立川直樹のエンタテインメント探偵
若手芸人たちのアドリブ力の凄さを体感した『活弁でGO!』、音楽と光の融合で神戸の夜を彩る『TIME TRIP COSMOS with PINK FLOYD』など
毎月連載
第22回
『TIME TRIP COSMOS with PINK FLOYD』の演出・構成を手がけた立川直樹さん
3月22日にセルリアンタワー東急ホテルの“金田中 草”で催されたイベント『An evening of GEISHA』はとても魅力的なイベントに仕上がった。赤坂芸者の見事な踊りに、何とピンク・フロイドやデヴィド・ボウイが好きだという地方さんの唄と三味線。今年の東京の桜はいつもの年よりずっときれいに咲いた感じがするが、その夜はやってきたお客さんが一足早い夜桜の宴を心ゆくまで楽しんでくれたのである。
そして、その時に思ったのは“生(なま)”の力。その1週間前に1868年の兵庫開港とともに開設された神戸税関の3代目の庁舎で実現されたピンク・フロイドの音楽と光の融合で神戸の夜を彩ろうというイベント『TIME TRIP COSMOS with PINK FLOYD』もその場に居ないとわからないマジカルなものを求めて予想の4倍に近い1500人を超える人々がやってきてくれたが、3月29日に大阪のポストよしもとで行われた『活弁でGO!~笑いと言葉で魅せるサイレントコンビ芸/笑いで蘇る京都ニュース~』も絶対にその場で観なければおもしろさがわからないイベントだった。
1部はタイミングよく4月19日に晩年のイギリス・ツアーをベースに描かれたヒューマンな伝記映画『僕たちのラストステージ』が公開される伝説のコメディアン、ローレル&ハーディの1929年製作のサイレント映画『リバティ』を、日本のみならず欧米などでも公演を行っている活動弁士、片岡一郎さんと弁士初挑戦のおいでやす小田さんによるサイレントコンビ芸。2部は1950年代から70年代初頭まで京都市が作っていた市民ニュース“京都ニュース”によしもと芸人が活動弁士としてチャレンジするというもの。元々は昨年秋の京都国際映画祭の時アイデアがひらめき、開催したところ、評判がよく、シリーズとして続けていくことになったものだが、若手芸人たちのアドリブ力の凄さは、テレビで垣間みるものとは全く別物で本物の毒気とスピード感があり、ジャズやロックのアドリブ・バトルに通じるものがあった。
その前日には久しぶりに松山にある伊丹十三記念館に行き、ノスタルジックな気分に浸りながら、クリエイティブな時代に思いをはせたが、4月1日に発表された“令和”はどんな時代になるのだろうか。
ただ、少しずつリアルなものを人々が求め始めているような感じもする。ピエール瀧の逮捕の時とショーケンの死を報じるメディア関係者のもつコメディに近いコメントのいい加減さ。さすがこの忙しさだと試写室や映画館に行く時間もままならず、東映がノーカットで公開を決めた『麻雀放浪記2020』はまだ観ていないが、相当おもしろそうな映画になっていると思う。
あと、こんなふうに忙しい時は車で移動中に聴く音楽に喜びと発見がある。4月3日に韮崎までアドバイザーとして仕事をしている“ポップ・サーカス”の公演をチェックに往復した際に聴いたバーブラ・ストライサンドの『デュエッツ』、ロッド・スチュワートの90年だの名曲集、ボブ・マーリィ&ザ・ウェイラーズのベスト・アルバム、ウィリー・ネルソンの名盤『ウィズアウト・ア・ソング』(邦題は『枯葉』。この名曲のカバーが収録されているからつけられたのだろうが、他にも『ハーバー・ライト』や『時のたつまま』『ゴールデン・イヤリング』……といった素晴しい名曲名演が収録されている季節に関係ないアルバムなので、これはないよという感じ)。甲府城の満開の桜や富士山、中央高速から見える山の所々をピンクに染めている山桜……これはもう映画以上に映画的で、過去と現在と未来が重なりあい、記憶とヴィジョンが交錯する。4月も全力で飛ばさなければならない。
作品紹介
赤坂芸者と遊ぶ 夜桜の宴『An evening of GEISHA』
日程:2019年3月22日
会場:金田中 草(セルリアンタワー東急ホテル)
『TIME TRIP COSMOS with PINK FLOYD』
日程:2019年3月16日
会場:神戸税関 中庭(兵庫県)
『活弁でGO!~笑いと言葉で魅せるサイレントコンビ芸/笑いで蘇る京都ニュース~』
日程:2019年3月29日
会場:ポストよしもと(大阪府)
企画:立川直樹/片岡一郎
演奏:天宮遥(ピアノ)/鳥飼りょう(パーカッション)
出演:学天即(MC)/おいでやす小田/吉田たち/金属バット/堀川絵美
『麻雀放浪記2020』(2019・日本)
2019年4月5日公開
配給:東映
監督:白石和彌
出演:斎藤工/もも/ベッキー/的場浩司/岡崎体育
プロフィール
立川直樹(たちかわ・なおき)
1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。