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『ガッチャマン』映像化作品も始動 MCU成功の立役者、ルッソ兄弟の功績と作風を分析

リアルサウンド

19/7/23(火) 10:00

 2014年、マーベル・スタジオのヒーロー映画に、突如として驚くべき傑作が誕生した。『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』である。これは、派手なアクションが連続して描かれるヒーロー映画でありながら、ポリティカル・サスペンスとしても楽しむことができる異色作だ。これが画期的だったのは、キャプテン・アメリカを含めたヒーローたちをサポートする正義の組織「S.H.I.E.L.D」にまつわる衝撃的な展開が描かれている点だ。

参考:【ネタバレあり】『アベンジャーズ/エンドゲーム』が描いた正義のあり方を考察

 この作品において内容的に大きな成功を収め、以後、それに続く『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)、さらにマーベル・ヒーロー集結作品『アベンジャーズ』シリーズの最終2作である『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)と、立て続けに重要作をまかされ、これらを見事に完成させたのが、アンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソ、通称「ルッソ兄弟」監督である。

 ここでは、そんなルッソ兄弟の映画作品における功績を振り返りながら、彼らの根っこにある作風と、これからの取り組みについて考えていきたい。

 彼らが初めて監督をしたのが、『Pieces(原題)』(1997年)という、大学院生時代に自主制作したコメディ映画だった。映画祭でその才能にいちはやく目をつけたのが、ともに映画製作を行っていたスティーブン・ソダーバーグ監督と、俳優ジョージ・クルーニーだった。

 ソダーバーグとクルーニーの製作作品において、商業映画の業界に足を踏み入れたルッソ兄弟が撮ったのが、『ウェルカム・トゥ・コリンウッド』(2002年)である。これは、サム・ロックウェル(『バイス』、『スリー・ビルボード』)主演の犯罪コメディ映画だ。

 『ウェルカム・トゥ・コリンウッド』は、ソダーバーグ監督、クルーニー主演の『オーシャンズ11』シリーズのように、犯罪をたくらむ者たちが集結して大金を盗み出そうとする作品だが、この作品が『オーシャンズ11』と対照的なのは、登場人物たちが貧困にあえぐ冴えないダメ人間ばかりであるという点だ。

 オハイオ州クリーブランドにある労働者の街、 コリンウッドを舞台に、ケチな盗みを繰り返しては逮捕される貧しいコリンウッドの人々が、大きな儲け話があると聞いて、どん底人生から脱出するべく、金庫破りの仕事に集まる。それはある意味で、ひどくケチな奴らが集結した、最低の『アベンジャーズ』といえるかもしれない。

 この作品でエンターテインメント業界への足がかりを得たルッソ兄弟は、TVドラマやドキュメンタリー作品を製作、続いてオーウェン・ウィルソン主演のコメディ映画『トラブル・マリッジ カレと私とデュプリーの場合』(2006年)を監督している。

 この作品で描かれるのは、オーウェン・ウィルソンが演じるデュプリーという、定職に就いていない、根無し草の自由人が、新婚生活を送る友人の家に泊まりこみ迷惑をかけまくるという物語だ。しかし、社会の枠にはまらない発想によって、会社と家庭との間で悩む友人の力になっていく。

 『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』までに撮られた、これらの作品には、現代社会で正しいと信じられている価値観に疑問を呈するような視点が置かれているという部分が共通している。さらに、富や地位をありがたがるような価値観で動いている社会の規範に従う人々が、どこかに置き忘れてきた“優しさ”に価値を見出している。

 『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』は、陰謀に巻き込まれ孤立無援となるキャプテン・アメリカが、それでも自分の正義を信じ、正しい行いをしようとする姿を描くことで、これまで信じられてきた価値観をときには疑うことが必要だということを表現している。マーベル・スタジオのヒーロー作品は、製作を統括するケヴィン・ファイギの指揮のもと作られているが、なかでもこの作品が力強く、アツいものとなったのは、ルッソ兄弟の作風や社会観が、物語と重なる部分を持っていたからであろう。

 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』における、強大な力を持った者が弱者を踏みつけにする描写はもとより、悪の側の論理にも一定の説得力を持たせ、観客の価値観を揺るがせることも、もともとのルッソ兄弟の資質を応用したものだ。だからこそ悪と正義の境界が曖昧になる『インフィニティ・ウォー』の内容に、リアリティある不安が立ち上ってくるのである。

 だがやはり、ルッソ兄弟は弱い者や素朴な人々への共感を持った作家である。『アベンジャーズ/エンドゲーム』では、取り返しのつかない事態に陥り、いろいろなものを失ったヒーローたちが身を寄せ合い、それでも精一杯に自分のできることをやろうとする姿が描かれる。もはやヒーローとしてのかつての威厳を失ったものの、善良であろうとする彼らの姿は、『ウェルカム・トゥ・コリンウッド』の登場人物を想起せられる。

 また、自分の力が足りずに、宇宙やアスガルドの民をサノスに蹂躙させてしまったことで、無気力になって家のなかにこもり、ゲームばかりをやっているような無気力に陥ったマイティ・ソーのダメ人間……ならぬダメ神様ぶりは、『トラブル・マリッジ カレと私とデュプリーの場合』におけるデュプリーのウダウダしている姿そのものだ。しかし、この作品では、そんなソーがある人に勇気づけられ立ち直っていく様子を、様々な要素を描かなければならない作品のなかでも、しっかりと扱っている。

 残念ながら、ルッソ兄弟はマーベル・スタジオのヒーロー作品から、現時点では離れるということを表明している。それは彼らによると、そこで描きたいことがあらかた描き終わったからだという。だが彼らはヒーロー映画での成功から、2018年に製作会社を立ちあげ、映画やテレビドラマなど多くの作品づくりに従事し始めている。

 その目玉となるのが、先日コミコンで発表された、日本のアニメーション作品『科学忍者隊ガッチャマン』のアメリカ版である『Battle of the Planets(原題)』の映像化作品だ。まだ企画がスタートしたばかりで、製作を担当するか、監督を務めるのかは決定していないが、ルッソ兄弟が子ども時代に見ていた原作だということで、力の入った作品になりそうだ。他に製作者として手がけるなかには、マーベル・スタジオ作品でブラックパンサーを演じたチャドウィック・ボーズマン主演作『21 Bridges(原題)』がある。

 ルッソ兄弟の監督としての次回作は、マーベル・スタジオ作品でスパイダーマンを演じているトム・ホランド主演の『Cherry』(原題)である。PTSDに苦しむ元陸軍衛生兵が、麻薬に依存するようになり、連続銀行強盗犯になっていくという物語だ。その内容はやはり、これまでのルッソ兄弟の描いてきた作風に連なる、社会から外れた者への共感と、観客の価値観を揺るがせる作品となるだろう。

 彼らがこれから生み出していくものは、ヒーロー映画にしろ、またはそうではなかったとしても、根底にあるテーマや社会への視点は共有したものになっていくだろう。それらはやはり、『キャプテン・アメリカ』や『エンドゲーム』の先に続いていく作品なのである。(小野寺系)

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