春日太一 実は洋画が好き
当時のワクワク感再び! スタローン映画の煮凝りのような『ロックアップ』
毎月連載
第18回
『ロックアップ』 (C) 1989 STUDIOCANAL
映画にはまり出した10歳頃、母親が購読していたこともあり映画雑誌『スクリーン』『ロードショー』を2誌とも毎月読んでいた。
その大きな楽しみのひとつに、好きなスターの最新作情報があった。それも、「これからそういう企画が動き出す」というまだ噂段階のものでも、「最新作は××」という感じでグラビア写真の脇に書かれていたりした。それを見て、「わっ、どんな作品になるんだろう」とワクワクしていたものだ。
大好きだっただけにスタローンの「最新作情報」は今でも覚えている。といっても30年以上前のことなので時系列があやふやなのだが……たしか『ランボー3 怒りのアフガン』の公開後、「次のランボーは南米の麻薬カルテルを相手に戦う」と書かれていた。全く想像のつかない内容に、驚いた記憶がある。そして、それは立ち消えになり、その作品はいつしかランボーでなく『エクスキューショナー』に変わっていた。たしか、『スクリーン』は決定事項のように書いていた。
「エクスキューショナー」という言葉の意味は分からなかったが、その響きのカッコ良さもあり、スタローンがどう麻薬カルテルと戦うのかが楽しみになっていた。
そして、しばらくしてスタローンの最新作のスチール写真が誌面に掲載された。それは、薄汚い服装のスタローンがぬかるんだグラウンドで泥だらけになりながらラグビーをしている……という写真だった。そのあまりに地味でむさくるしい感じと、『エクスキューショナー』とが大きく離れていて、かなり驚いた。
タイトルも大きく異なっていた。『ロックアップ』。これまた、よく分からない言葉だった。
そして公開が迫る89年の終わりらへんの号で、全貌が明らかになった。
地獄のような刑務所に収監されたスタローンが、過去に因縁のある所長から酷い目に遭いながらも戦い抜き、最後は脱獄を図る……というもの。麻薬カルテルとの戦いより、遥かに面白そうだった。
で、公開初日に観た。素晴らしかった。不屈のスタローンと、彼に感化されて共に戦うようになる仲間たち。ドナルド・サザーランドの所長の憎々しさ。その所長の言いなりにスタローンたちをイジメ抜く看守たちと囚人たち。汗臭く、泥臭く、男臭い。スタローン映画の煮凝りのような内容に、心がときめいた。
この年の正月映画は『バットマン』『バック・トゥザ・フューチャーPART2』『ゴーストバスターズ2』というSF大作が目白押しだったが、そこにこのむさくるしい作品をぶつけてくるスタローンに、改めてほれ込んだ。
『ランボー』最新作で彷彿とさせる、あの時の伏線
あれから30年以上の年月が経ち、2020年6月、『ランボー』のシリーズ最新作『ラスト・ブラッド』が公開された。今度の相手はメキシコのカルテル。ランボーの戦い方はまさに処刑人……英語にすると「エクスキューショナー」。
スタローン、あの時の伏線をここで回収してきたか──!
と、勝手な妄想に浸りながら、当時のワクワク感を思い出していた。
関連情報
『ロックアップ』
価格 Blu-ray¥2,000+税
発売元・販売元 株式会社KADOKAWA
(C) 1989 STUDIOCANAL
プロフィール
春日太一(かすが・たいち)
1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』『仁義なき日本沈没―東宝VS.東映の戦後サバイバル』『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代』など多数。近著に『泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと』(文藝春秋)がある。