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ライブハウスができるまで 第3回 イニシャルコストは5000万円以上

ナタリー

20/3/27(金) 18:00

4月9日に東京・下北沢にオープンするライブハウス / クラブ・LIVE HAUS(参照:下北沢に新たなライブハウス「LIVE HAUS」4月オープン)のオーナーの1人であるスガナミユウに話を聞きながら、ライブハウスが完成するまでを追うこの連載。第3回はライブハウスを作るために必要な資金や、その資金繰りなどについて聞いていく。

イニシャルコストは居酒屋の10倍

独立を決めてから、起業や物件を探しと並行して資金繰りにも奔走していたスガナミたち。彼らが集めようとしている金額は、なんと5300万円におよぶ。

「内訳としては、物件契約費に1400万円、防音や内装を含めた工事費に2500万円、音響と照明機材費に1200万円、厨房機器費に100万円。そして感染症対策の設備導入でさらに100万円。大きな音を出せる環境を作るのにはどうしてもお金がかかってしまうし、音響機器にもこだわりたいと思い、当初開業資金は5000万円を想定していました。しかし工事の追加費用や感染症対策の設備導入もあり、結局5300万円まで膨れ上がってしまって……。例えば飲食店などは、居抜き物件を利用することで開業資金を500万円ほどに抑えることができるそうです。LIVE HAUSはその10倍以上かかることを考えると、ライブハウスやクラブを作るにはお金がかかるのだと改めて実感しましたね。ライブハウスによっては防音していないお店もありますけど、それは立地や周辺環境、近隣住民と丁寧な付き合いができている所に限ります。ライブハウスやクラブを運営するにあたって近隣とのトラブルはシビアな問題ですし、代田橋の物件の契約が破談になった(参照:一部住民の反対によりプロジェクトは頓挫、そして再び下北沢へ)のも、僕らの業種が近隣住民の方々にネガティブに捉えられてしまったことが大きい。今の物件は商業ビルの中にあるのでそういった心配は少ないけど、それでも自分たちができることは最大限やって、ほかのテナントさんや近隣住民との信頼関係を築いていきたいんです。それに、出演者の皆さんには安心してパフォーマンスをしてもらいたい。もしライブ中に苦情が入って音を止めるなんてことになったら、シラけちゃいますから」

新型コロナウイルスの影響?

スガナミたちは当初の目標である5000万円という途方もない金額を集めるべく、自己資金と融資で4000万円、クラウドファンディングで1000万円という計画を立てていた(参照:雇われ店長からオーナーへ)。融資の依頼先は銀行と個人。会社の立ち上げメンバー総出で営業活動を行った。

「LIVE HAUSのオープンのために、まずは会社の立ち上げメンバーみんなで自己資金を用意しました。ただそれだけでは全然足りず、仕事仲間や先輩、友人などに個人融資の相談をして回ったんです。これまで関係性を築いてきた人たちにそういうお願いをすることに対してはもちろん葛藤もありました。何十万、何百万のお金を貸すって当然リスキーなことで、お金の貸し借りで関係性が変わってしまう可能性もありますから。でも実際に動き出してみると、ありがたいことに「出すよ」と気持ちよく言ってくださる人がいて。この人たちを絶対に裏切らないようにがんばろうと思いましたね。具体的な金額は言えませんが、結果的に自己資金を除いた目標金額の半分ほどは個人の方々からの融資によるものとなりました。店の運営が軌道に乗ったら、同じように困っている人をサポートしたいと考えています」

地道な営業活動が功を奏して、銀行からの借り入れが実現すれば、クラウドファンディング分の1000万円を除いた目標額の約4000万円が集まる目処が立った。それは昨年の秋頃のこと。しかし新型コロナウイルスの感染拡大が報道され始めた2月頃を起点に、雲行きが怪しくなっていく。

「銀行で話を聞いてくれた担当者が音楽好きの方で、僕らの業種にも理解を示してくれていました。ただ実際に借り入れを申し込むとなると、物件を契約してからじゃないとできないんです。それに日本政策金融公庫と信用金庫、どちらにお願いするかのジャッジに時間がかかってしまって、今ようやく最終的な融資額が決まるのを待っている状態です。当初は希望額の3分の2は貸してもらえると想定してプランを組んでいたのですが、先ほどお話しした通り実際に工事が始まってみると追加で費用がかかってしまって、満額借りられないと厳しいです。加えて1つ気がかりなことがあって。LIVE HAUSでは設備の一部を購入するのではなく、リースすることで初期費用を抑える計画でした。機材のリースってローンみたいなもので、審査もあるし連帯保証人も必要。つまり社会的信用が大切なんです。でも少し前に、大阪のライブハウスで新型コロナウイルスの感染者が出たという報道がありましたよね。あの報道の翌日にリースの計画がダメになってしまったんです。考えすぎかもしれませんが、新型コロナウイルスの影響によってライブハウス自体にネガティブなイメージが付いてしまったのかもしれない。これが融資元の判断に影響しなければいいのですが……」

クラウドファンディングの手応え

スガナミたちがCAMPFIREでのクラウドファンディングのプロジェクトをスタートさせているのは、本連載でも触れてきた通り。この企画では、イニシャルコスト全体の5分の1にあたる1000万円の支援を求めている。リターンとして用意されているのは、店で使用できるドリンクバッジや店のロゴがあしらわれたTシャツ、年間パス、ホールレンタルパスなど。2月下旬にスタートしたこのプロジェクトには3月27日の現時点で447人の支援者が賛同しており、支援総額は700万に届こうとしている。

「CAMPFIREのページを作る際、どういった見せ方にすべきか悩みました。結果として新型コロナウイルスの問題もあるのでお祭り感は出さず、店のステイトメントとして掲げているような、“独立してやりたいことの根幹”を表現するべきじゃないかと考えました。目標金額はCAMPFIREの担当者と相談して決めたのですが、一般的にお店を作る際は高くても500万円くらいなんだそうです。ただ僕らの場合、満足のいく設備をそろえるためにはどうしても1000万円が必要でした。そこで妥協しないことが、最終的にはお客さんや出演者の満足度につながると信じています。やっぱり、支援してくださる人が増える度に身が引き締まりますね。数千円だって大切なお金ですし、新型コロナウイルスの影響で皆さんの生活も大変なことになっていると思うんです。その状況で僕らに期待を込めて支援してくださっているわけですから、しっかりといいお店を作りたいと思ってます」

返済プラン

ここまでの通り、スガナミたちはオープン直前の現在も資金繰りを続けている。途方もない金額ゆえに集めるだけでも驚かされるが、これらのお金は当然“借金”。返済プランも気がかりだ。

「5年ですべてを返済できるようプランニングしていて、毎月の返済額はだいたい85万円です。個人で融資してくださった人たちには金利を上げてお返しするのですが、その分もこの返済額に含まれています。滞りなく返済してくためにも毎月の店の売り上げは最低475万円は確保したいと思っていて、最終的には550万円まで伸ばせられたらなと。ランニングコストを計算してみたんですけど、家賃、人件費、光熱費、機材のメンテナス費、ドリンク類の仕入れ費用なんかを合わせるとだいたい390万円はかかる。これに返済分の85万を合わせると総額475万円になるんです。それに店をオープンして半年後にはアルバイトを含めた従業員たちの有給休暇の付与が始まりますし、新規開業に伴う消費税免除の期間があと1年半ほどで終了するんです。つまり、それまでにしっかりと稼いでおかないと店は傾いてしまう。だから無事にオープンできても、借金を完済するまでの5年間は気が休まらないですね。LIVE HAUS設立は、僕たちがこれまで出会ってきたすべての人たちから力をお借りしているプロジェクトだと思っていて。加えてクラウドファンディングでもたくさんの人たちに支援していただいているので、その期待と責任を感じながら店を盛り上げていきたいです」

写真で追うLIVE HAUSができるまで 2020年3月18日

スガナミユウ

自身のバンドGORO GOLOでボーカリストを務める傍ら、レコードディレクターやイベントの企画などを行い2014年より東京のライブハウス下北沢THREEに在籍。2016年に店長に就任すると、チケットノルマ制の廃止、入場無料イベントの定期開催など独自運営方針で店を切り盛りしていく。2019年12月末にTHREEを退職。現在は自身が発起人の1人であるライブハウス / クラブ・LIVE HAUSのオープンに向けて準備に勤しんでいる。

取材・文 / 下原研二 撮影 / 斎藤大嗣

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