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ハルカトミユキ、ベストアルバムに刻んだ成長と変わらぬ軸「強くなった2人の姿を見せていきたい」

リアルサウンド

19/5/30(木) 17:00

 ハルカトミユキが初のベストアルバム『BEST 2012-2019』を発表する。デビューからの7年の歩みの中から厳選された全32曲を「Honesty」と「Madness」というコンセプトで振り分けた2枚組に加え、初回盤はデビュー以前の初期音源も収録した3枚組となり、彼女たちの歴史が凝縮された作品となっている。ミュージシャンとしての、表現者としての、人間としての成長を刻んだ本作を、今だからこそ話せる2人の言葉とともに掘り下げることで、ハルカトミユキが体現する“肯定のストーリー”を追った。

ベストアルバムリリースのきっかけは「17才」

 もしかしたら、ハルカトミユキの活動を注視しているファンの中には、「なぜこのタイミングでベストアルバム?」と疑問を持った人もいるかもしれない。2017年に彼女たちの真骨頂とも言うべき“怒り”を明示した3rdアルバム『溜息の断面図』を発表した後、2018年は『解体新章』と銘打ったツアーを行い、積極的に新曲を披露していただけに、「今過去を振り返る必要があるのか?」と考えるのは自然なことではある。しかし、本作のリリースは必然のタイミングだったと言っていい。その鍵となったのは、昨年初のアニメ主題歌としてリリースされたシングル、ミユキ作曲のポップナンバー「17才」の存在だ。

「これまでも何度かベストの話が出たことはあったんですけど、いつも『このタイミングで出してもなあ』という気持ちだったんです。ただ、『17才』を出して、『アニメで初めて知りました』って、これまでとは違う人たちがライブに来てくれるようになったんですよ。まだまだ自分たちの音楽は届き切ってないと思うし、だったらこのタイミングで、後ろ向きな意味ではなく、再デビューくらいの気持ちでベストを出そうと思ったんです」(ハルカ)

「私も『17才』がなかったら、ベストは出してないと思います。もちろん、今までのファンの方にも聴いてほしいけど、新しいファンの方に改めて自己紹介するためのベストでもあると思っています」(ミユキ)

 過去の集積であると同時に、彼女たちにとっての新たな名刺代わりとなるベストアルバム。これまでの楽曲を改めて振り返ることは、もう一度自分たちを“解体”することに繋がり、本格的な新章をスタートさせるための通過儀礼にもなった。

「これまで自分たちの音楽を聴き直す機会って、あんまりなかったんです。楽しいときにできた曲もあれば、きついときにできた曲もあるから、そういう曲はあんまり聴きたくないし、ライブでもやらなくなるし。でも、今回意外とフラットに聴けて、どの曲も聴いてほしいと素直に思えたんです。そういう自分の変化にも気づけたし、その一方で、初期のデモ音源から一貫して変わらないものがあることにも気づけました」(ミユキ)

「『17才』で私たちのことを知ってくれて、遡って昔の曲も聴いてくれた人の中には、『この人たち、他の曲はこういう感じじゃないんだ』って思った人と、『ダークサイドもめっちゃ好き』って思った人と、両方いたんですよね。私とミユキが作る曲は全然違うし、自分たちの中に相反する側面があるのはわかってるけど、それでもずっと変わらない軸みたいなものはきっとあると思うので、このベストを通じて『この人たちが歌でやりたいことはこういうことなんだ』って伝わるといいなと思ってます」(ハルカ)

「“狂えなさ”みたいなのは、ずっと変わらずにある」(ハルカ)

 ハルカトミユキの一貫して変わることのない軸。それを確かめるために、彼女たちのこれまでを振り返ってみよう。大学の音楽サークルで出会い、Nirvanaの話題で意気投合した“違うのに、似た者同士”の2人がインディーズデビューを果たしたのは、大学卒業後間もない2012年。フォーク、パンク、あるいは短歌の影響を受け、20歳前後の若者の誰しもが感じる怒りや苛立ちを比喩的に表現し、絶望の先で希望を見出そうとするハルカの鋭利な歌詞と、オルタナティブなサウンドの組み合わせが大きな話題を呼んだ。

 五七五七七調のタイトルもインパクト大の『虚言者が夜明けを告げる。僕達が、いつまでも黙っていると思うな』、『真夜中の言葉は青い毒になり、鈍る世界にヒヤリと刺さる。』という2枚のEP、メジャーデビュー作となった1stアルバム『シアノタイプ』を立て続けに発表すると、一部では“ゆとり世代の逆襲”とも言われ、彼女たちの存在は音楽シーンに広く知れ渡ることとなる。そんな2人が最初に表現の根幹を示したのが、〈狂えない 狂ってしまえない どんなに寂しくても〉と歌う「Vanilla」だった。

「怒ってたり、苦しんでたり、感情はいろいろですけど、私たちの歌は絶対狂えない人の歌なんです。根本にある“狂えなさ”みたいなのは、ずっと変わらずにあると思う。どちらにも行けない、“逃れられなさ”みたいな感覚がずっとあって、でもそれってみんなどこかに抱えてる感覚だと思うから、それを言葉にしたい。振り切れない何かをずっと書いてきたつもりだし、私も含めたそういう人たちの歌を歌ってきたつもりです」(ハルカ)

 狂ってしまえない、普通の人々を肯定するということ。それは〈僕らの夜に出口はなかった〉と歌う「ドライアイス」や、〈少しだけ未来のこと期待してしまうから/できるだけ気づかれないように笑った〉と歌う「シアノタイプ」のような初期の代表曲にも表れていたし、それ以前に“ハルカトミユキ”という普通過ぎて逆に違和感すらあるネーミングセンスにも表れていた。しかし、2人が足を踏み入れたのは“スターシステム”が残存する世界であり、求められたのは、決して普通ではない、カリスマチックなアーティスト像。まだ20代前半だった2人はその差異に苦しみ、3枚目のEP『そんなことどうだっていい、この歌を君が好きだと言ってくれたら。』のリリース後、一時の活動休止を余儀なくされる。

「言葉は違えど、求められたのは“狂え”っていうことだったと思うんです。実際、それができる人がスターになってるのかもしれないけど、私はやっぱり狂えないスターが好きだったし、私もそうなりたかった。でも求められるのはそうじゃなかったから、それはアーティストしても、生きる上でもつらかったんですよね。歌詞に関しても、求められたのは“わかりやすさ”で、怒ってるなら狂ったように怒ってるとか、その方が目立つのはわかるんだけど……でもそうじゃないって気持ちがずっとありました」(ハルカ)

 「わかりやすさ」は言葉だけではなく、ライブにおいても求められていた。2010年代前半はフェスが市民権を獲得するまでに成長し、一体になって盛り上がることが重要視された時代だった。しかし、ハルカの送ったデモテープをきっかけにデビューが決まり、その後に初めてバンド編成でのライブをスタートさせたハルカトミユキにとって、ライブハウス叩き上げのバンドたちと同じ土俵に上がることは決して簡単ではなかった。自身の表現に悩んだハルカと同様に、ミユキもまた「何をやりたいのかわからなくなった」と振り返る。

「フェスのわかりやすいノリに対して、自分たちの曲がそういう曲ではないとわかりつつ、無理やり盛り上げようとしてみたり……でもそんなことばっかりやってたら、自分自身がなくなってしまう。当時はとりあえず一生懸命やっていれば、いつか日の目を浴びるはずと思ってやってたけど……」(ミユキ)

「やっと自分で自分を“ミュージシャン”って言える」(ミユキ)

 2015年の活動再開後、休止の反動からか、2人は一気に全速力で駆け出すこととなる。12カ月連続の新曲配信リリース、日比谷野音でのフリーライブ(自らチケットの手配りも行った)、さらには、47都道府県ライブ。動き続けることで、自らの殻を破り、状況の打開を図る中、「17才」にも通じる光量の多いポップサイドの原点とも言うべき「世界」が生まれたり、外部のプロデューサーとのコラボによって、テクノ路線のフィジカルなダンスナンバーを完成させたりと、新境地を開拓した。また、『ひとり×3000』という野音フリーライブのタイトルは、普通の一人ひとりの側に立つことを改めて宣言するものであり、〈ひとりで生きる勇気 君に。〉と歌う「肯定する」は、この時期のテーマソングとなった。

 しかし、“ゆとり世代の逆襲”という言葉に象徴される「外見はクールだが、中身は熱い」というアーティストイメージから、熱量むき出しの活動スタイルへと変化していったことに、彼女たち自身が戸惑い、葛藤を抱えていたことは想像に難くない。2人は「今になってやっと、あの時期が大事だったと思える」と話しながらも、「正直仲は悪かった」と笑う。

「ミユキはミユキのしんどさがあったと思うけど、当時は歌詞も曲も基本的には私が作っていたので、それで精いっぱいでした。でも、私が『もうやめたい』って言ったときに止めてくれたのは、ミユキだったんですよ。しんどいながらも、『どうにかしなきゃ』って気持ちがあったんだろうなって。あれがなかったら、ホントにやめてたと思う」(ハルカ)

「実際途中まで作曲に関しては任せちゃってる部分があったし、ハルカからしたら、『こいつ何にもやんねえな』って思ってたと思うんです(笑)。もちろん、私も曲作りに貢献したいと思いつつ、でもなかなか上手くできなくて、いろいろ悩んでたときに……フレディ・マーキュリーに出会ったんですよ。音楽性というよりも、人が持ってるパワーに動かされて、もう一度自分のルーツを辿り、自分が好きなものを再確認したら、曲を作る自信が出てきたんです。なので、あの出会いがなかったら、私が『やめる』ってなってたと思う。そこから2人のコミュニケーションが増えて、新たに信頼が生まれたのかなって」(ミユキ)

 こうして逡巡の季節を通り過ぎると、2016年にミユキがソングライティングの面でも大きな貢献を果たした2ndアルバム『LOVELESS / ARTLESS』を完成させ、2度目の日比谷野音公演を成功させた(ちなみに、ミユキのQueen好きはファンの間ではよく知られていたことだが、昨年は『ボヘミアン・ラプソディ』を3回観に行ったそう)。

ハルカトミユキの表現と時代がアジャストした2017年

 2010年代も後半に突入すると、様々な価値観が緩やかに変化の兆しを見せ始める。ロックフェスの画一的な盛り上がりに疑問符が投げかけられ、“同調圧力”がたびたび議論の的になったのがこの頃。また、2010年代前半においては、自由に自分の意見を発表できる場所だったはずのSNSが、度重なる炎上騒ぎや言葉狩りによって、言いたいことを言えない場所にもなっていた。そんなタイミングだからこそ、2017年に発表された3rdアルバム『溜息の断面図』が再び“怒り”を題材とした作品だったことには意味があった。〈白か黒しかわからない 想像力のない奴ら〉〈どうせ言ってもわからない 言葉を飲み込めば思う壺〉と歌う「わらべうた」は、ハルカトミユキの表現が時代とアジャストしたことを物語る。

「『溜息の断面図』には昔書いた曲をもう一度アレンジし直して入れたりもしていて、初期にやりたかったことをアップデートしてできた作品というイメージなんです。なので、時代を意識してというよりは、『ずっと言いたかったことがやっと言えた』みたいな感覚なんですよね。昔は言いたいことだけが先走ってたけど、それをちゃんと音楽にできたっていう達成感も大きかったです」(ハルカ)

「結成当時から怒りや葛藤を音楽にしたくて、でも感情と本能のままにやることしかできないから、ライブではとにかくノイズを出したりしてて。でも、『終わりの始まり』とかは、その頃の感覚をちゃんと音楽として表現できたと思います。2ndアルバムのときはまだ衝動的な部分が大きかったけど、3rdアルバムは自分のやりたいことが曲に落とし込めたので、やっと自分で自分を“ミュージシャン”って言えるかなって」(ミユキ)

 結成時からの“怒り”を音楽作品に初めて昇華させ、ミュージシャンとしての成長を確かに刻んだ『溜息の断面図』には、同時に〈青いままの春 今も続いてる〉と歌い、大人になり切れなかった自分を肯定する「宝物」が収録されている。それは誰しもがステレオタイプな“大人”という型にハマる必要なく、“特別”である理由もなく、あるがままに生きることを肯定しようとする、多様性の時代の賛歌のようにも聴こえる。「自分は自分にしかなれない」という絶望が、「自分は他の誰でもない自分である」という希望に到達した瞬間だ。

“普通であることを肯定する”、ハルカトミユキの軸

 さて、もう一度ベストアルバムの話に戻ろう。Disc 2の1曲目には、本作のために書き下ろされた唯一の新曲「二十歳の僕らは澄みきっていた」が収録されている。近年はソングライティングの分業化が進んでいたが、この曲のクレジットを見ると、デビュー当時に多かった「作曲:ハルカトミユキ」という記載に。しかし、ハルカがシンガーソングライター的に書いた曲に、ミユキがシンセを加えていた初期の作曲とは違い、ここには新たな可能性の萌芽が生まれている。

「この曲は2人が別々に作っていた曲を合体させたんです。ミユキが作っていたポップ寄りの曲に対して、私は表題にはならないであろう変な曲を作ってたんですけど、ミユキの曲のサビを私の曲のサビに変えたら不思議なハマり方をして、面白い曲になったんですよね。分業もいいんですけど、理想としては2人で作るのがいいと思うんです。これまでは『曲と歌詞』という形で補い合ってたけど、曲自体を補い合えたらもっと強いから、新しいことができそうな予感が感じられる曲になりました」(ハルカ)

「昔はわかりやすく変なことをやろうとしてるのが私で、『クールに見えて、中身は変』っていうのがハルカだったけど、今は逆になってきてるんですよね。この曲ができたときもそう思って、私はもともとポップな曲の方が書きやすいし、本来の形はこっちなんじゃないかって思ったりもしました」(ミユキ)

 2人がこれまでに共有してきた固有名詞を並べ、〈他愛なく君と話した 悪口だけが希望だったよ〉〈寝っころがって夢をなぞった 怒りと若さのやり場を探して〉と歌うこの曲は、ハルカトミユキの結成当初、20歳の頃を振り返るような曲である。そして特に重要なのが、〈それでもいいよ、と許されたくて 正気のままで愛されたくて〉という最後のラインだ。

「『17才』があってこその今回のベストだから、そこから進んだ20歳の気持ちを書きたいと思いつつ、でもそれを今のこととして歌いたかったんです。それこそ、ちょうど『Vanilla』を書いたのが20歳くらいなので、あの“狂えなさ”を改めて言葉にしたらどうなるのかなって考えながら、この曲を書きました。『17才』で私たちのことを知ってくれた人に対して、どんな風にアイデンティティを示そうかと思ったときに、オープンではいたいけど、ちゃんと本質をわかってほしくて、こういう曲になったんです」(ハルカ)

 「どんなに寂しくても、狂ってしまえない」と強く訴えた「Vanilla」に対し、「正気のままで、愛してほしい」と素直に綴った「二十歳の僕らは澄みきっていた」。普通であることを、そのままの自分であることを肯定することが、今も昔も変わることのないハルカトミユキの軸であると、この2曲は確かに証明している。仄かな希望も消えない悲しみも連れて、でも昔よりも遥かに自然体で、今の2人はそれを表現できるようになった。

 大学時代から数えればすでに10年以上の付き合いとなる2人だが、今年初めて2人きりで旅行をして、ロンドンに一週間滞在したという。ハルカとミユキがそれぞれ自分自身を肯定した先で、今度はバンドでもシンガーソングライターでもない、“2人”であることを受け入れ、見つめ直すことにより、視界の先が今また開けつつある。

「最初はずっと2人だったから、もともとバンドに憧れがあって、実際バンドのライブは楽しかったし、いろんなことができて、自由度も上がったんですよね。でも、去年2人で『解体新章』のツアーを回ったときに、改めて2人でできることをいろいろ試したら、むしろこっちの方が自由度が高いんじゃないかと思ったりして。なので、今は2人だけのライブをもっとやりたいんですよね」(ミユキ)

「私もどこかしらバンドに対して劣等感があったというか、『2人でやるしかない』とか『できればバンドのときを見てほしい』と思うこともあったんですけど、今はそういう気持ちがなくなってきていて。もともと2人だったわけだし、そこから一周回って、この2人でできることが絶対増えてるはずだから、そこを突き詰めたい。このベストで再デビューして、ここから先は強くなった2人の姿を見せていきたいと思っています」(ハルカ)

(取材・文=金子厚武/写真=中村ナリコ)

■リリース情報
AL『BEST 2012-2019』
5月29日(水)発売
全曲試聴はこちら
<収録曲>
Disc-1: Honesty
1 17才
2  世界
3  光れ
4  どうせ価値無き命なら (新録)
5  ヨーグルト・ホリック
6  シアノタイプ
7  春の雨
8   Vanilla
9   夜明けの月
10   ドライアイス
11   肯定する
12   宝物
13   感情七号線
14   種を蒔く人
15   手紙
16   LIFE 2 (新録)

Disc-2: Madness
1   二十歳の僕らは澄みきっていた (新録)
2   ニュートンの林檎
3   振り出しに戻る
4   Hate you
5   インスタントラブ
6   マネキン
7   その日が来たら
8   Pain
9   奇跡を祈ることはもうしない
10   絶望ごっこ
11   わらべうた
12   バッドエンドの続きを
13   DRAG & HUG
14   近眼のゾンビ
15   青い夜更け
16   終わりの始まり

Disc-3: Early Years
*初回限定盤のみ *現在入手困難な超初期音源「DEMO」シリーズを完全網羅
1   夏のうた
2   僕達は(from 1st DEMO)
3   アパート
4   空
5   水槽
6   僕達は(from 2nd DEMO)
7   マゼンタ
8   MONDAY
9   POOL
10   385

■ツアー情報
『ハルカトミユキ BAND TOUR 2019』
2019年6月7日(金)大阪・梅田shangri-La
open 18:30 / start 19:00
info:清水音泉 06-6357-3666

2019年6月8日(土)愛知・名古屋APOLLO BASE
open 17:00 / start 17:30
info:サンデーフォークプロモーション(名古屋) 052-320-9100

2019年6月15日(土)東京・渋谷CLUB QUATTRO
open 16:15 / start 17:00
info:DISK GARAGE 050-5533-0888 

チケット代 4,500円(ドリンク代別)  発売中

詳細はこちら

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