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いま、最高の一本に出会える

『骨と十字架』の出演者。後列左から小林 隆、神農直隆、近藤芳正、前列左から佐藤祐基、伊達 暁

注目の劇作家・野木萌葱が初の新国立劇場で描いた『骨と十字架』とは

ぴあ

19/7/10(水) 12:00

新国立劇場の2018/2019演劇シーズン、そのラストを飾る舞台『骨と十字架』(作=野木萌葱、演出=小川絵梨子)が7月11日(木)、小劇場にて開幕する。芸術監督である小川の依頼で、野木が初めて新国立劇場に書き下ろした、男優5人(神農直隆、小林隆、伊達暁、佐藤祐基、近藤芳正)による会話劇だ。主宰する劇団パラドックス定数のほか、外部への戯曲提供でも注目される野木の劇作の持ち味は、緊張と興奮をあおる小気味の良い言葉の応酬。実在の事件や人物を題材に、言葉によって増幅する臨場感が、独創性あふれるフィクションを骨太に立ち上げる。そんな流麗な会話を生み出すご当人は、実に慎重に、穏やかに、言葉少なに自作を見つめる慎ましい人だ。

「最初に依頼のメールをいただいた時は、宛先を間違えていらっしゃるのでは!? 私でいいのか、できるのか!?とプレッシャーを感じましたね。小川さんからはとくに細かい要望などはなく、ただ『“ディストピア”を題材にして、お願いします』という言葉をいただきました」

劇作の糸口は、主に図書館で見つかることが多いそうだ。今回の物語の中心人物、カトリック司祭であり古生物学者であるピエール・テイヤール・ド・シャルダンも、図書館で手にした一冊が初めての出会いだった。「本を読んで、うわ、これは手強いわ、でも興味が沸いてしまったな…と思ったんですね。出会ったな、という感覚でした」。

キリスト教的進化論を提唱し、当時、進化論を認めていなかったローマ教皇庁から教義に反する異端者と責められるテイヤール。後に北京原人を発見して脚光を浴びるこのフランス人学者を題材に、野木の中でドラマが走り出した。ある人間の、迫害に屈することなく信仰と学問に向けて貫いた信念、その生き様が、彼を取り巻く人々との躍動感あふれるやりとりから浮かび上がってくる。テイヤール(神農)と、彼を心配する弟子リュバック(佐藤)、鋭利な視点で彼に助言する司祭リサン(伊達)、コトを穏便に済ませたいイエズス会総長(小林)、そして執拗にテイヤールを糾弾する検邪聖省の司祭ラグランジュ(近藤)。5人の実在するキャラクターの見事な配置、その物語展開は綿密なプロットから生まれたものと早合点したが、野木は笑顔で首を振った。

「とくに“これを書こう”と準備してはいないんですね。今回も、学問と宗教の狭間にいた、一人の司祭の姿を描こう!と最初に思ったわけではなくて……。登場人物も、この人はこういう人と決めることはしていません。強いて言えば、書きながら人物が勝手に動き出す……、その感覚は強いと思います。……ってそんな人物が動いて、書くなんて言ったら、瞬殺で台本が上がると思うんですが、それはありえない(笑)。もちろん迷走もします。言葉にすることから逃げているわけではないのですが、書いている瞬間は、自分でも捉えきれていないところがありますね。私がお芝居で“素敵だな”と思うのは、俳優さん同士の“あいだ”に生まれるものなんです。なので、テイヤールという人がいた。その周りの4人が、関わりたくもないのに、関わらざるを得なくなった。そうして4人それぞれが変わっていき、テイヤール自身にも変化が訪れる。あくまでも、その“あいだ”に目が行くんですよね」

神懸かり的な創作過程に興味は尽きないが、控えめな語り口は、すでに台本は現場に託した、そんな潔い姿勢ゆえのものかもしれない。「稽古場には、台本を読むところまでは同席しました。小川さんが「これ」とか「それ」といった言葉がどこにかかるのか、そういった細かいところまで丁寧に読み解いていくのを見て、おお〜、自分ではそこまで考えが及ばなかった!と気付かされることばかりでしたね。立ち稽古になってからは、もう見ていません。お呼ばれしたら伺うかもしれないけど、自分から図々しくは行けないだろ、と(笑)。もうこのお芝居は役者さんのもの、スタッフさんのものですから」。

それでも稽古が佳境に差し掛かった頃に、稽古場に立てられたセットを目にして心ときめいたという。「わあ〜!って反応になりました(笑)。最初の本読みの段階で、すでにすごいな!って思うセットが立っていたんですが、それがさらにグレードアップしていましたので!」。

生きた言葉を鮮やかに生み出す作家、野木が望むのは、人間同士の関係性を目の当たりにすること。その“あいだ”の妙を、徹底して戯曲を探る小川演出のもと、巧者揃いの男優陣がどう表すか、確かめたい。

取材・文:上野紀子

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