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『帰れない二人』ジャ・ジャンクー監督が語る、中国の変化 「きっとみんなからの共感を得られる」

リアルサウンド

19/9/6(金) 10:00

 ジャ・ジャンクー監督最新作『帰れない二人』が、9月6日より全国公開中だ。31歳の若さで初めてカンヌ国際映画コンペティション部門に出品された『青の稲妻』と、ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)に輝いた『長江哀歌』、ターニングポイントである2作を踏襲しつつ進化させた本作は、ジャ・ジャンクー監督5作品目となる第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作。

参考:場面写真はこちらから

 山西省大同で、裏社会で生きる男ビン(リャオ・ファン)とその恋人・チャオ(チャオ・タオ)の2001年から2018年の18年間を、変わりゆく中国を背景に描いた。ジャ監督に、前作『山河ノスタルジア』との違いや、これまでジャ・ジャンクー監督の多くの作品に出演し、ジャ監督の妻でもあるチャオ役のチャオ・タオの魅力、中国の変化について語ってもらった。

「どこの国の人にも、愛の物語として観てもらえると思う」
ーー前作『山河ノスタルジア』では1999年から2025年、本作『帰れない二人』でも2001年から2018年という長い歳月を描いています。

ジャ・ジャンクー:振り返ってみると、僕が長い時間軸で撮った作品はあまり多くないけど、最近は「時間」という容器の中で、人物を捉えてみたいと思うようになってきた。今、僕が興味があるのは物事の結果ではなく、そのプロセス。今回もその考えに基づいて作品を作っていた。

ーー『山河ノスタルジア』の時と、そのプロセスの描き方に変化はありますか?

ジャ・ジャンクー:大きな時間の流れで人物を動かすという構成は変わらないけれど、『帰れない二人』では、人間の感情の変化を正確に描こうと思っていた。本作が2001年から始まるのには理由があるんだ。2001年というのは新世紀を迎えた年であり、中国でも北京オリンピック開催、WTO加入、大規模な高速道路の建設、インターネット社会への突入とあらゆることが起こった、激動の時だった。本作の主人公であるビンとチャオは2001年という、古い時代と新しい時代のちょうど狭間を経験している人物なんだ。

ーービンとチャオは裏社会の人間でもあります。

ジャ・ジャンクー:僕は小さい時から、裏社会に生きている人々をよく知っていた。文化大革命以降、職がなくて裏社会に手を染めるような人たちをたくさん見てきたよ。裏社会には裏社会の儀礼というものがある。文化大革命以降の裏社会の人たちは、香港ノワールや任侠映画からその儀礼を勉強していた。ただ、僕はこの作品を作る時、決して香港ノワールみたいに撮ってはいけないと自分に言い聞かせていたね。ビンとチャオを、裏社会の英雄としてではなく、日常の中に当たり前にいる人物として描きたかった。きっとみんなからの共感を得られるんじゃないかな。これは中国を舞台にした物語だけど、どこの国の人にも、愛の物語として観てもらえると思う。

ーーそういった、ありふれた人物の描写に興味をもつきっかけは?

ジャ・ジャンクー:それは、自分自身がそういうありふれた小さな町の出身だから。僕はずっと、自分の意に沿わない生活を強いられている、小さな地方都市の人々を描いてきた。今回もそんな町の裏社会の人たちが、どういう苦難に見舞われてきたかに注目した。中国の激変に伴って、彼らの間でも価値観の変化が起きたんだ。昔は「義理と人情」で任侠の世界が成り立っていたけれど、今は「金と権力」。そんな中国人の内面の変化を、僕は撮りたいと思っていた。

ーー本作では、チャオは強い女性として描かれ、チャオに騙される男性が多く登場します。この男性と女性の描き方は意識的でしたか?

ジャ・ジャンクー:そうだね。本作においては、「お金が欲しい」「成功したい」という、さっき言ったような「金と権力」が男にとっての基準で、女性は愛と家庭に重きを置いて生きている。「金と権力」を求めるという男の弱点をチャオは知っていたからこそ、騙せたんだ。僕は男性の監督として、男の弱点をきちんと見つめて女性の強さを描いたつもりだよ。

ーーこれまでも多くのあなたの監督作でヒロインを務めてきた、チャオ役のチャオ・タオの魅力は?

ジャ・ジャンクー:彼女の素晴らしいところは、想像力が豊かで、かつ、それを演技で表現してくれることだ。本作は彼女のキャリアの中でも最高の演技だと思う。彼女がもともと持っている、すべてのものを出し切ってくれたといっても過言じゃない。僕が脚本を書いている時に気づかなかった、脚本に書けなかったことを、彼女は演技で表現してくれている。彼女は20代から40代までを演じないといけない役だったけれど、情感、話し方、歩き方といった細かい部分を、年齢別に工夫して演じてくれた。

ーー本作は、あなたにとって5作品目のカンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作です。ここまで長いキャリアを歩みながら、常に高い評価を獲得してきた理由はなんだと思いますか?

ジャ・ジャンクー:僕は、自分の考えを妥協せず、粘り強く、誠実に自分が作りたい映画を作り続けている。そうしてこそ自分が一番自由で、いいものを作れる状態にいられると考えているよ。 (取材・文・写真=島田怜於)

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