Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

糸井重里が語る、木村拓哉の魅力と『Go with the Flow』 「木村くんは人が集まる“場”が作れる」

リアルサウンド

20/1/8(水) 12:00

 木村拓哉が、1月8日にアルバム『Go With the Flow』をリリースした。木村のアーティスト活動始動となる今作は、自身のラジオ番組『木村拓哉 Flow』(TOKYO FMほかJFN系全国38局ネット)でのアーティストとの交流がきっかけとなり制作。同ラジオ最初のアーティストゲストとなった稲葉浩志をはじめ、川上洋平([ALEXANDROS])、LOVE PSYCHEDELICO、森山直太朗といった番組に登場したアーティストからの提供曲、それ以外にも槇原敬之、水野良樹(いきものがかり、HIROBA)、Uru、小山田圭吾(コーネリアス)らが参加、ラストには親交のあった忌野清志郎から生前に贈られた楽曲「弱い僕だから」が収録されている。

 そのリリースに際し、今回リアルサウンドでは、木村拓哉と20年来の交流のある糸井重里にインタビュー。木村拓哉との出会いから交友のエピソード、『Go With the Flow』について語ってもらった。本作からも感じるという木村拓哉ならではの親しみやすさや距離感、アーティスト活動で期待することなど、糸井重里が考える木村拓哉の魅力について話を聞くことができた。(編集部)

・今も昔も、彼のほうが僕より数段も大人

ーー糸井さんは、昨年(2019年)7月、木村さんのレギュラーラジオ番組『木村拓哉 Flow』にマンスリーゲスト(7月7日、14日、21日、28日放送回)として出演されていました。その際にも話題に上がりましたが、あらためて木村さんとの出会いについてお話しいただけますか?

糸井重里(以下、糸井):当時、「いつか会えるといいな」と思っていたんです。と、いうのも、娘に、「もし会えたらサインをもらってあげる」と約束をしてしまっていたんです。

――番組で糸井さんは、多感な年頃だった娘さんに、「パパは君の応援団なんだよ」という気持ちを伝えたかったんだとお話しされていましたね。

糸井:そう。それで、一応やれるだけのことはやろうと、早朝にやっていた『ウゴウゴルーガ』いう生放送に出演した際、「このテレビを見ている人で、木村くんと親しい人いませんか?」と呼びかけてみたんです(笑)。そうしたら、たまたまその晩、『平成教育委員会』という番組に出たら、木村くんがいてね。収録中に話してみると、とてもいい感じの青年だった。そこでもらったサインを囮にして、スキー合宿で熱を出してしまった娘を迎えに行って「もう家に帰ろうね」と説得しました(笑)。

――その出会いから交流が始まったのですか?

糸井:たしか初対面の時に連絡先を交換して、その後、彼が僕の事務所に遊びに来るようになったんです。言うまでもなく彼は当時も、ものすごく忙しかったんだけど、夜、よくぶらっと顔を出してくれて。そこから、二人でいろいろなところへ釣りに行くようになりました。彼は子どもの頃から釣りをしていたようで、僕は「いつか始めたい」と思っていたので、良いタイミングの出会いでした。

――糸井さんは40代後半、木村さんは20代中盤でした。当時の木村さんへの印象は?

糸井:彼、とても行動的じゃないですか。おまけに当時からしっかりしていたし、ちゃんと人の世話を焼いてくれた。年下なのに、いつも引っ張ってくれるような頼もしさがありましたね。僕は当時、ちょっとあらゆることが面倒くさくなり始めていた頃だったんですが、彼を見ていて、「ああ、引きこもっちゃいけないな」と教えられた思いでした。

――その後、ややブランクがあって、番組出演時が約20年ぶりに交わされた長い会話だったそうですが、久々にお話しした木村さんの印象は?

糸井:話し始めてすぐ、スッと昔の距離に戻れました。「あの頃の俺じゃねえし」みたいな顔を全くしない。そこが彼の偉いところですね。僕は全く進歩していないですが(笑)、気の配り方も、昔よりさらに細かくなっていた気がします。今も昔も、彼のほうが僕より数段も大人なんですよ。

――さて、『Go with the Flow』、いかがでしたか?

糸井:大成功なんじゃないかな。僕は、そもそも“ソロアーティスト・木村拓哉”というのは、ものすごいハンディキャップを背負った歌手だと思っていたんです。

――ハンディキャップ、ですか?

糸井:彼はとても器用で、ラジオ、テレビドラマ、バラエティ、映画と、その気になれば何処ででも活躍できてしまう。言わば全方位型のアスリートです。でもね、それは木村拓哉の長所であり、不幸でもあると思うんです。例えばオリンピックだと、100メートルを10秒切って走る人は有名だけど、近代五種のエキスパートって、あまり知られていませんよね。どの競技でもトータルでハイレベルな成績を叩き出せる人は、どこか冷静な目で見られがちじゃないですか。

――確かにそうかもしれませんね。

糸井:彼は音楽でもどんなタイプの歌だって歌えてしまう。そんな全方位型のアスリートがいよいよ待望の独り立ちを果たすわけです。プレッシャーが大き過ぎて、もし歌う歌に迷っているようなことがあったら可哀想だなあと、アルバムを聴く前、ちょっと心配していたんですよ。普通は気張りたいし、気張りたくなっちゃうものじゃないですか。

――でも、そんな心配は杞憂だった?

糸井:そう。きっと全方位型のアスリートだからこそ、いわゆる“私家版”といった、プライベートな匂いのするアルバムを作りたかったのかなって。「聴いてください」と言うよりも、彼が自分のスタジオで開いたパーティーか何かにみんなが招かれていて、「こんなの歌ってみたんだけど、どう?」と歌っている感じがしました。「ここ、ちょっと狭いけどさ、歌を気に入ってくれたらうれしいし、もしそうじゃなかったら、お酒でも飲んでくつろいでいってよ」、「とりあえずお気に入りの歌を歌ってみるから、後で気に入った歌を教えてよ」という感じじゃないですか。彼からの“お裾分け”をみんなで共有しているような、親しみやすい距離感ですよね。いい正解だったと思います。このアルバムの木村くんは全く気張っていない。これは彼が長年かかって磨き上げた人間性の賜物だと思います。

・リスナーとの“近さ”を自在に演出出来る

ーー今回のアルバムは、木村さんのレギュラーラジオ番組『木村拓哉 Flow』を起点に生まれたそうです。楽曲提供の作家陣にも、ラジオ番組にゲスト出演された稲葉浩志さんなど、近年、木村さんと親交があった方々が含まれています。

糸井:まさにラジオ番組が彼のプライベートなスタジオというか、秘密の小屋みたいな役割で機能しているんでしょうね。ジャケットやブックレットのビジュアルにも、それが表れていますよね。1曲目の「Flow」も、彼のスタジオの待合室にいるみたいですし。次の「One and Only」は「ようこそ」という曲ですよね。そしてすぐ、「I wanna say I love you」でアコースティックな曲に移るのはちょっと意外だった。そうかと思うと、次の槇原敬之さんの「UNIQUE」という曲はちょっと中性的で、どことなくSMAPっぽさもある。ハードなロック、ポップなナンバー、アコースティックなナンバーを自由に行き来して、さっきまで目の前のステージで歌っていたかと思うと、今度はすぐ隣で弾き語りをしてくれて。こんなにもリスナーとの“近さ”を自在に演出出来るなんて、やっぱり木村拓哉というソロシンガーはものすごい近代五種のアスリートですよ。

――その他の楽曲については、どんな印象を受けられましたか?

糸井:どの曲もいいと思いました。やっぱり木村くんはどんな曲でも上手く歌いこなせていますね。今は作詞も難しい時代です。しかも、男に歌ってもらう歌を書くのは、特に難しい。いまは昔の沢田研二の頃のようなカッコいい男を書いても、女性からそっぽをむかれそうじゃない?(笑)。僕も矢野顕子の作詞は今でも続けていますが、男が歌う歌は、もう難しくて書けないですね。そういう意味でも、今回の作家の皆さんは、本当に達者だと思います。水野良樹さんの「NEW START」は、彼としては珍しく男らしい曲でしたね。あとは「サンセットベンチ」。このものすごく“近い”距離感なんて、やっぱり木村くんのファンにとってはたまらないんじゃないかな。このアルバムの実質的なラストは、12曲目の「A Piece Of My Life」なんでしょうね。いまの木村くんが抱いている様々な思いが、この曲から読み取れるんじゃないかな。

――13曲目の「弱い僕だから(session)」は、木村さんとも親交があった忌野清志郎さんの曲です。1997年にリリースのSMAPのアルバム『SMAP 011 ス』で、木村さんのソロ曲として収録されていた曲を、新たにレコーディングしたものです。

糸井:このアルバムのなかでもちょっと特殊というか、特別な一曲ですね。そういえば清志郎を木村くんに紹介したのは僕でした。彼が何か落ち込んでいた時、清志郎の「君が僕を知ってる」(RCサクセション)を「聴いてみたら?」と勧めてね。その後、しばらくしてから木村くんと清志郎の交流が始まったんです――ここでまたハンディキャップの話になるんだけれど、ジャニーズの歌い手の声というのは、声がどこか大人になり切らないところにこそ魅力があると僕は思っていて。つまり、何歳になっても、声のどこかに、ちょっとだけ“少年っぽさ”が残っているというか。みんな声のどこかにずっと“ベイビー”を持っているんです。ところがこの“ベイビー”の要素って、今回の木村くんが迎えたような、満を辞して「よし」と動くようなタイミングにおいては、あまり有利に作用しないんです。何故なら、本来、「助けてあげたい」という声と「俺についてこい」という声は相反する種類のものだから。ソロシンガーというのは、群れの大小に関わらず、みんなの“ボス”じゃないと成立し辛いものです。

――なるほど。

糸井:でも、そんな矛盾する二つの要素が声のなかで見事に同居している人がいた。それが忌野清志郎でした。彼は政治的な問題に言及する歌も歌っていたけれど、大きな意味ではずっと“ベイビー”で、言わば“甘える”歌を歌う生涯だった。だから、この「弱い僕だから(session)」も、木村くんの「ついてこいよ」という男らしさと“ベイビー”を見事に繋いでいる。木村くんは器用だから、今回、あえて、ちょっとだけ清志郎っぽい歌い方をしていますよね。それも含めて、この曲がアルバムの裏解説を担っているというか、洋服のジャケットやコートで言うところの“裏地”になっているんだと思います。

――これまでに忌野清志郎さん、沢田研二さん、矢沢永吉さんなど、作詞や著述などを通して様々なソロアーティストの姿を見つめてこられた糸井さんは、“ソロシンガー・木村拓哉”の今後をどう予想しますか?

糸井:ライブでの木村くんの在り方も、きっとアルバムと同様に、ホストでありゲスト(出演者)なのでしょうね。それと、群れの“ボス”になる以上は、おそらく男性のファンも重要になってくる。そのための練習は、これからのライブでしていけばいいと思います。ちょっと上手くいかなくてもいいんですよ。「今に見とけよ」で。彼、負けず嫌いじゃないですか。それこそ芸能界の荒波をここまでくぐり抜けて人気者でいられるなんて、並大抵のことではない。きっと木村くんなら大丈夫だし、もしちょっとダメだったとしても、自分で感じた手応えで上手くアジャストしていくと思います。あとはもっと自分でも歌を書いてみるといいと思うんです。上手く書けなくてもお蔵入りになっても、そこから見えてくることは絶対にあるはずです。ちゃんとした大人だし、今から矢沢永吉や忌野清志郎をお手本にする必要もない。永ちゃんは昔からケンカが強かったような人で、清志郎は、ある意味ずっと“ベイビー”で生きられた人。そんな二人より、「ついてこい」という野生と“ベイビー”の理想的な同居で言えば、むしろ最近のお手本となる存在は羽生結弦選手なのかもしれないね(笑)。 

――最後に、今後の木村さんに期待することは?

糸井:昔、僕は彼に何度か、「一度、二年ぐらい休んでみればいいのに」と話したことがありました。結局、彼は休めなかったけど、かつてそれをやって、一旦、「何でもない誰かになる」ことを実践してみたのが宇多田ヒカルさんでした。でも、今の木村くんは、テレビや映画を通して多くの人々の前に出続けながら、同時にこうしたプライベートな雰囲気のラジオやアルバムという“場”を設けて、みんなを「ようこそ」と招けるようになった。いまの彼が、とてもしっかりとした大人だからこそ実現したプランだと思います。スケールの大小に関わらず、人が集まる“場”が作れるのは、とても素晴らしい能力です。きっとこの『Go with the Flow』から、いろいろなことを始められるんじゃないかな。あとは、いつかどこかの湖のほとりにでも、彼の仲間たちが呼んでもらえるようなプライベートなスタジオを本当に作ってくれたらいいですね。ボートを置いておけば、また近くで一緒に釣りもできるしね。(取材・文=内田正樹)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む