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岸谷五朗「ブロードウェイを“超える”」 ミュージカル『The PROM』に懸けた思い

ぴあ

21/3/6(土) 12:00

岸谷五朗 撮影:渡邊明音

ブロードウェイミュージカル『The PROM』は、2018年にブロードウェイで開幕し、19年のトニー賞7部門にノミネート、20年12月にはメリル・ストリープやニコール・キッドマンらが出演してNetflixにて映像化された話題作だ。 その『The PROM』の日本版初演は、岸谷五朗と寺脇康文率いる演劇ユニット「地球ゴージャス」が手掛け、葵わかな、三吉彩花、大黒摩季、草刈民代、保坂知寿といった豪華な顔ぶれでお届けする。地球ゴージャスにとっても、初めてのブロードウェイ作品。どんな思いでいるのか。日本版脚本・訳詞・演出、そしてバリー・グリックマン役として出演もする岸谷五朗に話を聞いた。

最初に観たときに、挑戦したいと思ったんです

――お稽古は順調ですか。

順調ですよ! でも、なかなか手強い作品です。全体的にコメディタッチで描かれているけれど、内容は芯のある作品で。楽曲は難曲が多く、激しいダンスシーンもあって、いい意味で苦戦しています。

――2019年のトニー賞をご覧になって、『The PROM』をやろうと思われたとのことですが、理由を教えてください。

コロナの前のトニー賞をニューヨークで見ることができたんです。10作品ぐらい観たのですが、劇場を去るときに、お客さんが一番幸せそうな顔をしている作品が、この『The PROM』でした。

なかなかない作品だと思うんです。ハイスクールのレズビアンの女の子たちが、いろいろな葛藤をしながら、必死にプロム(※アメリカの高校で卒業生たちのために開かれるダンスパーティーのこと)を作っていくというお話なのだけど、そのストーリーを運んでいるのが、ブロードウェイスターの大人たちなんだよね。

その構造がすごくおもしろい。普通の学園ものになるかと思いきや、大人たちが自分たちの誇りや名誉のために、無理に割り込んでいく。それでどんどん心が変わっていって、純粋になっていく……。

作品を最初に観たときに、地球ゴージャスに合いそうだなと思って。挑戦したいと思ったんです。

人を受け入れて生きていく、アクセプト(受容)していくということ

――ご自身、バリー・グリックマン役だなと。

あの中では俺がバリーでしょうね。寺脇さんがトレント。そこはぴったりだなと思って。なかなかそういうミュージカルに出会うことが少ないんです。

例えば『キンキーブーツ』のときも、絶対日本でやりたいと思って、日本版の脚本と演出を担当させてもらったけれど、あの作品を地球ゴージャスでやろうと思わないし、別のプロジェクトでやるべきだなと思っていた。でも、この『The PROM』は地球ゴージャスでやりたいと思ったんです。

――地球ゴージャスとしては初めてのブロードウェイミュージカルですが、運命というか、縁のようなものは感じられたわけですね。

そうですね。『Hadestown(ハデスタウン)』や『Ain’t Too Proud(エイント・トゥー・プライド)』といった、良い作品もラインナップされていたんだけど、地球ゴージャスは当てはまらなかったんですよね。

――『The PROM』は、明るいテイストですが、メッセージ性がある作品ですよね。

本当に。自分らしく生きることとはどういうことだろうというテーマがありますよね。そして、同時に考えさせられるのが、人を受け入れて生きていく、アクセプト(受容)していくということ。

世の中がそうだったら本当に素敵だなと思うんだけど、主人公のエマはレズビアンで、自分らしく生きるために、カミングアウトをするんですが、そこには大きな勇気があって。偏見もある田舎町で。でも、それを乗り越えた先に自分らしさを切り開いていく。ブロードウェイの大人たちも、自分たちを見直して、素直になっていく。

――製作発表会見で、「The PROM」を日本で上演することが「ブロードウェイへの恩返し」だと仰っていました。

あのブロードウェイが閉まっていることが、今でも信じられないんですよね。あの演劇の巣窟、演劇の溜まり場が、今動いていないって。ブロードウェイからオフオフからいろいろな作品を見てきたし、レッスンやボイトレもしてきた場所。あのマンハッタンが非常事態宣言下であることがとても寂しいです。早く復活してほしいですね。

――日本で上演することで、ブロードウェイの関係者や観客への励ましにもなるのでしょうか。

本当に。少しでも動き出さないとね。動けば、もちろん権利使用料という形でお金も向こうに入れられる。それは、演劇の活動としてすごく大事なことだなと思うんです。なんとか回していかないとね。

オリジナルにはないタップも披露

――今回はどのようなキャストがそろったとお考えですか?

今回はコロナ禍でオーディションができなかったんですね。だから、アンサンブルや準メインメンバーは、今まで地球ゴージャスに出てくれたメンバーを中心に集まってくれて。本当にみんなエネルギッシュです。一方、ハイレベルな作品なので、これをやっつけるためには、相当稽古をしなくてはならない。今までの作品の中でも、一番の体力勝負かな。

僕が演じるバリー役は、オリジナルではちょっとファットで、それをネタにしている。普通の映画やドラマだったら、僕の性格上体重を増やすと思うんだけどね、とてもじゃないけど、動きが多くて、太ったら演じきれないです。今の自分が太ったら骨折すると思う(笑)。

その代わり、ブロードウェイのバリー・グリックマンより動こうと思っています。寺脇さん演じるトレントも、オリジナルのトレントより全然動いている。そういう意味では、ブロードウェイを「超える」ことも恩返しだと思っています。

ひとつだけね、オリジナルの『The PROM』にはないんですが、実はタップを取り入れました。ちょっと久々に、真剣に踏もうかなと思っています。どのシーンかはお楽しみに。

――ところで、岸谷さんの高校生活についても少し伺いたいです。もしプロムがあったら、行かれていますか?

ああいうプロムがあったら、絶対行くだろうなぁ。日本の学校行事には全く参加しなかったんですけど(笑)、プロムだったらいくかな。いろいろ楽しいことを企めそうだなと思うので。アメリカだと16歳で車に乗れるしね、楽しいでしょう。

――裏を返せば、ご自身の高校生活はそんなに楽しくなかった……?

いやいや、めちゃめちゃ楽しかったですよ。学校も好きだったし、毎日全力で楽しかったな。友達も部活動も外で遊ぶのも好きだった。毎日刺激物と接触している感じ。高校生もう一回やりたいぐらいです。

エンタテインメントの力でみんなを励ましたい

――岸谷さんがトニー賞をご覧になったのは2019年。その当時はコロナ禍になるとは想像もしていなかったと思うのですが、いまこの『The PROM』を上演する意味はどんなところにあると思いますか。

今こそ本当にエンタテインメントが必要だと思っています。つらい時に、ひとりでも心を豊かにするのが、演劇やエンタテインメントの役割だと。地球ゴージャスも、地球の人々の心をゴージャスにするという意味を込めた名前なんですよ。

つらい時、劇場に来てください。その心を僕たちが温めるから。そう言ってきたけれど、劇場に来ないでくださいというのはね、本当に苦しめられるんです。僕らも言えなかったです。「劇場に集まれ! 幸せにするぜ!」って。これは本当につらかった。その先に待っているのは、公演中止にするしかないわけで。前作は、10万人のお客様が待っていてくださったし、全部セッティングもできていたけれど。

だから今こそ、エンタテインメントの力で、みんなを励ましたい。手放しに劇場に来てくれとは言えないのですが、緊急事態宣言で終息に向かってほしいし、僕らも万全の対策をして、安心して観劇できる環境を整えるので、来てください。そうお願いするしかないです。来ていただいたら、やっぱり行って良かったと思ってもらえるものをつくろうと思っています。

――最後に、お客様にメッセージをお願いします!

観に来てくださることは勇気のいることだと思うのですが、エンタテインメントの力というか、明日への勇気や生きることの元気のようなものを絶対渡せると思うので、ぜひ勇気を振り絞って、観に来てください。感染対策ちゃんとしています。ぜひ劇場でお会いしましょう。



取材・文:五月女菜穂 撮影:渡邊明音
ヘアメイク:菅野綾香
スタイリング:中川原寛(CaNN)



公演情報
Daiwa House Special Broadway Musical『The PROM』Produced by 地球ゴージャス
脚本:ボブ・マーティン、チャド・ベゲリン
音楽:マシュー・スクラー
作詞:チャド・ベゲリン
日本版脚本・訳詞・演出:岸谷五朗
出演:葵わかな 三吉彩花/大黒摩季・草刈民代・保坂知寿/霧矢大夢/佐賀龍彦(LE VELVETS) / TAKE(Skoop On Somebody) /岸谷五朗 / 寺脇康文 他

【東京公演】
2021年3月10日(水)~2021年4月13日(火)
会場:TBS赤坂ACTシアター

【大阪公演】
2021年5月9日(日)~2021年5月16日(日)
会場:フェスティバルホール

チケット情報:https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2068977

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