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大人の沼 ~私たちがハマるK-POP~ Vol.6 前編 ワールドワイドな演出家・振付師の仲宗根梨乃と対面(前編)

ナタリー

21/4/9(金) 17:00

左から仲宗根梨乃、土岐麻子。

アーティスト土岐麻子が中心となり、さまざまな角度からK-POPの魅力を掘り下げていくこの連載。6回目となる今回はダンスエンタテイナーとして世界を股にかけて活躍する仲宗根梨乃がゲストとして登場する。ジャネット・ジャクソンやブリトニー・スピアーズの振付師、バックダンサーとしても活動していた仲宗根。前編では、SHINeeのデビュー曲に始まり、少女時代、東方神起、NCT 127など数多くのK-POPアーティストの振り付けやコンサート演出を彼女がいかにして手がけるようになったかを聞いていく。

インタビュー前の写真撮影では、仲宗根がさすがの体幹の強さで次々にキレのあるポーズを披露。土岐も仲宗根のエネルギッシュな指導を受け、必死についていこうとするのだが……。

取材 / 土岐麻子 文 / 岸野恵加 撮影 / 森好弘

マイケルになりたくて迷わず渡米

土岐麻子 (写真撮影を終えて)いやーもう、梨乃さん、さすがのパワフルさと瞬発力ですね……。私、全然ポーズとれなくて、愕然としました。

仲宗根梨乃 あはははは(笑)。かわいかったですよ!

土岐 私はバレエをずっとやってたんですけど、だからなのか、振り付けがないと動けないんですよ。さっき梨乃さんがやってくれたみたいに「もっとこう!」って指導してもらえたらできるんですけど、体育の授業でも「自由に動いてごらん」って言われるとどうしていいかわからなくなっちゃうタイプで。だから自由に表現できる梨乃さんみたいな方は本当にすごく眩しくて、いいなあって。ダンスに関しては素人なので全然知識はないんですけど、梨乃さんの振り付けは独創的な感じがして素敵だなと思っていたので、今回お話したいなと思ったんです。

仲宗根 もう私は全部「ちゃんぷるー」(沖縄の方言で「ごちゃ混ぜ」の意)してるだけ。自分が好きなマイケル・ジャクソンはもちろん、アメリカでダンスを学ぶうちに「これいいな」って思ったものはなんでも取り入れて、自分なりのアレンジを加えてきたんです。だから自分のオリジナルとは思ってないんですよね。周りからお借りして、それをちゃんぷるーしている。

土岐 「ちゃんぷるー」いい表現ですね。ダンスを始めたのは、マイケルがきっかけだったんですか?

仲宗根 そう。もう、マイケルになりたかっただけなんです(笑)。小5で大ファンになって、中2のとき福岡ドームでマイケルのライブを観て人生が変わりました。そのとき「アメリカに絶対行く!」って決めたんです。

土岐 じゃあそれまではダンスを習ったりということもなく?

仲宗根 ダンスアカデミーっていう教室に通ってみたこともあったんですけど、なんか違和感があって……。「なんか違うなこれ。そうか、マイケルじゃないな……」って(笑)。好き嫌いが本当にハッキリしてるんです。だから家でずっと、マイケルやジャネット(・ジャクソン)の真似をしてました。ミュージックビデオを何回も巻き戻してね。

土岐 へえー!

仲宗根 なので基礎もないし、体も硬い(笑)。英語だから何を言ってるかはわからないんだけど、マイケルの曲を1個1個アルファベットを書き出して毎日ひたすら歌って。その過程が自然と英語の勉強にもなってましたね。それで16歳のときに1回短期留学して、19歳で本格的に渡米しました。

土岐 不安とかはなかったですか?

仲宗根 行かないほうが不安だなと思ってた。もう楽しみしかなかったですね。

土岐 すごい(笑)。「やってみたいな」と思っても、細かい不安がどうしてもあって、それに絡めとられて行動を起こせない人もたくさんいますから。

仲宗根 行動力の高さと速さには自信がありますね。ただただSelfishで、周りに迷惑かけてる子供だったと思いますけど(笑)。

土岐 でもその行動力で、アメリカでダンスを学んで、やがて教える側になって、ブリトニー(・スピアーズ)のバックダンサーやジャネットの振付師になったんですもんね。本当にすごいです。

仲宗根 ジャネットのバックダンサーオーディション用の振り付けを担当したんですけど、審査内で私が昔の振り付けを披露する機会があって。私はいつもジャネット役で練習していたので、バックダンサー用の振りではなく、本当はジャネット役で踊りたかったです。ご本人が目の前にいらしてましたけど(笑)。

土岐 (笑)。

仲宗根 ブリトニーの後ろで踊ったときも、やっぱり踊りながらブリトニーになりきって歌っちゃうもんで、演出家の方に「歌うな」って怒られてましたね(笑)。

「もっと自由でいていい」を表現したMVが2人の接点

土岐 そもそも私たちの接点としては、2017年にリリースした私の楽曲「STRIPE」のミュージックビデオに梨乃さんに出演していただいたということがあって。撮影に立ち会いたかったのですが、私が体調を崩してしまい行けなかったんですよね。完成した映像を観たら本当に素晴らしくて。お会いできなかったのが本当に悔しかったので、今日はあのときのお礼も伝えたかったんです。

仲宗根 いえいえ、とんでもない。私こそありがとうございました!

土岐 あの曲ではいろんな女性の輝いている瞬間を1つの映像にしたかったんです。梨乃さんには躍動感がある生き生きとした女性を演じてもらいたいなと思っていたんですが、何気なく歩いてもらったり、ジャンプしてもらったり、本当にイメージにぴったりで。すごくうれしかったんです。

仲宗根 いいコンセプトだなあと思ったし、出させていただいてありがたかったです。日本っていい意味ですごく礼儀正しいカルチャーがあるけど、もっと素直にプライドだったり喜びだったりを表現していいんじゃないかなって普段から感じてて。つい最近も国際女性デー(3月8日)がありましたけど、もっと女性はぶっ飛んでいていいはずなんです。女性に限らず、みんなそうですけど、もっと自由でいていい。そういったことをあのMVの中で表現させてもらえたのはうれしかったです。

土岐 あの頃からどんどん、ジェンダーに関することが私の中でアップデートされていて。あのときは女性というジェンダーを主役にしましたが、今はさらに広げたものを作りたいです。あらゆる人たちの自由なファッション表現や、もっと個人個人の、自分を閉じ込めちゃっている檻からの解放を描きたいな、とか。

仲宗根 That's right. That's right.

土岐 K-POPのグループも最近そういったテーマを曲で表現する人たちが多くて、そういうところからもすごく元気をもらってますね。

仲宗根 エンタメの魅力は自由さ。メッセージ性だったり、人種や年齢、性別を超えて1つになれることですから。

K-POPはいい人材を全世界から探している

土岐 梨乃さんはどういった経緯でK-POPの振り付けを手がけることになったんですか?

仲宗根 私がアメリカでダンスのワークショップをやってる様子を、誰かが勝手にYouTubeに上げていたみたいなんですね。それを観たSMエンタテインメントの方が連絡をくれたのが最初でした。

土岐 勝手に?(笑)

仲宗根 そう、許可なしで(笑)。そこからすべてが動いてSHINeeのデビュー曲の振り付けを担当することになったので、結果的にはよかったんですけどね。10年以上前、YouTubeもまだまだ浸透してない時代ですよ。

土岐 そういうところで振付師さんを発掘しているっていうことがまず驚きですよね。

仲宗根 だからKoreaってすごいんですよ。振付師に限らず、作曲家や、スカウトするアイドルについてもなんですけど、とにかくいい人を探し続けている。経歴、場所、年齢、どれも関係なくて、いいものであればいい。一緒に働ける人を見つけるアンテナが全世界に向いていることをずっと感じてますね。

土岐 最初はK-POPの知識は全然なかったんですよね? それでもオファーを受けて迷わず韓国へ行ったんですか?

仲宗根 「Yeah! 韓国で仕事できる! Lucky!」みたいな軽い感じでした(笑)。全然何も深く考えてない。その頃は振付師としての経験がまだなかったので、ありがたいなという思いしかなかったですね。

土岐 なるほど(笑)。振り付けがどんなプロセスを経てできあがるのかにすごく興味があって、そこを詳しくお聞きしてみたいです。だいたいどのくらいの時間をかけて完成させるものなんですか?

仲宗根 仕事の内容によりますけど、現地に滞在する場合でも基本1週間もいないですね。アーティストに教えるのも、振りのビデオだけ送る場合もあれば、先にビデオを送ってあとから私が直接教えて仕上げるっていうパターンもあったり。

土岐 実際に踊る本人たちと話をしながらじゃないとなかなか振りを教えづらそうだなと思っちゃいますけど、対面できない場合もあるんですね。

仲宗根 そうですね。もちろん直接のほうがスタイルのニュアンスやバイブス、細かい部分を指導することができるのでベストですが、今は向こうのダンスチームの力もあり、ビデオだけでも本人たちは完璧に仕上げてきますね。あと、私と本人たちとの関係性が深まってからは次第に、作りながらこちらから提案することも増えて。事務所の方も本当に真剣なので、常にみんなで話し合いながら作ってます。

土岐 振り付けを考えるときは、曲の歌詞やテーマに寄り添って考えていくんですか?

仲宗根 歌詞がまだないデモ段階で振りを作ることも多いんですよ。だからたまに、私の振り付けを受けて曲の衣装にワンポイント入れるとか、奇跡的に歌詞とマッチングすることとかもありますね。

土岐 おお! なるほど、面白い。その振り付けが映える衣装にする場合もあるということですね。

仲宗根 そういうときもあれば、歌詞まできっちり固まったものをいただくこともあるし、本当にケースバイケースですね。

土岐 私が曲を作るときも、曲が先だったり詞が先だったり、はたまたどちらもふんわりとしたまま影響しあって形になっていくこともあったりだけど、そこにさらにダンスという要素が加わって、すべての要素が刺激し合いながら作品ができていくのはすごく面白いでしょうね。ものすごくクリエイティブな現場。

仲宗根 私も楽しいです。特にSMさんは、すべてに真剣に向き合っていいものを作ろうという姿勢を毎回感じますね。

少女時代で鍛えられた、大人数フォーメーション

土岐 具体的な曲を例に挙げてみると、NCT 127の「Wakey-Wakey」はインベーダーゲームがコンセプトなんですよね。すごく発想がユニークだなと思ったんですが、あれはどこから着想されたんですか?

仲宗根 最初に音源をもらったときに、音がインベーダーゲームみたいに聞こえたんです(笑)。FUKOさんという方と2人で振り付けを作ったんですが、ほかにもアシスタントや韓国にいる先生、メンバーの意見も反映させて完成させました。

土岐 フォーメーションがすごく複雑ですよね。人数が多いグループだと特に大変だと思うんですけど、どうやって組み上げていくんですか?

仲宗根 慣れ? あははは(笑)。もう、少女時代にしごかれましたから。

土岐 はあ……! 少女時代は「Genie」が“美脚ダンス”としてすごく有名になりましたよね。(映像を観ながら)すごく細かい角度までそろってるなあ。

仲宗根 これは実は直接メンバーと会ってなくて。ビデオで振りを渡しましたね。それを韓国の振付師さんが9人用に作って仕上げてくださって。メンバーにはこのあとの「Oh!」っていう曲のときに初めて直接会えて、その後も何曲かやらせていただいて。何曲も作る中でも同じことはやりたくないし、歌割に合わせて9人を動かして……とかを総合的に考えていくともう、パニック! 白髪が100本増えましたよ(笑)。

土岐 9人だと3、3、3で振ったりもできそうだしセンターも据えられるけど、8人だと左右対象にできない……とか人数によって出てくる縛りもあるのかな。好きなフォーメーションが組める人数ってありますか?

仲宗根 奇数のほうがもちろん中心を考えやすいですけど、私はもはや「なんでも来い」って感じ。

土岐 あははは(笑)。

仲宗根 4人でも10人でも、それはそれで楽しもうって切り替えてますね。私の好みとかではなく、与えられた人材と音源をどう私がCookできるか。その中でもソロは本当に大事に考えていて。1人ひとりがShineするのがソロパートなので、それぞれが輝いて見えるようにこだわってます。あとは、次に歌うメンバーの入り方を自然にするとか、サプライズ感も入れたいし。

土岐 サプライズ感! うんうん。

仲宗根 ソロが終わって歩く、とかよりもちゃんときれいに見せたいんです。端っこにいるなら端っこを見えるようにちゃんと作る。1つのアートですから、計算して丁寧に見せないと。そのあたりを、少女時代で本当にしごかれました(笑)。

土岐 ちなみに、振り付けを考えるうえで男性グループと女性グループの違いって何かありますか?

仲宗根 そんなにないかなあ。私は音楽の世界観を常に大切にしています。

土岐 ミュージックビデオの撮影とかは緻密に香盤通りにオンタイムにやっていく感じですか? 私は韓国の制作の現場はライブやテレビしか知らないんですけど、私が出演したことのある現場はけっこうゆるいというか、本番でいきなり「はい、やってください!」みたいな感じだったんですよ。でも共演者の韓国の方はそこで完璧を出せるように練習していたりして、瞬発力が鍛えられてるんだろうなって感じたんですよね。カメリハやら何回もリハーサルを丁寧に重ねていく日本とは違うんだなって。でもK-POPのMVの仕上がりとかを観ていると、すごくコンセプトとか歌詞と振り付けとの連動性とかが緻密に作り上げられているから、そこがなんだか自分の中で一致しなくて不思議だったんです。

仲宗根 緻密なときもあるし、ゆるいときもあるかな(笑)。日本で仕事をすると丁寧さにびっくりすることは多いですけど。どっちがいいとかではなく、それぞれのカルチャーがありますよね。

「永遠にやり続けてほしい」NCT 127の1stツアー

土岐 アイドルの人たちの「こういう動きをしたい」「こういうメッセージを伝えたい」っていう気持ちを反映させて振り付けを作ることもありますか?

仲宗根 もちろん! 私はコンサートの演出もやってるんですけど、そういうときは特にメンバーたちと話し合って決めます。

土岐 そう、梨乃さんが演出されたNCT 127の1stツアー「NEO CITY」をDVDで拝見したんですけど、すごく素晴らしかったです! 楽屋でメンバーたちに声を掛けている様子にもジーンとしたり。

仲宗根 自分もパフォーマーだから彼らの気持ちはわかるんですよね。本番前にどう気持ちを持っていくかというところが大事で。NCTはあれが初めてのコンサートだったから。

土岐 そっかそっか。「本番前にこういうふうに声を掛けてくれる人がいると心強いだろうな」って思いましたよ。セットも、ジャングルジムみたいなものや舞台が傾斜したりと面白くて。でもセットだけが印象に残るというのでも、ダンスだけが印象に残るというのでもなく、すべてがいいバランスで融合しているなと感じました。この連載のVol.3に出てくれたシズニ(NCT 127ファンの呼称)のMICAさんも、海外公演を含めたくさん観に行ってましたけど、「あの公演を歌舞伎の演目やロングランミュージカルみたいに永遠にやり続けてほしい」って言ってました(笑)。

仲宗根 え、「ライオンキング」みたいに?(笑)

土岐 そうそう。例え彼らのことをまったく知らない人が観ても、あの公演は魅了されると思います。実際、うちの夫も映像をじっと観ていました。

仲宗根 うれしいなあ。あれを作っているときの目標として、ファンじゃなく、初めてNCT 127を観に来てくれる人が観ても楽しめる内容で、9人のメンバーを1人ひとり覚えてもらうために見せ場を作るっていうことをすごく意識してたんです。

土岐 1人ひとりが違う振りをしたりするところも、本当にその人自身が動いている感じがするというか。これはいろんな人に観てもらいたいなと思いました。

仲宗根 ありがとうございます。でもホント、メンバーあってこそなんです。アイデアを出したのが私でも、それを私の要求するもの以上で表現してくれるアーティストたちなのですごくやりがいがある。NCT 127は素晴らしいですよ。私はホント、ただみんなの魅力を引き出して見せたいだけ。マイケルのコンサートから学んだのはそういうことですね。人をアートによって心躍らせる、というのは常に表現したいです。

(後編に続く)

土岐麻子

1976年東京都生まれ。1997年にCymbalsのリードボーカルとして、インディーズから2枚のミニアルバムを発表する。1999年にはメジャーデビューを果たし、数々の名作を生み出すも、2004年1月のライブをもってバンドは惜しまれつつ解散。同年2月には実父にして日本屈指のサックス奏者・土岐英史との共同プロデュースで初のソロアルバム「STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~」をリリースし、ソロ活動をスタートさせた。2019年10月にソロ通算10作目となるオリジナルフルアルバム「PASSION BLUE」を発表。2021年2月17日にカバーアルバム「HOME TOWN ~Cover Songs~」を発売し、3月6日にはワンマンライブ「TOKI ASAKO LIVE 2021 Spring『MY HOME TOWN』」を東京・日本橋三井ホールで行った。

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仲宗根梨乃

1979年沖縄県生まれ。マイケル・ジャクソンに憧れ19歳で渡米し、ブリトニー・スピアーズ、グウェン・ステファニーのワールドツアーや、アヴリル・ラヴィーン、ジャスティン・ビーバーなどの数々のミュージックビデオ、映画、CMなどにダンサーとして出演する。2008年のSHINeeのデビュー曲を皮切りに少女時代、東方神起、BoA、SUPER JUNIOR、f(x)、Red Velvet、NCT 127、超新星など数々の韓国アーティストの振付を担当。またジャネット・ジャクソン、ブリトニー・スピアーズ、国内ではCrystal Kay、AKB48、SMAP、DREAMS COME TRUEなどの振付にも携わる。近年ではコンサート演出も手がけ、自身も女優として活動。2021年4月より配信されている「PRODUCE 101 JAPAN SEASON2」にトレーナーとして出演中。

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