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花江夏樹が演じた中学生の迷いや不安「自分の気持ちが言えないところは、僕 と似ている」

ぴあ

花江夏樹

■猫になったら高いところに登って寝たいです(笑)

映画『泣きたい私は猫をかぶる』がNetflixにて6月18日(木)より全世界に向けて独占配信される。空気を読まない言動でクラスメイトからは「ムゲ(無限大謎人間)」と呼ばれる中学2年生の女の子・笹木美代と、美代が想いを寄せる同級生の日之出賢人が織りなす青春ファンタジー。ムゲこと美代を演じるのは、女優の志田未来。そして、日之出のCVを声優の花江夏樹が務める。

「将来に不安を抱えていたり、好きな人にうまく想いを伝えられなかったり。そういった中学生の不安定で繊細な心が丁寧に描かれていて、本当に美しい作品だなと思いました」

そう花江は本作の印象を語る。夏祭りの夜、お面屋にいた猫の店主からかぶると猫に変身できる不思議なお面をもらったムゲは、猫の太郎となって日之出のもとに通いはじめる。設定はファンタジーだが、そこには多感な中学生らしい悩みや葛藤がリアリズムたっぷりに描写されている。

「日之出は、優しくて真面目な男の子。だけど、ムゲや親に対しては素直に気持ちを伝えられないところがあって。そんな気持ちの揺れ動きを大切に演じました。僕自身も中学時代はやりたいことがあっても親に言えなかったり、自分の気持ちをちゃんと打ち明けられなかったので、そういう部分はすごく似ているなと思ったし、演じながら日之出のことを応援したくなりました」

クラスメイトからはちょっと変わり者扱いされているムゲ。花江の目には、このムゲという女の子はどんなふうに映ったのだろうか。

「最初は『なんだこの子は』って印象でした(笑)。確かにムゲは好きな男の子に対するアプローチの仕方とかが人とちょっと違っているんですけど、芯には本人の温かさが感じられるんですよね。特に心に残ったのは、ムゲが書いてくれた手紙。あそこにムゲの気持ちや人柄が表れていて、どんどん好きになりました」

そんなムゲのことが少しずつ気になりはじめる日之出。ふたりの関係性の変化も、本作の見どころのひとつだ。

「接していくうちに、いつの間にかムゲに憧れるようになったり、自分の将来について決心したり。日之出の心の変化が自然に描かれていたので、何か特別に意識しなくても、ストーリーを追っていくだけで、僕も日之出の変化を表現できたかなと思います」

猫として過ごすうちに、どんどん猫と自分の境界が曖昧になっていくムゲは、猫店主から人間を捨て、猫として生きるよう迫られる。

「日之出自身、ムゲがいなくなることで初めてその大切さに気づけたというか。そこからの日之出の成長は大きかったなと思います。あんなふうに気持ちが爆発して、今まで言えなかったことまで言えたことで、ムゲとの関係も前に進みました。終盤に向けての盛り上がり含めて、すごくいいクライマックスでした」

ちなみに花江さん自身が、こんなお面を渡されたらどうするだろうか。

「猫になってみたいですね。で、高いところに登って寝たいです(笑)。あ、でも、人間に戻れなかったら困るので、そこはなしでお願いします(笑)」

■志田さんはハートでお芝居をしている

共演には山寺宏一、浪川大輔と、花江にとって特別な先輩たちの名前が並んでいる。

「山寺さんは本当に何パターンあるんだっていうくらいいろんな引き出しを持ちながら、一瞬で山寺さんだとわかる個性がある。今回演じられた猫店主も威圧感がありながらコミカルな部分もあって。嫌なやつなんだけど魅力的に思えるのは、山寺さんだからこそ。山寺さんのお芝居は画面から飛び出してくるというか、役の感情がすごく立体的に聞こえて、2次元のアニメ作品なんですけど、お芝居が3次元だなって感じます」

一方、浪川が演じた坂口智也は、日之出の祖父が営む陶芸工房に勤める職人。日之出にとって兄のような存在だ。

「実際の浪川さんも僕にとってはお兄ちゃんというか、いちばん親身になって相談に乗ってくれる先輩です。何でも包み込んで受け入れた上でアドバイスをくれるような優しさがあって。今回の役は、僕の中ですごく重なる部分が多かったんですよ」

そして目玉となるのが、志田未来とのW主演。今回が初共演だが、志田の演技から刺激をもらうことも多かったそう。

「志田さんのお芝居は、一言一言に魂が入っていて、本当に素敵でした。ちょっと言葉にして説明するのが難しいのですが、気持ちを優先して喋っているなという感じがするんです。声が裏返ろうと、かすれようと、それよりもまずムゲとしてちゃんとそこにいることを大切にしている。技術に頼りすぎない、ハートでお芝居をしているところが印象的でした」

■アニメだからという固定観念にとらわれずに演じたい

花江といえば、主人公・竈門炭治郎の声を務めたアニメ『鬼滅の刃』が社会現象級の大ヒットを記録。今年3月に発表された第14回声優アワードで初の主演男優賞を受賞するなど、今や同世代を代表する声優のひとりへと成長した。こうした環境の変化のなかで、花江は自らに対してどんな変化を感じているのだろうか。

「自分の中では毎年毎年目の前のことを全力でやっているだけなので、気持ちの面で変化はあんまりないんです。だけど、この『泣きたい私は猫をかぶる』のようにいろんな方に注目してもらえる作品に出演させていただけることは本当にありがたいことですし、これをきっかけに他の出演作品や僕自身のパーソナルな部分も知っていただければうれしいですね」

不変の精神で声優の道を突き進む花江。では、花江自身が変わらずに大切にしているお芝居の心構えとは何だろうか。

「そこに生きているように演じられたら、という気持ちはいつも大切にしていることです。そのためには志田さんのように気持を優先して演じることも大事だし、あとは固定観念にとらわれないことも重要。アニメだから、この表情だから、こういうお芝居をしなきゃと決め込むのではなく、その場に立って生まれた気持ちをそのまま発したものが、その役に合う声になっているのが理想です」

今回、監督を務めた佐藤順一からもアフレコの前に忘れられない言葉をかけられたという。

「監督は『あんまり絵に引っ張られずに気持ちの部分でやってください』とおっしゃっていました。絵は絵でお芝居をする。だからこそ、僕たちが別の角度から声のお芝居をあてることで、より物語やキャラクターが立体的になる。監督が目指す世界に共感できたからこそ、僕も気持ちを大切に演じることができました」

■YouTubeは完全に個人的な趣味です(笑)

ちなみに、花江夏樹といえば猫好きでも有名。そんな花江にとっては、猫が活躍する本作はたまらない一本になったようだ。

「本当可愛いですよね。日之出が太郎のおなかをスリスリするところとか、猫っていいなあと思いました」

そう思わず声が弾む。ステイホームが続く中、愛猫の「みそ」と「こんぺい」の存在が、花江の癒しとなっている。

「猫は気まぐれなのがいいですよね。一緒に寝たくても寝てくれなかったり。そのくせいつの間にか隣にいたり。そういうふとしたときのワガママな感じが可愛いです(笑)」

新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、アニメ業界も制作がストップしている現場は多い。一刻も早い終息が望まれる一方で、花江自身は毎日のようにYouTubeにゲーム実況動画を投稿し、ファンを喜ばせている。

「YouTubeに関してはもう完全に個人的な趣味です(笑)。全部自分でプロデュースして、企画も僕。編集もやってるものもあります。ただ僕が楽しくやっているだけなので、それをみなさんが一緒に楽しんでくださっているなら、本当うれしい限りです」

持ち前の美声をフルに発揮しながら、賑やかにゲームを楽しんでいる花江の様子がYouTubeでは楽しめる。

「よくアフレコの現場とかで『YouTube観てます』って言われることが多いんですけど、いつもとテンションが違うので恥ずかしいんですよね。普段の僕はあんなに大声は出さない。ゲームをやるとスイッチが入るんです(笑)」

本作もまたコロナの感染状況を鑑みた上で、劇場公開からNetflixでの独占配信に切り替わった。プラットフォームは変われど、この『泣きたい私は猫をかぶる』が持つメッセージは、色褪せることなく人々の胸に届くはずだ。

「劇場で公開できなかったことは残念ではあるんですけど、こういったご時世なので、おうちで楽しめるものが増えるのはすごくいいこと。観る人によって誰に感情移入するかも変わるような、幅広い世代の方に楽しんでいただける作品ですので、ぜひご家族みんなでご覧いただきたいです。そしてこの作品が、普段あまり言えなかったことが言えるような、何か気持ちが変わったり、関係が変わるきっかけになったらいいなと思います」

映画『泣きたい私は猫をかぶる』はNetflixにて6月18日(木)より全世界独占配信。

(取材・文/横川良明)

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