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大高宏雄 映画なぜなぜ産業学

映画興収が過去最高確実の2019年映画業界を総括するー映画人口も1970年代初頭の1億9千万人台回復か

毎月29日掲載

第17回

19/12/29(日)

興行収入1位は『天気の子』

映画界の2019年の映画興収が、過去最高となる。もはや、そう断言して間違いない。これまでの最高であった2016年(2355億円)を超えて、2600億円近くが視野に入る。昨年との対比では、およそ17~18%増が見込まれよう。素晴らしいことである。前年対比で、ここまで売上を伸ばす他の業界、業種が今、この日本にどれほどあるのだろうか。思いつかない。消費税が上がり、どこも決して甘くない経営環境のなか、なぜ映画業界はここまでの業績を出すことができたのか。

映画は、作品ありきである。映画業界が作品ありきで動くと言ってしまってもいい。観る側にとっても、送り出す側にとっても、それは共通している、その伝でいえば、今年は作品が揃ったということになる。もちろん、毎年それなりの作品が登場し、ヒット作も相応に出てくる。今年は、その作品の多彩さが例年以上であったと判断していい。多彩さを作ったのがディズニー作品である。

外国映画1位は『アラジン』
(C)2018 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

ディズニーは今、かつて以上に特別な配給会社になった。米国のメジャー・スタジオのなかで、もっとも有力な製作会社をかかえることが大きい。ディズニー本体は当然として、ピクサー、マーベル、ルーカスフィルムである。今年はフォックスも傘下に入ったが、まずもってさきの4社がそれぞれに強力な作品を擁し(今年の年末作品含めて)、それらがディズニーという会社を旗印に、次から次へと公開されていった。その威力は、こんなデータから浮き彫りになる。邦画と洋画を合わせた今年の作品で(2018年11月末から2019年11月中旬までが対象)、興収上位10本中、何と4本をディズニー作品が占めたのである。

2位『アラジン』(121億6千万円)、3位『トイ・ストーリー4』(100億8千万円)、5位『ライオン・キング』(66億6千万円)、7位『アベンジャーズ/エンドゲーム』(61億2千万円)といった具合だ。全体1位の『天気の子』(推定141億円)に次いで、2本の100億円超え作品を送り出した。1~12月の累計興収では、580億円を上回ってくるだろう。これは、これまでの同社の記録である396億円(2014年)を大きく超え、年間の新記録となる。一つの配給会社が、年間で500億円を突破できたのは、過去には東宝のみである。ついに今年、ディズニーは国内最高クラスの配給会社の地位を、名実ともに確立したと言っていい。

さきに挙げた作品のなかで、とくに重要なのが2位と5位だ。ディズニーの名作アニメーションが実写化、及びCG化された点が特筆される。今年、同社の名作路線は他にもあったが、この2本がもっとも成功した。名作路線の強みは、タイトルそのものにある。タイトルを多くの人が知っており、観たい意欲をかきたてる。『アラジン』は、『美女と野獣』(17年、124億円)の大ヒットを踏まえている。2本とも、以前にオリジナルの名作アニメがあり、その大ヒットの土台の上に実写化という経緯をもつ。かつて、ディズニー作品の強さを証明したアニメ2本であり、長い年月が経っても、その浸透力、影響力は他の名作路線の比ではなかった。

『ライオン・キング』も同様だ。アニメ(1994年)は期待どおりの成績には至らなかったが、現時点での知名度の高さは『アラジン』以上とも言え、CG技術による動物たちの生き生きとしたビジュアルが受け入れられた。『アラジン』も含め、映像の技術力の進化が、今年のディズニーの快進撃を決定づけたとも言える。派手な見せ場、人物や動物の造型など、ハリウッドのCG技術は、ここ20年以上の時を経て、完璧に近い映像的な達成感を確立してきた。その高度な技術力が、ディズニー作品のグレードを確実に上げ、それが作品の醍醐味、感動的な要素となり、多くの観客を魅了したのだと考える。

実写映画1位は『キングダム』
(C)原泰久/集英社 (C)2019「キングダム」製作委員会

ディズニーの上をいくのが東宝だ。年間で、歴代2位の750億円を越える見込みだというから驚く。作品を見れば、邦洋トータル1位の『天気の子』、4位の『名探偵コナン 紺青の拳(こんじょうのフィスト)』(93億7千万円)、11位の『映画ドラえもん のび太の月面探査記』(50億1千万円)といったアニメがやはり強かった。なかで注目すべきは、ソニー・ピクチャーズとの共同配給となった『キングダム』だろう、全体8位、実写作品としては邦画トップの57億3千万円を記録した。ここ1、2年、人気コミック原作の実写版大型アクション大作が低迷を続けていたので不安感もあった作品だが、それを見事に覆したのは、気持ちを高ぶらせる若者の成長譚、切れ味のいいアクション描写、歴史ものの荘重な話の展開、俳優たちの力演など、中身の成果によるところが大きかったと思う。ただ、東宝とて、すべてが成功しているわけではない。実写作品、アニメともに10億円を下回った作品も何本かあり、歴代2位の成績にして、反省点は尽きないだろうと推測する。

東宝の独壇場は変わりないとして、邦画大手では、松竹、東映ともに順調な成績を上げたことも見逃せない。松竹は11月末時点で、すでに歴代3位の163億円の興収になっており、東映は年間170億円近くが見込まれ、歴代3位以上が確実である。松竹は、10億円台の作品が5本と手堅く、東映はトータル9位の『劇場版 ONE PIECE STAMPEDE』(55億5千万円)などの大ヒットが全体の成績を押し上げた。松竹、東映の踏ん張りは、しっかりと評価したい。まだまだ、東宝との差は大きいが、それぞれが、東宝とはまた違ったヒットの形を徐々に作ってきており、それは今後の期待へとつながる。ディズニー、東宝ときて、松竹、東映がその土俵に重く乗ってくると、映画界はまた新たな領域に入ることができる。

映画人口は、1億9千万人台が見えてきた。これは何と、1971年から72年あたりの映画観客数に匹敵する。全く驚きであり、大変なことであるが、ただ映画界はそれ以降、73年1億8532万人、75年1億7402万人と、映画人口を落としていき、さらにさらに惨憺たる興行の歴史を刻んでいくのである。ここに至り、1億9千万人が見えたのは凄いことではあるが、これを一過性にしないために、映画業界がやるべきことは多いだろう。繰り返せば、映画は、映画業界は作品ありきである。作品の質を落とさないために、あらゆる努力を惜しむべきではない。洋画の多彩さに少し陰りが出れば、邦画のさらなる出番だ。洋画は他力本願だが、邦画は知恵と覚悟があれば、わが業界で何でもできる。作品ありきの原点は、いつの時代も変わりないと信じたい。


プロフィール

大高 宏雄(おおたか・ひろお)

1954年、静岡県浜松市生まれ。映画ジャーナリスト。映画の業界通信、文化通信社特別編集委員。1992年から独立系作品を中心とした日本映画を対象にした日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を主宰。キネマ旬報、毎日新聞、日刊ゲンダイなどで連載記事を執筆中。著書に『昭和の女優 官能・エロ映画の時代』(鹿砦社)、『仁義なき映画列伝』(鹿砦社)など。

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