Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

KAAT2020年度ラインナップ発表に白井晃「今年度も前のめりな表現の場に」

ナタリー

20/2/5(水) 0:27

KAAT 神奈川芸術劇場 2020年度ラインナップ発表会より。

「KAAT神奈川芸術劇場 2020年度ラインアップ発表会」が、昨日2月4日に同劇場にて行われ、芸術監督の白井晃と芸術参与の長塚圭史のほか、清水恒輔、桐山知也、冨安由真、松原俊太郎、谷賢一、森山開次、小野寺修二、多田淳之介が登壇した。

2011年にオープンした神奈川・KAAT神奈川芸術劇場は、2021年で10周年を迎える。まずこのことについて白井は、「この10年で、国内のみならず、世界全体、そして演劇を取り巻く状況も変わってまいりました。ますます管理・監視社会的になり、個人的にいやな空気感だと感じております」と発言しつつ、「今年7月にオリンピック・パラリンピックが始まり、熱狂的な雰囲気が日本中を取り巻くことと思いますが、上演作品を通して、熱狂の中、見逃してしまいがちなことに目を向かせることができれば」とラインナップの狙いを語った。

発表会は白井の進行のもと、前半は美術・キッズプログラム・ダンス作品、後半は演劇作品という2部構成で行われた。中スタジオで個展「漂泊する幻影」を披露する冨安は、「演劇作品には演者が必ず存在しますが、私の作品には演者どころか人自体が登場せず、あるのは誰かがいた“痕跡”だけ。そういった“不在性”を大事に、今回の作品を制作していきたい」と意気込みを述べる。キッズプログラムには、昨年2019年夏に上演された山本卓卓上演台本・演出の「二分間の冒険」と、松井周の新作「さいごの1つ前」がラインナップ。松井はビデオメッセージで「白石加代子さん演じる認知症の老婆が、子供たちと一緒に記憶を探すという作品です。いつもは人類や地球が滅亡してまうような作品を手がけることが多いのですが(笑)、楽しいものを作りたい、というのが今の僕の気分。子供向けの作品を作るのは初めてですが、楽しい場を作ることができれば」とコメントした。

ダンス作品には、森山による「星の王子さま-サン=テグジュペリからの手紙―」と、小野寺の新作の上演が予定されている。まず森山は自作について「副タイトルが“サン=テクジュベリからの手紙”となっていますが、これは著者であるアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの思いを深く読み解いたうえで、『星の王子さま』を解体し、構築していきたいという思いからです。かつて子供だった大人たちや、これから大人になっていくであろう子供たちに届ける作品になればうれしいです」と思いを語る。続く小野寺はKAATとの縁を振り返りつつ、「白井さんから『なんでもいいから小野寺修二の好きなことをやっていい』と言われて。同時に白井さんから『改めて自分が何がしたいのか、考えて』と言われ、ハッとしました。僕の出自はパントマイムなんですけれど、この10年、“言葉を使わない”ことをやってなかったなと思い返して、今回はセリフを使わない作品を作ろうと決めました」と決意を語った。

発表会の後半、演劇作品の紹介に移ると、白井はまずエンダ・ウォルシュ作「アーリントン(ラブ・ストーリー)」を自身の演出で上演すること、そしてその連動企画として、「メトロポリス伴奏付き上映会ver.2020」と「リーディング公演 ポルノグラフィ」を開催することを話す。2018年に同じウォルシュの作品「バリーターク」の演出を手がけた白井は、「エンダ・ウォルシュに惚れた(笑)」と話し、「今回も非常に不思議な、面白い作品です」と自信を見せる。「メトロポリス伴奏付き上映会ver.2020」は、映画「メトロポリス」の16mmフィルム上映に合わせ、清水、阿部海太郎、生駒祐子が作曲・生演奏するもの。清水は「映画では、発展しすぎた資本主義社会で、極度に二分化した労働者と支配者が描かれています。1927年に制作された映画ですが、今の社会にも通じるものがある」と述べた。サイモン・スティーヴンス作の「ポルノグラフィ」は、ロンドンオリンピックの開催決定後に起きたテロ事件をモチーフにした作品。演出を担当する桐山は「オリンピックを控えた日本で、本作を上演することがどのようなことを意味するのか、僕もヒリヒリするような思いでいっぱいです」と語った。

続いて、“能”をモチーフにした岡田利規の新作「未練の幽霊と怪物ー『挫波』『敦賀』ー」、鼓童とロベール・ルパージュのコラボレーション作品「NOVA」、白井演出の「音楽劇 銀河鉄道の夜」の上演が発表された。岡田はビデオメッセージで、能の主人公は幽霊であることが多いと触れた上で、本作では建築家のザハ・ハディドと高速増殖炉「もんじゅ」をめぐる物語になると話した。「銀河鉄道の夜」は、1995年に白井が、かつて活動拠点としていた東京・青山劇場の開館10周年記念事業として上演した記念碑的作品。白井は「当時僕は37歳で、初めてのホール作品でした。初演から25年経ちますが、スタッフは初演と同じメンバーが集まって上演します」と笑顔を見せた。

地点は松原の新作「君の庭」を上演。松原は「君の庭」が法廷劇であると明かし、「『忘れる日本人』では戯曲一般の形式、『山山』では近代劇の形式と、僕は毎回“形”を決めてから戯曲を書くのですが、今回は法廷劇。出て来るのは、日本で一番有名で、世界的にも知られているある“ファミリー”です」と構想を語った。

「人類史」(仮)を発表する谷は、「白井さんから『何か興味のあるものはないか?』と問われて考えついたのが、人類史を貫いた大著『サピエンス全史』でした。これを演劇化したいとご提案した私もどうかしていますが、『面白いんじゃないか』と受け入れてくださったKAATもどうかしていると思います(笑)」と作品選定の経緯を語った。日韓共同制作「外地の三人姉妹(仮)」の演出を担当する多田は「チェーホフの『三人姉妹』を1930年代の朝鮮半島を舞台に置き換え、翻案します。三人姉妹を日本人、ナターシャを朝鮮人として描くのですが、『モスクワへ!』と言われるのと、『東京へ!』と言われるのでは、感じ方がまったく違うのが面白いところ。チェーホフに出会い直すような作品になれば」とコメントした。

杉原邦生は瀬戸山美咲とタッグを組み、ギリシャ悲劇を現代劇に置き換えた新作に挑戦。杉原もビデオメッセージを寄せ、「KAATはいろいろな使い方ができる劇場ですが、今回はホール。どう使わせていただくかも含め、スタッフの皆さんと力を合わせて作っていきたいと思います」と笑顔で語った。「セールスマンの死」を約2年ぶりに再演するのは長塚。上演に向けて長塚は、アーサー・ミラーの戯曲を「構成も素晴らしく、現代性を持ったテーマのある、とてつもない作品」と称賛しつつ、「どんどん時が過ぎ去って、前へ前へと進もうとする時代の中で、『セールスマンの死』からは世界中の家族における“業”が見えてきます。さらに今回の上演では、初演から2年という時間の変化も感じていただけるのは」と話した。

続けて白井は、ベルトルト・ブレヒトの「コーカサスの白墨の輪」を、大スタジオ・中スタジオ・アトリウムのすべてを使って上演するという構想を話し、記者たちを驚かせる。さらに1979年の初演以来たびたび上演を重ね、2017年には野村萬斎の演出で読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞した「子午線の祀り」がホールでも上演されるほか、一柳慧作曲の「オペラ『モモ』全3幕」の演出を自身が手がけることを発表。「一柳慧先生の代表作でもあるこの作品は、1997年の改訂初演以来、約20年ぶりの上演となります。純粋なオペラをKAATで上演することはなかなかないことなので、オペラの手法を少し逸脱した演出にできれば」と意気込みを述べた。このほか、2017年にスタートした白井による音楽&トークイベント「SHIRAI's CAFE」や「国際舞台芸術ミーティング in 横浜2021」の開催、提携公演として「仕立て屋のサーカス -circo de sastre-」、ロロ「『いつ高シリーズ』vol.8」、Qの市原佐都子による「バッコスの信女-ホルスタインの雌」の上演が発表された。

最後に白井は、今年度が自身にとって、芸術監督として最後の年であることに言及し、「劇場が作品を通して“事件”を起こすことも必要だと思っているので、“やっちまった劇場”と判を押してもらえるように(笑)、2020年も前のめりな表現の場として、任期を締めくくることができれば」と思いを語る。さらに「2021年からは、長塚さんにこの劇場をドライブしていただければ」と次期芸術監督予定者である長塚に微笑みを向けると、長塚は「僕が今2021年に向けて考えているのは、劇場前を通り行く人たちが、ついつい入ってしまうような場所にできないか、ということ。こういった議論は後回しになってしまいがちですが、KAATはそんな思いを実現させようとする熱のある劇場。2021年を見つめつつ、2020年度を引き続きサポートすることができれば」と思いを語った。

※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

2020年度(2020年4月~2021年3月)主催公演、主なラインナップ

「アーリントン(ラブ・ストーリー)」

2020年4月11日(土)~5月3日(日・祝)
大スタジオ

作:エンダ・ウォルシュ
翻訳:小宮山智津子
演出:白井晃
出演:南沢奈央、平埜生成、入手杏奈

※2020年4月8日追記:本公演は新型コロナウイルスの影響で中止になりました。

「アーリントン」連動企画「メトロポリス伴奏付上映会 ver.2020」

2020年4月18日(土)・19日(日)
中スタジオ

作・編曲・演奏:阿部海太郎、生駒祐子、清水恒輔

※2020年4月8日追記:本公演は新型コロナウイルスの影響で中止になりました。

「アーリントン」連動企画 リーディング公演「ポルノグラフィ」

2020年4月25日(土)~29日(水・祝)
中スタジオ

作:サイモン・スティーヴンス
翻訳:小田島創志
演出:桐山知也
出演(五十音順):上田桃子、小川ゲン、小久保寿人、那須凜、平原慎太郎、堀部圭亮 ほか

※2020年4月8日追記:本公演は新型コロナウイルスの影響で中止になりました。

KAAT EXHIBITION 2020「冨安由真展|漂泊する幻影」

2020年6月1日(月)~7月5日(日)
中スタジオ

※2020年4月15日追記:本公演は新型コロナウイルスの影響で延期になりました。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「未練の幽霊と怪物ー『挫波』『敦賀』ー」

2020年6月3日(水)~24日(水)
大スタジオ

作・演出:岡田利規
音楽監督・演奏:内橋和久
出演:森山未來、片桐はいり、栗原類、石橋静河、太田信吾 / 七尾旅人(謡手)

※2020年4月15日追記:本公演は新型コロナウイルスの影響で中止になりました。

KAAT キッズ・プログラム 2020「二分間の冒険」

2020年7月
大スタジオ

原作:岡田淳 
上演台本・演出:山本卓卓
アニメーション:ひらのりょう
音楽:加藤訓子
出演:百瀬朔、佐野瑞稀、下川恭平、亀上空花、小林那優、埜本幸良、青山勝、犬山イヌコ(声の出演)

KAATキッズ・プログラム 2020「さいごの1つ前」

2020年8月
大スタジオ 

作・演出:松井周
出演:白石加代子、久保井研、薬丸翔、湯川ひな

鼓童×ロベール・ルパージュ「NOVA」

2020年9月3日(木)~6日(日)
ホール

演出:ロベール・ルパージュ
出演:太鼓芸能集団 鼓童

※2020年4月3日追記:本公演は新型コロナウイルスの影響で中止になりました。

「音楽劇 銀河鉄道の夜」

2020年9~10月
ホール

原作:宮沢賢治
脚本:能祖將夫 
演出:白井晃

「君の庭」

2020年10月
大スタジオ

作:松原俊太郎 
演出:三浦基

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース 谷賢一新作「人類史(仮)」

2020年10月
ホール

台本・演出:谷賢一
音楽:志磨遼平
振付:エラ・ホチルド

KAAT DANCE SERIES 2020「星の王子さま-サン=テグジュペリからの手紙―」

2020年11月
ホール

原作・アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
振付・演出・出演:森山開次
美術:日比野克彦 
衣裳:ひびのこづえ
音楽:阿部海太郎
出演:アオイヤマダ、小尻健太、坂本美雨、酒井はな、島地保武、大宮大奨、宮河愛一郎、水島晃太郎、池田美佳、碓井菜央、梶田留以、引間文佳

※小尻健太の「尻」はかばねに丸が正式表記。

KAAT DANCE SERIES 2020 小野寺修二新作

2020年11月
大スタジオ

演出・振付:小野寺修二

日韓共同製作「外地の三人姉妹(仮)」

2020年12月
大スタジオ

原作:アントン・チェーホフ
翻案・脚本:ソン・ギウン
翻訳:石川樹里 
演出:多田淳之介

杉原邦生 新作

2020年12月
ホール

台本:瀬戸山美咲 
演出:杉原邦生

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「セールスマンの死」

2021年1月
ホール

作:アーサー・ミラー 
演出:長塚圭史
出演:風間杜夫、片平なぎさ、山内圭哉、菅原永二、加藤啓、智順、大谷亮介、村田雄浩 ほか

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「コーカサスの白墨の輪」

2021年1月
大スタジオ・中スタジオ・アトリウム

作:ベルドルト・ブレヒト 
演出:白井晃

「子午線の祀り」

2021年2月
ホール

作:木下順次
演出:野村萬斎

一柳慧×白井晃神奈川芸術文化財団芸術監督プロジェクト「オペラ『モモ』全3幕」

2021年3月9日(火)~14日(日)
ホール

原作:ミヒャエル・エンデ
作曲:一柳慧
演出:白井晃
指揮:板倉康明  

芸術監督トーク「SHIRAI's CAFE」

年3回
アトリウム

国際舞台芸術ミーティング in 横浜2021(予定)

2021年2月6日(土)~14日(日)
KAAT神奈川芸術劇場 ほか

2020年度 提携公演ラインナップ

「仕立て屋のサーカス -circo de sastre-」

2020年5月
大スタジオ

ロロ「いつ高シリーズ Vol.8」

2020年9月
大スタジオ

脚本・演出:三浦直之

「バッコスの信女-ホルスタインの雌」

2020年9月
大スタジオ

作・演出:市原佐都子

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む