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『鋼の錬金術師』ウィンリィの自立したヒロイン像 泣き虫だけど強い理由とは?

リアルサウンド

21/1/3(日) 8:00

 2001年から約10年にわたって「月刊少年ガンガン」で連載された荒川弘『鋼の錬金術師』。アニメ化だけではなく、実写映画、ゲーム、ドラマCDとさまざまなメディアミックスもなされ、多くのファンを魅了した。

 亡くなった母親を錬成しようとしたものの失敗し、エドワード・エルリックは右腕と左足を、弟のアルフォンス・エルリックは肉体そのものを失ってしまった。母親を錬成できなかったことへの絶望、そして弟・アルの肉体が失われてしまったことに後悔と責任を感じているエドのそばによりそったのが、幼なじみのウィンリィ・ロックベルだ。

悲しみと共に 明るくしっかり者のエルリック兄弟の理解者

 金髪のポニーテールがチャームポイントの少女、ウィンリィ・ロックベル。エドとアルの幼なじみであり、2人の初恋の人でもある。

 祖母のピナコと2人暮らしで、機械鎧整備士としてエドたちを支えている。明るい性格でエドたちが無茶をすればスパナを振りかざし怒るが、基本は心優しく、彼らの幸せを誰よりも願っている。

 彼女も医者だった両親をイシュヴァールの内乱で亡くした過去も抱えており、兄弟の苦しみを少なからず理解していた。無茶はしないでほしい、とエドたちの身を常に案じながらも、故郷でその帰りを待っているウィンリィ。泣き虫なところもあるが、その場でうずくまってしまうようなことはなく、前向きに機械鎧整備士として日々努力を重ねている。

 両親が医者だったこともあり、昔から家にあった医学書を読んでいたので医学的知識も持ち合わせている非常に優秀な女性だ。エドたちにも機械鎧整備士として、そして人間としても信頼されていることがセリフの端々からもよくわかる。エドたちはウィンリィのことを、家族のように大切に思っており、はっきりと口に出さなくても「必ず守る」と心に決めているであろうことは想像に難くない。

エルリック兄弟の価値観に大きな影響をもたらす

 あるとき、エドたちと共に「機械鎧技師の聖地」とも言われるラッシュバレーを訪れたウィンリィ。縁あってある機械鎧技師に会うためにさらに山奥へと向かったが、そこで思わぬ出来事に遭遇する。

 急に産気づいた女性のお産に立ち会うことになったのだ。医者を呼ぼうにも山奥、さらに橋が壊れてしまったことによって街への道を絶たれてしまう。刻一刻と出産の瞬間が迫る中、ウィンリィは自分のこれまでの記憶を頼りに子どもを取り上げることを決意する。

 エドとアルは何もすることができない。

「情けないことに今……心底『怖い』と思ってる…」

 そうこぼすエドにアルも頷く。すでに国家錬金術師としての修羅場をいくつか潜り抜けてきたにも関わらず、だ。

 エドもアルも命の重さを知っている。そして、あまりにも簡単に奪われてしまうことも。その一方で、命が生み出されることは大変なことで、命がけだ。その場に立ち会うことになったのは、エドたちにとってとても大きなことだったのではないだろうか。

 そして、そのきっかけを与えたのがウィンリィだということも。大切なシーンにウィンリィがいることは多いが、「赤ん坊を取り上げる」という決断は彼女らしいもので、彼女でなければエドたちに立ち会う機会もなかっただろう。

自立したヒロイン

 物語の中で、ウィンリィはヒロインという立ち位置だ。しかし、守られなければ生きていけないキャラクターというわけでもなく、エドたちと共に戦うというのとも少し違う。機械鎧をウィンリィが手掛けているということもあり、大きな意味では一緒に戦っているということになるかもしれないが、肩を並べて戦地に赴くというわけでもない。

 ウィンリィはウィンリィで機械鎧技師としてその道を究めようとしている。それはエドのためでもあるかもしれないが、自分の志のためだ。

 自分の両親を殺した仇と出会って、憎しみをぶつけようとすることもあったが、それも自分で断ち切った。

 しっかりと自らの足で人生を歩み、その延長線上にエドたちの人生と交わることになった。エドとウィンリィはやがて結ばれ家族となるが、守り、守られる関係ではない。

 エドのプロポーズは「俺の人生半分やるから、お前の人生半分くれ!」だった。錬金術師というのはプロポーズのときまで……とウィンリィは呆れながらも「半分どころか、全部あげる」と答えている。これは、今までの自分の人生をきちんと自分の意思で選び取ってきたからこそ――大きな力を前に選べない選択肢もあったが――言える言葉なのではないだろうか。

 自立した2人が一緒に人生を歩むことになれば、その結果得られるものはひとりでいるよりも、さらに大きなものとなることだろう。

(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))

■書籍情報
『鋼の錬金術師』(ガンガンコミックス)27巻完結
著者:荒川弘
出版社:スクウェア・エニックス
ガンガンONLINE『鋼の錬金術師』サイト

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