Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『呪術廻戦』の魅力は“死の描写”にあり? TVアニメ放送に向けて注目ポイントを解説

リアルサウンド

20/10/2(金) 10:00

 『週刊少年ジャンプ』の人気マンガ『呪術廻戦』が、TVアニメ化した。2018年3月に連載を開始して、約2年半(前日譚も入れると2017年~)。「早い」や「ちょうどいいタイミング」という意見もあるだろうが、いちファンである筆者の心情としては「ついに…」だ。

 今回は、アニメ放送開始を記念し、本作の魅力を「死の描写」という観点から考察・分析してきたい。なお、本稿におけるTVアニメ第1話の記述は、9月19日に先行配信された内容を
基にしている。

 まずは、人気ぶりとともに、本作の基本情報をご紹介しよう。『呪術廻戦』は、10月2日発売のコミックス第13巻時点で、累計発行部数850万部を突破。今年の5月時点では450万部だったというから、わずか5ヶ月で発行部数が倍増しているわけだ。まさに、「勢いが止まらない」状態。今後、アニメ効果もあり、さらに売り上げを伸ばしていくことだろう。

 ちなみに、2019年12月~2020年1月にかけて東京・渋谷(物語の舞台のひとつでもある)で行われた複製原画展は、連日盛況となった。また、人気俳優の中村倫也がTwitterで言及する(小説版も読んでいるなど、実はガチファン)など、着実に人気が波及している。

 『呪術廻戦』は、一言で言うと「バトル要素が入ったダークファンタジー」だ。ジャンプ作品だと、古くは『HUNTER×HUNTER』から『鬼滅の刃』『チェンソーマン』、『約束のネバーランド』にもその要素はあり、近年主流となりつつあるジャンル。他誌まで広げれば『進撃の巨人』や『東京喰種トーキョーグール』も、ここに該当する作品といえよう。

 本作は“呪い”をテーマにしており、「呪術師」と呼ばれる人間たちが、具現化した呪い(呪霊)と戦う姿を描く。運動能力抜群の高校生・虎杖悠仁は、先輩たちを呪いから守るために、恐るべき魔力を持つ呪いの王「両面宿儺」の封印されていた指を食べ、強力な能力を得る。だがその代償として、両面宿儺にいつ体を乗っ取られるかわからない状態になり、呪術師たちの駆除対象になってしまう。しかし、最強の呪術師・五条悟の計らいで、「両面宿儺のすべての指を取り込んでから死ぬ」という執行猶予を与えられ、彼が教鞭をとる呪術師の養成校・東京都立呪術高等専門学校に転校。個性豊かな学友たちと切磋琢磨し、成長していく――。これが、ざっくりしたあらすじとなる。

 冒頭、本稿の主題を「死の描写」と述べたが、『呪術廻戦』は、主人公の“死”が最初からにおわされており、かなり攻めた設定といえるだろう(ちなみに、TVアニメ版では虎杖が死刑宣告されるシーンから始まり、より劇的な味付けがなされている)。この始まりからして、『呪術廻戦』が通常の少年マンガとは大きく異なる、異端のマンガであることが伝わってくる。

 TVアニメ化・映画化もされた『青の祓魔師』でも、同様の「主人公が処刑対象」の設定は見られるものの、こちらは家族や兄弟というヒューマンな要素が先に立っており、処刑回避の可能性も残されている。しかし『呪術廻戦』の主人公・虎杖は、「今すぐ死ぬ」か「両面宿儺のすべての指を取り込んでから死ぬ」のどちらかしか選択肢がなく、最初から生存権を与えられていない。また、虎杖の性格も、「ちゃんとイカれてる」と劇中で評されるように、自らの死に対してわりと達観しており、悲壮感が伝わってこないのも新しい(反対に、罪なき市民の死には激しく動揺する。それは後述)。

 このように、『呪術廻戦』は死生観というか、「死の描き方・捉え方」が独特だ。最序盤で虎杖の祖父が病死するシーンなど「人は死ぬもの。どう生きるかだ」というカラリとした思考が感じ取られるし、祖父が遺し、虎杖の行動原理になっていく「オマエは大勢に囲まれて死ね」も、そのような意識の表れといえるだろう。死というものが、人類がみな経験する当たり前のこと、として描かれる。

 しかしそれはあくまで天寿を全うした場合で、呪霊たちによって殺される場合はまた別だ。主人公の虎杖の行動理念は、「人は死ぬ。だからこそ、正しく死んでほしい」というもので、そのため、人々の天命を全うさせまいとする呪霊たちに対しては激しく怒り、倒そうと立ち向かっていく。この「生かそう」ではなく「看取ろう」というような主人公の思考のプロセスは非常に珍しく、画期的といえるかもしれない。

 興味深いのは、虎杖に象徴される死生観が、敵である呪霊の描き方に、色濃く影響を与えているということ。本作には、呪霊たちによって一般人があっけなく死ぬ描写が頻出するが、そこにウェットな感じはない。きちんと“痛み”は描かれるものの、かなり意識的に“軽く”扱われている。ここが極めて上手い。

 これは、1つには呪霊が人間の負の感情から生まれた“人ならざる存在”であることを強調しているともいえよう。つまり、人間と同じ行動規範では動かないし、人間というもの、さらには命に対する感覚もまるで異なる。というかむしろ、人を殺してこその“呪い”だ。呪霊たちは毎度、見ているこちらが絶望するほど簡単に人間を殺すが(しかも1人ひとり丁寧に殺すのではなく、複数人を雑に、まとめて殺す)、彼らにとってはそれが存在意義でもあり、人間的な倫理観の入る隙間がない。しかし、人の死を軽んじる呪霊たちの存在は、虎杖の生き方・信条に対する侮辱でもある。だからこそ、対立構造が生まれるのだ。

 象徴的なのは、虎杖の前に立ちはだかる“特級呪霊”の真人。彼の戦闘スタイルは、人間の魂に触れ、形を変えるというもの。生きている人間を引き伸ばしたり縮めたりして武器にするほか、“改造人間”として使役する。虎杖の目の前で人間がぐにゃりと改造され、あるいは破裂させられるなど、常軌を逸した死闘は、相当強烈だ。本作が“ダーク”ファンタジーであるゆえんでもある。

 つまり、『呪術廻戦』の独自性は、「死の概念」に対して新しさを生み出していることが大きい。かなりの衝撃作であり、邪道ともいえるが、それがゆえに予定調和の展開にならず、読者も常に新鮮な感覚で読み進めることが可能だ。現在、ジャンプ本誌で展開している「渋谷事変」編では、今現在の渋谷の街を舞台に、呪術師と呪霊、さらには人間でありながら呪霊と組んだり、人間を滅ぼそうとする「呪詛師」がぶつかり合う姿が描かれており、渋谷の各所で戦う、というつくりも、実に新しい(しかもグロ描写てんこ盛りだ)。

 『呪術廻戦』は、先に挙げた真人以外の部分でも、苛烈な描写が目を引く。これも、呪霊の恐ろしさを際立たせる効果を発揮しているが、TVアニメ第1話でも、グロテスクなルックの呪霊が多数登場。『エイリアン』のフェイスハガーよろしく、虎杖の先輩の頭に吸いつくシーンはなかなかに強烈で、その後も巨大な虫に人間の手が複数生えたような不気味な呪霊と、後に虎杖の同級生となる呪術師・伏黒恵の死闘が展開する。

 物語展開のダイナミズム、奇抜なキャラクターたち(なぜか先輩がパンダ。ヒロインの狂気ぶりも斬新だ)、セリフの面白さやギャグセンス、ちょっと『HUNTER×HUNTER』的な理詰めのバトルシーンなど、『呪術廻戦』の面白さは無限にある。そしてそのどれもが、王道の少年マンガのセオリーとは異なる、異端性をビンビンに発している。余談だが、虎杖の“タイプの女性”がジェニファー・ローレンス、修行法が映画鑑賞という部分も、これまでの少年マンガからすると異端であり、映画好きとしては嬉しいところ。

 さらにその根底にあるのが、今回ご紹介した「死の描写」の特異性だ。この通念が、本作の骨格として、土台として機能しているからこそ、斬新性が輝き続ける。これからTVアニメを観進める方は、ぜひその部分にもご注目いただきたい。

■SYO
映画やドラマ、アニメを中心としたエンタメ系ライター/編集者。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て、現在に至る。Twitter

■放送・配信情報
『呪術廻戦』
MBS/TBS系“スーパーアニメイズム”枠にて、10月2日(金)スタート 毎週金曜深夜1:25〜放送
Amazon Prime Video、Netflixほかにて、10月2日(金)26:00〜順次配信
声の出演:榎木淳弥、内田雄馬、瀬戸麻沙美、
小松未可子、内山昂輝、関智一、津田健次郎、岩田光央、遠藤綾、黒田崇矢、中村悠一、木村昴、井上麻里奈、赤﨑千夏、麦人、山谷祥生、櫻井孝宏、千葉繁、田中敦子、島崎信長、諏訪部順一
原作:『呪術廻戦』芥見下々(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:朴性厚
シリーズ構成・脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:平松禎史
副監督:梅本唯
美術監督:金廷連
色彩設計:鎌田千賀子
CGIプロデューサー:淡輪雄介
3DCGディレクター:兼田美希、木村謙太郎
撮影監督:伊藤哲平
編集:柳圭介
音楽:堤博明、照井順政、桶狭間ありさ
音響監督:藤田亜紀子
音響制作:dugout
オープニングテーマ:Eve「廻廻奇譚」(TOY’S FACTORY)
エンディングテーマ:ALI「LOST IN PARADISE feat. AKLO」(MASTERSIX FOUNDATION)
アニメーション制作:MAPPA
(c)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会
公式サイト:https://www.jujutsukaisen.jp/

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む