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岡田惠和×有村架純のドラマから目が離せない理由 タッグ6作目『姉ちゃんの恋人』に寄せて

リアルサウンド

20/10/27(火) 6:00

 10月27日、カンテレ・フジテレビ系火曜21時枠で岡田惠和脚本のドラマ『姉ちゃんの恋人』がスタートする。高校3年生の時に両親を事故で亡くした安達桃子(有村架純)は残された3人の弟たちを養うために大学進学を断念し、親戚から紹介されたホームセンターに就職。それから9年間、桃子はホームファッション売り場で働きながら、弟たちの幸せを第一に考えて一家の大黒柱として生きてきた。そんなある日、クリスマス商戦のプロジェクトで知り合った配送部の吉岡真人(林遣都)に恋をしたことから、彼女の日常は大きく変わっていく……。

 物語は岡田が得意とするラブコメとなる模様で、やついちろう、和久井映見、光石研といった岡田ドラマの常連が集結。何より注目なのが、主演を務める有村架純である。有村が岡田作品に出演するのは今作で6作目だが、主演作は2017年の連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK)で演じた1960年代に集団就職で東京にやってくる茨城県出身の谷田部みね子、2019年の『そして、生きる』(WOWOW)で演じた、東日本大震災のボランティアで出会った青年と恋に落ちたことをきっかけに人生が大きく変っていく生田瞳子に続く3本目となる。

 岡田は、『週刊文春』(株式会社文藝春秋)2019年8月8日号に掲載された『そして、生きる』についてインタビューの中で、有村を「同志」と呼んでおり、以下のように語っている。

「彼女も僕もすごく恵まれた環境でスタートしているわけではない、いわば雑草派。直接話はしなくても、瞳子のことを役者以前の1人の女性として理解してくれているはずという信頼感がありますね」(引用:“同志”有村架純と「繊細で心優しい世代」を描く 岡田惠和(脚本家)――クローズアップ

 同インタビューの中で岡田は、『そして、生きる』について「歴史に名を残した人、何かを成し遂げた人の話はたくさんあります。昔から気になるのは、目立たない、クラスの隅にいる人でした。迷ったり、傷ついたり、ときに逃げてしまったり、後悔したりしながら生きていく登場人物たちを、最後まで見届けてもらえたらと思っています」とも語っている。確かに岡田ドラマに登場するのは、クラスの隅にいるような地味で目立たない人々で、言い方を変えるならば、強くも弱くもなく、善人でも悪人でもない、普通の人々である。

 『そして、生きる』の瞳子は、幼少期に両親を亡くした後、理髪店を営む盛岡の祖父に引き取られる。学生時代は地元のアイドルとして活躍し、その後は女優を目指していた。そして震災以降は様々な困難が押し寄せるという波乱万丈の人生を送るのだが、彼女が特別な人だとは、見ていて一度も思わなかった。

 それは、彼女を待ち受ける困難が震災以降、誰もが体験しうることだという、非日常自体が日常化してしまった我々自身の環境の変化とも無関係ではないのだが、それ以上に有村の演技に、独自の説得力があったからだろう。

 『ひよっこ』のみね子もそうだったが、有村は真面目で優等生的な女性の役を演じることが多い。しかし、彼女がそういう女性を演じると、「真面目な優等生として振る舞うこと自体が日常化」しており、そんな自分に苛立っているが、そのことに自分自身は気づいていないという複雑な女性になってしまう。有村が演じる女性の背後には、言葉にならない生きることに対する不安、恐怖、怒りが見え隠れするのだが、それを強く打ち出すことはない。彼女の演技には二重性があり、笑っていても悲しそうに見えるし、怒っていても優しく感じる。その含みが、人間としての奥行きとなっており、そこに説得力を感じるのだ。

 有村がドラマで主演を演じたのは、2016年に坂元裕二脚本の恋愛ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)からで、それ以前は小さな役が多かった。しかし、堤幸彦演出の『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』(TBS系)で演じた正汽雅や、宮藤官九郎脚本の連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK)で演じた天野春子を筆頭に、出番が少なくても印象に残る役を多数演じることで注目されるようになっていった。面白いのは、有村自身の印象は当時も今もあまり変わらないこと。

 例えば、岡田が脚本を務め堤幸彦が演出した2013年の『スターマン・この星の恋』(フジテレビ系)では、田舎町のスーパーで働く女性・臼井祥子を演じた。彼女は年下の彼氏がいるものの、退屈な日常に不満を感じ、いつも苛立っている。そんな祥子が宇宙人の存在を知ったことで少しずつ変っていく姿が本作では描かれていたのだが、その時から有村は、社会に適応しているように見える女性の中にある不安や鬱屈を演じさせるとピカイチだった。それは、シリアスでもコメディでも一貫して現れる彼女の本質のようなもので、それは岡田ドラマにも通じるものだ。

 『姉ちゃんの恋人』も楽しいラブコメの裏側に、二人にしか出せない普通の人の鬱屈や不安が込められているはずだ。だからこそ、二人のドラマから目が離せないのである。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『姉ちゃんの恋人』
カンテレ・フジテレビ系にて、10月27日(火)スタート 毎週火曜21:00〜放送
出演:有村架純、林遣都、奈緒、高橋海人(King & Prince)、やついいちろう、日向亘、阿南敦子、那須雄登(美 少年/ジャニーズJr.)、スミマサノリ、井阪郁巳、南出凌嘉、西川瑞 、和久井映見、光石研、紺野まひる、小池栄子、藤木直人ほか
脚本:岡田惠和
音楽:眞鍋昭大
主題歌:Mr.Children「Brand new planet」(TOY’S FACTORY)
演出:三宅喜重(カンテレ)、本橋圭太、宝来忠昭
プロデュース:岡光寛子(カンテレ)、白石裕菜(ホリプロ)、平部隆明(ホリプロ)
制作協力:ホリプロ
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/anekoi/
公式Twitter:https://twitter.com/anekoi_tue21
公式Instagram: https://www.instagram.com/anekoi.tue21

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