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aiko、あいみょん、藤井風……SSWを支える名アレンジャーたちの手腕

リアルサウンド

21/3/27(土) 12:00

 編曲家という職業について、日本の歌謡界に数多くのヒット曲を残してきた萩田光雄はこう語っている。

「基本、私らアレンジャーは、料理人に例えるのが一番わかりやすい。美味しい料理を作って、お客さんに『美味しい』と言ってもらうことが一番なのだ。『美味しい』と言ってもらうためにアレンジをやっていると言ってもいいだろう」(『ヒット曲の料理人 編曲家・萩田光雄の時代』より)

 食材としての曲があり、編曲家はそれをリスナーのために“料理”する。元々の素材の味はもちろん、それを調理する料理人の腕前もまた試されているのだ。味付けはどうするか、どのくらい煮込むか、調味料は何を選ぶ、盛り付けは……。そうした意味でも編曲という仕事は非常に重要な役割を担っている。にも関わらず、編曲家はしばしば忘れられがちな存在である。ここでは近年活躍するシンガーソングライターたちの作品を支えるアレンジャーの存在に注目し、楽曲の魅力を引き出す手腕に光を当ててみたい。

aikoの歌詞世界を鮮やかに色付けする島田昌典

 aiko作品のアレンジをデビュー初期より務めているのが島田昌典である。「花火」も「カブトムシ」も「ボーイフレンド」も彼の編曲によって輝きを増した名曲だ。先日リリースされた新アルバム『どうしたって伝えられないから』でも5曲の編曲を担当し、その手腕を存分に発揮していた。

 彼のアレンジの特徴は、時に歌を凌駕するほど“演奏の魅力”が伝わってくる点だ。たとえば「しらふの夢」(以下『どうしたって伝えられないから』収録)。歌が始まる前のピアノのイントロからすでに美しい景色が目の前に広がる。ハープやフルート、クラリネットといった多彩な楽器を駆使して録音された生音の演奏とボーカルの絶妙な絡み合いは、まるで映画のワンシーンのようだ。曲の歌詞世界を鮮やか色付けしている。

 また、aikoは島田のアレンジを聴いて歌詞を変えることもあるという。同アルバム収録の「Last」はそれが起きた一曲で、想像を超えるアレンジに嬉しくなって急遽歌詞を変えたのだとか。歌詞が何よりも重要な上に曲作りにおいては芯の強い一面を持つaikoだが、そんな彼女でも影響されるのだから、それほど島田のアレンジにはパワーがあるのだろう。

歌い手本来の素質をあぶり出す田中ユウスケ

 今最も支持されている女性シンガーソングライターの一人、あいみょんの作品の多くに携わるのが田中ユウスケである。彼は玉井健二や蔦谷好位置ら腕利きのクリエイター陣が集うagehaspringsに所属し、これまでいきものがかりやYUKI作品のサウンドプロデュースも手掛けてきた。あいみょん×田中ユウスケのタッグはあいみょんのデビュー時期より始まり、以降現在まで続いているが、とりわけ3rdシングル曲「君はロックを聴かない」での化学反応が印象深かった。彼女の凛とした歌声にフォーキーなロックアレンジがぴたりとマッチし、歌い手としてのあいみょんのイメージが出来上がる。

 そして、このタッグが大きく実を結んだのが5thシングル曲「マリーゴールド」だ。夏の終わり頃のイメージを喚起させるノスタルジックな音世界で、冒頭の高らかなギターのフレーズから楽曲全体に至るまでどこか懐かしい響きを持っている。そうした懐かしく切ないタッチが、彼女本来の素質をあぶり出しているように思う。

あいみょん – マリーゴールド【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

ボーカルを際立たせて曲の魅力を最大限に引き出すトオミヨウ

 ここ最近、あいみょんとaikoのどちらにもアレンジで参加しているのがトオミヨウだ。昨年あいみょんがリリースしたシングル曲「裸の心」は、本来アルバム収録曲の予定だったらしいが、彼から上がってきたアレンジを聴いたあいみょんが涙が出るほど感動し、すぐにスタッフに相談してシングルに変更したという。そしてaikoもまた彼の手腕に魅かれた一人。昨年「青空」で彼とタッグを組んだ際に、渡されたアレンジを気に入り、そのまま湯船に浸かりながら何度も聴き返したのだとか。彼の腕が2人から絶大な信頼を得ているのがうかがえる。

 トオミヨウのアレンジはシンプルなものが多い。普遍的で、聴き手を選ばない。そして何よりも、歌を邪魔しない。歌が主役であることが大前提としてあり、その上で曲の世界観を肉付けしている。たとえば、最近彼がアレンジに参加した楽曲で印象深かったのが秦基博の「泣き笑いのエピソード」(NHK連続テレビ小説『おちょやん』主題歌)だ。メロディが際立つ素朴なアレンジによって、歌がスッと毎朝の身体に馴染んでくる。もう一つ挙げておきたいのが、フジファブリックの新アルバム『I Love You』収録の「あなたの知らない僕がいるfeat.秦 基博」である。シンプルなピアノの伴奏から始まり、徐々にストリングスが合流することで、ボーカルの歌声がストレートに耳に届きつつ、楽曲全体としてはドラマチックに盛り上がっていく。そもそもこの曲自体も素晴らしいが、その魅力を最大限に活かすアレンジだと感じる。

フジファブリック 『あなたの知らない僕がいる feat.秦 基博』

様々な音楽を取り入れて幅広い世代を虜にするYaffle

 昨年から今年にかけて大きな注目を浴びている岡山県出身のシンガーソングライター藤井風。彼のサウンド面を支えているのがYaffleだ。小袋成彬、iri、SIRUPといった新進気鋭のアーティストたちの作品も手掛ける彼は、様々な音楽を取り入れて幅広い世代を虜にしている。たとえば、「キリがないから」(以下『HELP EVER HURT NEVER』収録曲)では現代的なビートを軸にエレクトロニックなアプローチを見せている。音そのものへのこだわりも強く感じるふくよかな低音は、この楽曲のほとんど肝と言っていいだろう。かと思えば「風よ」ではシンプルなピアノメインのアレンジで曲そのものの良さを押し出し、はたまた「罪の香り」ではフルートからバリトンサックスまで登場する大人数の編成で、さながらプログレッシブジャズ的な演奏で聴き手の耳を奪う。こうしたアレンジャーの持つ引き出しの多さが、楽曲に適材適所のアレンジを可能にしているのだろう。

藤井 風(Fujii Kaze) – “キリがないから”(Cause It’s Endless) Official Video

 シンガーソングライターたちの作品を支えるアレンジャーたち。上記に挙げた以外にもまだまだ注目すべき存在は多い。楽曲の魅力を引き出す彼らの腕に着目すれば、今までとはまた違った音楽の楽しみ方ができるのではないか。

■荻原 梓
J-POPメインの音楽系フリーライター。クイックジャパン・リアルサウンド・ライブドアニュース・オトトイ・ケティックなどで記事を執筆。
Twitter(@az_ogi/https://twitter.com/az_ogi)

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