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石崎ひゅーいはなぜ名曲を生み出し続けられるのか? 新曲「パレード」からも感じる“リアル”さが核に

リアルサウンド

20/3/11(水) 20:00

 どこかのテレビ番組で語られていたのだが、今の若い世代には、恋愛をしたくないと思っている人が多いそうだ。恋愛関係になることで、あるいは後にそれが壊れてしまうことで、友達でいられなくなるのがいやだから、というのが理由らしい。プロセスが面倒という理由もあった。また、男性には体の関係を持ちたくないと考えている人が多いという話も、聞いたことがある。理由はやはり、面倒だから。それに、なんだか不潔な感じがするからだそうで。

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 生きてきた時間や経験が違えば、考え方が違うのも当たり前だと思う。しかし、それにしても、これはにわかには信じ難い。居ても立っても居られなくなるほど人を好きになったり、よからぬ想像やら妄想やら欲求やらで、頭がパンクしそうになったりするのが、“青春”っていうやつじゃなかったのか。そうではないのか……。

 だから、新世代/次世代アクトのラブソングやブレイクアップソングには、美麗で、スマートで、クールでカッコいい作品が多いのだろうか。先述したような青春時代だったせいか、僕にはたとえば〈あなたの両腕を切り落として私の腰に巻き付ければ あなたはもう二度と他の女を抱けないわ(あいみょん「貴方解剖純愛歌~死ね~」)〉と身も蓋もなく歌われたほうが、圧倒的に胸に突き刺さる。

 さて、そこで石崎ひゅーいである。「花瓶の花」という楽曲のストレートさ、ダイレクトさは、もはや衝撃的と言ってもいいくらいだった。優しくも力強いメロディに乗せて、石崎ひゅーいは〈何年も何十年も何百年も君を探していたんだ〉と、そして続けざまに、何千年を飛び越えて〈何万年も前からずっと探していたんだ〉と歌うのだ。さらにラストには「ベイビー! ベイビー! ベイベー!」と叫ぶのだから、ロックファンにはたまらない。蒼井優が出演して話題のミュージックビデオも秀逸で、楽曲の世界を見事に映像化している。

 この「花瓶の花」は実話が元になっていて、石崎ひゅーいの地元の友達が結婚すると決まった時に、馴れ初めから話を聞いてプレゼントした楽曲なのだとか。結婚式当日には、サプライズで新婦に向けて歌ったそう。フィクションではない、つまり、お涙頂戴的に狙って書かれた楽曲ではなく、ミュージックビデオもそれをそのまま映像にした作品というわけだ。僕が初めて聴いた時こそ衝撃を覚えたものの、聴くほどに安らぎや、どこか懐かしい温かさを感じるのは、そのことと関係があるのかもしれない。

 もうひとつ、「ピリオド」という楽曲に触れないわけにはいかない。ミュージックビデオでは、友人でもある菅田将暉が圧巻の演技で魅せるこの曲。ピアノとストリングスがたおやかに共鳴する中で、石崎ひゅーいは〈僕を撃ち殺して〉と歌う。そして、撃ち殺したならば〈ぎゅっと抱きしめて、そのまま君のこめかみに突きつけて、撃て〉と歌うのだ。このバッドエンド感に痛いほど共感してしまうのは、僕だけだろうか。いずれにしても、ここまであからさまに、赤裸々に恋愛感情を吐露する同世代の男性シンガーソングライターの楽曲を、僕はほかに知らない。

 そして、フィジカルシングルとしては約3年半ぶりに届いた「パレード」。「花瓶の花」や「ピリオド」とは一線を画した、華やかでキラキラしたサウンドと、フックが効いたキャッチーなメロディを聴かせる。歌詞にも〈銀河鉄道〉や〈星〉〈神様〉などの言葉が出てきて、ドリーミーでファンタジックな雰囲気が醸し出されている。

 しかしながら、それで終わらないというか、決して空想の産物にはなってしまわないのは、〈永遠なんて信じる価値もない〉〈またいつか会えたなら〉といったフレーズで、“こっち側”に引き戻されるからだと思う。石崎ひゅーいは、きれいごとを歌わないのだ。そう思えてならない。

 きれいな楽曲を書くけれどきれいごとは歌わない。彼の表現の核にあるのは、“リアル”なのだから。本稿のテーマに掲げられている“石崎ひゅーいはなぜ名曲を生み出し続けられるのか”に対する答えを、僕にはとても特定することはできない。でもその“リアル”というのが、ひとつのカギのような気がする。

 取って付けたようになって申し訳ないのだけれど、すべては、まさに魂の声と言うべき石崎ひゅーいのボーカルがあってこそと、最後に付け加えておきたい。(鈴木宏和)

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