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宇多田ヒカル「嫉妬されるべき人生」と映画『パラレルワールド・ラブストーリー』を繋いだ“運命”

リアルサウンド

19/6/10(月) 7:00

 宇多田ヒカルの楽曲「嫉妬されるべき人生」が、現在公開中の映画『パラレルワールド・ラブストーリー』の主題歌になっている。昨年リリースの最新アルバム『初恋』に収録されている同曲は書き下ろしではないが、映画の監督を務めた森義隆が「これだ!これしかない!」と確信し、オファー。既出の曲を映画に使いたいと言われるパターンは、宇多田にとって初めてだったという。

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 アルバム『初恋』は、誰もが認める名盤中の名盤である。その中で「嫉妬されるべき人生」が主題歌として使われた理由は、実際に映画を観るまでわからなかったが、エンディングに差し掛かった瞬間ビビっときた。劇中の主題歌が流れるタイミングで、こんなにも痺れるような感動を覚えたのは初めてかもしれない。同曲はアルバムの世界観を象徴する楽曲でもあるから、劇場を出てすぐに『初恋』を1曲目から再生してみた。すると思った通り、この曲だけでなくアルバム全体から映画とのシンパシーが感じられたのだ。

 それぞれの作品を繋ぐシンパシーの正体は、一体何なのだろう。それを解き明かすためにまず『初恋』について振り返りたい。このアルバムには「終わりの切なさ」と「始まりの高揚感」が混在している。厳しい冬を経て穏やかな春がやってくるように、陰があってこそ陽は一層眩い輝きを放つ、そんなことを思わせる作品だ。まさに初恋のような「特別な恋愛の情景」を描いた楽曲が収められており、それらは純愛という言葉よりも、何か不思議な力に引き寄せられた恋と表現した方が近い。

 そしてアルバムを締めくくる「嫉妬されるべき人生」には、自らの命の果てという究極の終わりの予感が滲んでいる。その予感を前にすることで〈言えるよ/どんなに謙遜したって/嫉妬されるべき人生だったと〉という歌詞が、至上の愛の言葉として響く。私は同曲を初めて聴いた時、画家グスタフ・クリムトの代表作の1つ「接吻」を彷彿した。男性からの接吻を受ける女性が恍惚の表情を浮かべているこの絵は、2人の足元をよく見ると今にも崩れ落ちそうな崖の上に居ることがわかる。幸せはいつでも終わる可能性を秘めていて、それがもっと幸せを際立たせる。この悲しくも美しい人生の条理を、どちらの作品にも感じたのだ。

 続いて、映画『パラレルワールド・ラブストーリー』の説明をしていく。東野圭吾のベストセラー小説の実写化である本作には、Kis-My-Ft2の玉森裕太のほか、吉岡里帆、染谷将太らが出演。玉森演じる主人公が、現実ともう1つの世界の間で混乱しながらも、真実を追っていくミステリーとなっている。公開中なので詳しい内容は控えるが、この物語の絡まりは純粋で真っ直ぐな愛が引き起こしたもので、最後まで観終えた時に「運命」という言葉が脳裏に浮かんでくる。ここで言う運命は突発的なものではなく、前世や別次元といった現実以外の場所での関りがすでにあることで、訪れるべくして訪れた出会いを示す。例えば次の信号で右折をする自分が現実で、そこを直進していく別次元の自分が、ある人に出会って恋に落ちたとする。現実ではこのタイミングで出会わなかったとしても、どこかでその人の人生と交わった時に「初めまして」ではない気がしてしまう。実際にあるかどうかは別として、そんな想像世界を仮定した運命だ。

 この運命というワードこそが、「嫉妬されるべき人生」と『パラレルワールド・ラブストーリー』を繋ぐ世界観なのではないかと考える。先述したように「嫉妬されるべき人生」は「命の果て」や「至上の愛」がわかりやすいテーマだった。しかし、映画と合わさることで楽曲の始まりの歌詞〈軽いお辞儀と自己紹介で/もうわかってしまったの/この人と添い遂げること〉にスポットが当たり、また違った印象に聴こえるのだ。実際に目に見えるもの、現実にあり得ることを超えたところに〈嫉妬されるべき人生でした〉と言える所以があるとするなら、アルバム『初恋』の楽曲に描かれている「特別な恋愛の情景」にも、運命的と形容出来る部分があるように思う。

 『パラレルワールド・ラブストーリー』は、現実と地続きの不思議な世界に入り込んだ気分にさせられる映画だが、主題歌が書き下ろしではなく既出の作品であること、それにもまた不思議な縁を感じる。まるで「嫉妬されるべき人生」が主題歌になるのは、ずっと前から決まっていたかのように。森監督が同曲を聴いて「これだ!これしかない!」と確信した理由を、映画のエンディングまで観た上で体感してみてほしい。(渡邉満理奈)

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