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全文掲載! ジャーナリスト池上彰は映画『i-新聞記者ドキュメント-』をどう観たのか?

ぴあ

19/11/14(木) 0:00

望月衣塑子記者

森達也監督が東京新聞社会部の望月衣塑子記者を追った話題のドキュメンタリー映画『i-新聞記者ドキュメント-』がついに15日(金)から公開になります。ジャーナリストの池上彰さんは本作をどう観たのか? 映画を観て池上さんが“驚いたこと”は? 好評連載「池上彰の映画で世界がわかる!」の最新回を全文掲載します!

新聞記者の質問にまともに答えない官房長官。質問を始めた途端、「質問は簡潔にお願いします」と介入する官邸の報道室長。報道室長の介入の声で質問の内容が聞こえなくなるありさま。これが東京新聞社会部の望月衣塑子記者に対する総理官邸の対応です。

マスコミの世界ではよく知られたことですが、森達也氏は、これをドキュメントで描き出しました。

沖縄県の辺野古埋め立てで、業者が沖縄防衛局との約束を守っていない疑惑が浮上すると、現地に取材に飛ぶ。あるいはニュースの渦中の人に直接話を聞く。これは記者としてごく当たり前の行動です。望月記者はそれを実践しているだけなのですが、いまの世の中では極めて異質に見えてしまいます。

望月記者が財務省の麻生太郎大臣の記者会見に出て大臣に質問を重ねると、麻生大臣は、「質問は一社ひとつでしょ。質問を重ねるのは、うちの文化じゃあまりない」と望月記者を茶化します。

"うちの文化"とは、財務省記者クラブと大臣とのやりとりの流儀のこと。財務省記者クラブの記者たちは大臣に質問を重ねていないことを大臣が暴露してしまいます。

財務省の記者クラブに常駐するのは政治部と経済部の記者たち。記者たちも"空気"を読み、"忖度"しているのでしょうか。

「官房長官記者会見に出られるのは政治部記者だけ」は思い込みだった

そもそも官房長官の記者会見に出るのは政治部の記者たち。望月記者のような社会部記者が出席するのは異例のことです。

望月記者が官房長官記者会見に出るようになったことを知って、私は驚きました。私はNHKの社会部記者でした。社会部記者が官房長官の記者会見に出るなど考えられなかったからです。私たちが、「官房長官記者会見に出られるのは政治部記者だけ」と思い込んでいただけだったのですね。

東京新聞が社会部記者を参加させたのを見て、他の新聞社も社会部記者を参加させるようになりましたが、望月記者の存在感が目立ちます。

これだけ目立つと、望月記者に対する批判も出ます。望月記者に対する"殺人予告"の電話が東京新聞にかかってきます。

望月記者の姿を通して暴かれる日本のマスコミの現状

私が驚いたのは、望月記者が官房長官に何度も質問を繰り返すことを批判的に記事にする新聞社があったことです。記者が質問をしなければ仕事を全うできないではありませんか。これが日本のマスコミなのか。

日本のマスコミのあり方について外国人記者たちの批判は耳が痛いことばかり。「官邸の記者会見では事前に質問を出さなければならない。こんなことは考えられない」と指摘します。

考えてみると、アメリカではドナルド・トランプ大統領がメディアを敵視し、"フェイクニュース"と罵りますが、"ニューヨーク・タイムズ"や"ワシントン・ポスト"、CNNなどは一歩も退かず、果敢に大統領とやりあっています。その結果、"ニューヨーク・タイムズ"の電子版は読者を増やしています。

そんな立場から見ると、日本のマスコミは微温的いや腰が引けているのでしょう。

望月記者を取材する森達也監督

数々のドキュメンタリー映画を制作してきた森達也氏は、今度は望月記者を取材対象に選びました。望月記者の取材の様子を映像で忠実に追いかけていくことによって、日本のマスコミが権力を監視する仕事を十分果たしていない現実を暴き出します。

記者の仕事は事実を確認して報道すること。わからないことがあれば質問を重ねること。記者の仕事のイロハを改めて教えてくれるドキュメンタリーです。

掲載写真:『i-新聞記者ドキュメント-』 より
(C)2019『i-新聞記者ドキュメント-』

『i-新聞記者ドキュメント-』

11/15(金)より新宿ピカデリーほか全国公開!
配給:スターサンズ  113分
監督:森達也
出演:望月衣塑子

プロフィール

池上 彰(いけがみ・あきら)

1950年長野県生まれ。ジャーナリスト、名城大学教授。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。記者やキャスターをへて、2005年に退職。以後、フリーランスのジャーナリストとして各種メディアで活躍するほか、東京工業大学などの大学教授を歴任。著書は『伝える力』『世界を変えた10冊の本』など多数。

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