!(笑) ト書きと主人公「ぼく」のセリフは、小学3年生までに習わない漢字は基本使っていないんです。

──キャストの皆さんにどんな影響があるのか気になっていて。

ヤストミ モチベーションは「俳優さんにもこのワクワクが伝えられたら」の一点突破だったんですけど……そう言われてみると、ひらがなだったから生まれたセリフもありますね。「さいあく!」の連呼が最たる例かなぁ。小3だと「悪」は書けるけど、「最」はまだ書けないんですよね。でもバラけるとカッコ悪いから全部ひらながにして。「最悪」ってすべて漢字にして5〜6個並べると、字面から受けるイメージが強すぎませんか?

──「最悪最悪最悪最悪!」……ホントですね、怖い。

ヤストミ でも「さいあくさいあくさいあくさいあくさいあく!」ってひらがなにすると、かわいらしく成立する。俳優さんも、漢字で「最悪」って書いてあるのと、ひらがなで「さいあく」って書いてあるのとでは演じ方が違ってくると思うんですよね。台本は芝居をつくる設計図だから、できるだけ僕のイメージに近い言葉の羅列というか、見た目の印象を考えました。

──生きた植物や土砂を効果的に使うのがノックノックス作品の特徴といえますが、今回の「森」はどんな感じになりそうですか?

ヤストミ テアトルBONBONを本当の森にしますよ! 木で埋め尽くします。2年前に『人魚姫』で使った植物が育って、5mくらいになった子がいるので少しカットして。ノックノックスの植物は200くらいあって、ずっと一緒。キャスティングはほとんど変わっていません。

藤谷 『人魚姫』をやった劇場(すみだパークスタジオ倉)より今回はコンパクトな会場だから、密度が上がりますね。植物ギューギュー詰めで、楽しいことになりそう!

ヤストミ やっぱり劇場は「体験」の場だから、ですね。目でステージをとらえて、耳でセリフや音楽を楽しむだけじゃなくて、五感に訴えたいんです。劇場に植物を入れると、足を踏み入れた時の空気が違うと一発でわかりますよ。酸素量も上がっているし、土や緑の匂いがする。すぐ慣れちゃうけど、実は五感の中で記憶に結びついているのは「嗅覚」なんだそうです。これを無くしちゃうのは本当にもったいない。手間はかかるけれど、造花や造木には出せない効果を期待して「本物」を連れて行きます。

藤谷 東京・中野の小劇場に森が生まれるって、よく考えたら貴重な機会ですよね。コロナ禍でお出かけを控えようとしている方には、旅行代わりにいらしていただけたら嬉しいです。中野に生まれたあなたの故郷に、ぜひ遊びに来てください!

【若菜コメント】

 

今回、ノックノックスの舞台には初めて出演させていただきます。
私自身お芝居の経験もあまりない中で、
このような役を務めさせていただくのは、正直不安な気持ちもあります。
もちろん少年の役をやるのも初めてです。
でも、台本をいただいた時に、ヤストミさんの素敵な世界観や、どこか昔の自分に似てる部分があったり、色々な感情が溢れて涙が止まりませんでした。
それと同時に、全力で役と向き合いたいと思いました。

全員で心を一つにして、素敵な作品にしたいです。
一生懸命頑張ります。

【田野聖子コメント】

 

ノックノックスが今回お届けするのは今頑張ってる人たちへの応援歌。
切なくも温かい物語は皆さんの心にきっと届くはず。
愛を込めてこの作品を演じたいと思います。
ぜひ真夏の森へ足をお運びください。

【八代進一コメント】

 

コロナ禍でステイホームする中での最近の友は、志ん朝と渥美清だった気がする。DIY中に落語を聞き、飲みながら寅さんを観る。なんのシンクロニシティなのか、ヤストミ氏からこういう役をいただいた。若旦那や渥美先生のような異能者には到底及ばないが、何かの「気配」でも醸し出せたら、ステイホームも無駄ではなかったというところか。

取材・文:岡山朋代 撮影:源賀津己



ノックノックス『おぉーい。』
2021年8月4日(水)〜2021年8月8日(日)
会場:テアトルBONBON
チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2116970

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